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自滅


 店内にいる妖怪達は驚愕を隠せないのは当然か。

 ロンロンは、それほど人間を度外視している。人間は()()()()()程度の認知。

 良くも悪くも妖怪の鏡だった奴が、どういう風の吹き回しか。人間を呪っているとは。


 そして、奴と共にいるのは――カサブランカだ。

 服装は何一つ変わっていない。

 シンプルが過ぎて飾り気どころか個性もない。ファッションに無関心なのが分かる。


 装備しているのはイベントで目にした季節石で作られた大鋏。

 多少、装飾が加わっている。

 あそこで太古の揺り籠を含めたプレイヤー達を待ち構えているんだろうか。


 奴が一番乗りであそこにいるのは、ロンロンの呪い関係で強制的に飛ばされた可能性が高そうだ。


 すると、ジャバウォックが石橋に近づこうと操縦し始めた。

 ロンロンの特性を知ると危険を伴う行為だが、バンダースナッチが僕の心配を察してか「ジャバウォックがいるから平気だ」と先に言う。

 忌まわしい石橋の上にワンダーラビットが着地すると、当のロンロン本人は饒舌に話しかける。


『おやおやおや! これは揃いも揃って!! 一体どうなさいましたか?』


 窓越しから「どうもないわよ!」とメリーが叫ぶ。


「人間を呪うなんて本格的に精神がどうかしちゃったワケ!?」


『あぁ、そんな小さな事が気になってわざわざ? 随分と能天気な方達で、私の方が参ってしまいます。ホラ、彼らに何か言ってやりなさい』


 ロンロンが大手振るってカサブランカに指図する。

 カサブランカは、嫌々。というより、ツカツカ近づいたかと思えば、窓越しから僕らに視線を向けた。

 一瞬、僕と目が合ったような気がした。

 コイツは僕に興味がないから、違うだろうと思っていたが。


 次の台詞で、そうだったと知る。


「―――貴方。()()()()()()()()()()()?」


 ………………………………………………………………………?

 一瞬、こいつは何を言っているんだと口に出しそうだった。

 僕と共にいる妖怪達も、カサブランカの開口一番に困惑を隠せずにいる。

 カサブランカは、心底呆れたように話を続けた。


「前回の神隠しイベントで火炎瓶による自害をしてましたよね。あれと同じ事をすれば、この面倒なイベントはとっくの昔に終わっているんですよ。分かりますか?」


 ………………………………………………

 コイツは本気でそう告げてきた。

 流石の内容に、誰も彼も黙るかと思えば、ロンロンだけがゲラゲラと下品に笑い声を吐く。


『はっはははは! 聞きましたか? 今の! 合理的ですけど、他者の考慮なんて一切合切してませんよ!! はははははは!!』


 カサブランカが怪訝そうな表情を作って言ってくる。


「まさか、ゲームの世界観を楽しみたいからなんて、馬鹿げたもので躊躇してましたか? そんな訳ないでしょう。貴方、頭が回るように見えて、賢くないようです。頭スカスカなんですね。何も考えてないんですね」


 コイツ……

 気持ちを抑えながら、僕は反論した。


「下手な自滅は危険です。イベント失敗の処理をされてしまうかもしれません」


 確かにそれで済むなら、僕だってそうしたい。

 勝負から逃げた事で僕の望まない展開になっては、どうしようもない。

 僕の言い分を聞いた上で、カサブランカは心底呆れたように息を吐く。


「また新しくアカウントを作り直せばいいだけじゃないですか。今のアバターに固執しているせいで、余計に騒動が大きく発展しているのでは?」


 固執?

 ……そうだ。錬金術師のルイスでなければならない理由は、ない。

 強いて挙げるなら、レオナルド達と再度フレンド登録し直す必要があるだけか。

 武器も店も、また作り直せばいいだけ。


 話を唖然と聞いていたボーデンが「おいおい」と慌てて言う。


「マジでやるつもりじゃねえだろうな?!」


 構わず、僕はカサブランカに問う。


「貴方はそれでいいんですか」


 奴は不思議そうに首傾げながら答えた。


「私? どうでもいいです。死ぬなら早く死んで下さい」


「いえ。貴方はプロプレイヤーと戦うのを望んでいるのかと思いまして。僕を狙っているのは、プロプレイヤーが集う『太古の揺り籠』ですよ」


 カサブランカは「ああ」と記憶を思い起こすと同時に、一蹴して見せる。


「プロと聞いて期待したのですが、とんだ肩透かしの連中ばかりですね。所詮はゲーム限定の実力だと言うことです」


「貴方が負けたムサシは?」


 僕は嫌味を込めて言ったが、奴は存外悪くない。むしろ、良いまである表情を浮かべていた。


「彼は違いますよ。全く」


 僕がカサブランカをひと睨みしてから、メニュー画面を開く。

 バンダースナッチが僕につかみかかって来た。

 彼にしては珍しい、気迫ある態度。


「待て! 本気でやるつもりか!? そんなんだから全季は引かれるんだぞ!」


 癪に触る言い回しをされたのを置いておき、僕は冷静に告げる。


「大丈夫です。ちゃんと考えて行動しますから」


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