最終手段
カサブランカに散々言われるのは癪だが、僕は改めて状況を整理する。
レオナルド達は僕たちに加勢できない。
僕たちの戦力は――実質、マザーグースの一族のみ。一応、カサブランカもロンロンの呪いで強制的に味方側についているが。信用してない。
コイツは味方であって、味方じゃない。
僕やレオナルドに味方する必要がないのだから。
対して、敵は物量作戦で物言わせる『太古の揺り籠』。
素材収集担当や生産担当、二流三流を含めた戦闘部隊を考慮すれば、圧倒的な差。加えて、まだ姿が無いものの、彼等の背後に存在感があるアーサーら、妖怪達。
僕は考える。
現在の打破ではなく、今後の、未来を。
マザーグースの処まで逃げ込めば終わるのか。
終わらずとも、今後、あの数で毎度毎度僕達を、正確には僕を狙って襲撃されてはギルドも設立してない僕の身でどうこうできない。
ギルドに所属してなくても、と考える希望はないと見ていい。
個人プレイヤーでこの状況を突破できるなら、それはそれでパワーバランスが崩壊している。
と、なれば……
リジーが不安そうに「ルイス?」と僕に声かける。
僕は安心させるように話す。
「ああ、大丈夫だよ。僕なりの結論を出したからね」
僕は深く溜息を吐いてから、メニュー画面を開いてヘルプをタップした。
このようなワールドイベントと呼ぶべきか、特殊なイベント中には受け付けないのか分からなかったが。
ストーリーで登場する妖精『しき』とは異なる少女の妖精が出現。『どうされましたか?』と可愛らしい声色で喋った。
率直に僕は尋ねる。
「僕がアカウントを消去した場合、妖怪関連のイベントはどういう処理になりますか?」
アカウント消去にだけ過激な反応をする妖精。
『アカウントの消去ですか!? 消去しましたら二度とデータは復旧できません! 当運営も責任を負いませんよ!?』
「……アカウントを消去した場合の話をしているんです。もう一度言います、アカウントを消去した場合、妖怪関連のイベント処理はどうなりますか」
落ち着いた妖精は、安堵した後、しっかりと説明を始めた。
『アカウント消去されたプレイヤーにバックストーリーのイベントが進行していた場合、NPC達には記憶処理され、該当プレイヤーは死亡扱いされます』
「ということは、僕と共にイベントを進行したレオナルド……プレイヤーの影響は」
『ございません。通常通り、マイルームもしくは経営店に妖怪達は出現し、イベントを進行する事が可能です』
「現在進行形中のイベントの処理は?」
『イベントの内容によりますが、一部イベント進展がリセット。またはイベント自体が無くなります』
……成程。
僕がアカウントを消してしまえば事が済む。
僕以外にも、レオナルドも場合によってはアカウント消去をする必要はあるかもしれない。
というのも、現在の状況は相当詰んでいる。
何かの形で今のイベントをクリアしても、僕たちに向けられるヘイトは強まるだろう。
結果として、僕のせいで店を失ったり、通り魔的にPKされたり……散々な二次被害が起きているのは明白。
これで『太古の揺り籠』が僕に対し責任と称して、ギルド傘下に加われと世間を味方にし、僕個人をバッシングすれば、多少の正当化が利く。
今回の騒動が、僕個人がアーサーをたぶらかし『太古の揺り籠』を陥れようとしたなどと被害者顔すれば、火に油を注いで、前回のアイドル騒動よろしく僕個人だけが悪者扱いまっしぐら。
僕が今、アカウント消去を強行すれば逃げた事を非難される。
レオナルド達にも火の粉が降りかかる。
何したって駄目な状況だ。
だから、レオナルドもアカウントを消した方がいいかも知れない。
流石にバトルロイヤルまでは、本人も消去しないだろうけど。
ただ、ここまで派手にやらかしておいて、僕達が逃げては向こうも黙っちゃいないだろう。
黒い噂が何処まで真実か。
全て真実であっても、その時は父親を使えば良い。
……レオナルドは擁護しないが。
ここまでは、アカウント消去前提の話。
まだ、可能性が残されているとすればーー誰に責任を押し付けるべきか。
「まだ動かないつもりですか? 見えて来ましたよ」
カサブランカが凛然な姿勢で呼びかけてくる。
その視線の先には、遠方より迫る飛行船たちだった。
僕は感情を抑えてから口開く。
「この状況。運営側に責任を負わせなければ、僕達にヘイトが向けられるのは目に見えてるんです」
このイベントそのものが失敗だと運営に責任を負わせればいい。
しかし、一体どうやって?
それこそ、サーバーダウンしかない。
ただ、相当の処理を可能とするサーバーを落とすのは中々苦労するし、協力するプレイヤーも、リアルの味方もいない。
いや……これは逆に利用してやるしかない。
この状況を。
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