登場
漸く、パーティ全員が揃う。
アルセーヌも、通りすがりで『太古の揺り籠』のプレイヤーを片付けたから遅れただけで、無事に不死鳥の雛を手に姿を現す。
ラザールが周囲を見渡していると、上空から黒雲に持った虎がやってきた。大人ほどの体格の虎相手に、ラザールは叱りつける。
「寅吉、戻るのおっせーぞ!」
アルセーヌが「え?何その名前」と嘲笑した。
ヘラヘラするアルセーヌに「実家の猫と同じ名前だ!」と自棄に牙向けるラザール。
喧嘩する二人を他所に、ムサシは向こう側で戦い続けている。
この状況が続いて、どれほど経っているのだろうか。レオナルドがムサシを呼び止めようとしても、接近する事すら難しい戦場だ。
そしたら、光景を観察していた光樹がこんな事を言う。
「なんや、また同じの来てません? 顔も服も同じのおりますわ。あそこ飛んでますの」
一瞬でそこを見抜けるのは光樹ぐらいだろう。
彼の呑気な指摘に対し、アルセーヌは面倒な態度で答えた。
「プレイヤー自身が離脱したらペナルティなしで、マルチに復帰できるんだよなぁ。一発でやらねぇと。ムサシがご丁寧に殺してるのは、それが理由」
確かに、そこが厄介なペナルティの抜け穴だ。
レオナルドも復帰できないように、ムサシと同じく徹底したPKを行っていたが。
賢者たちに至っては、第七魔法をぶちまかまして即撤退という戦法を取っている有り様。
魔法の抜け道を看破したレオナルドは、確実に上空で余裕かます賢者たちを殺せる確信があった。
すると、光樹が
「は? それ。自分、全然知りません。無駄骨折っとった訳やないか。はよう教えろ」
珍しく苛立った口調で言葉を吐く。
あまりの変わりように、レオナルドも皆全員が黙りこくってしまう。
細目も見開いた光樹の顔は、先程までの穏やかさの欠片もない。
手元に持て余していた剣を含めて、手持ちの武器を捨てた。
あんまりな事に、ラザールも突っ込んだ。
「おい!? 何やってんだぁ! 頭に血昇って、レオナルドの真似してんじゃねーよ!!」
レオナルドが馬鹿真面目に「いや、俺はここまでしないだろ」と呟く。
光樹は変わった剣を取り出した。
一瞬、季節石と似た素材で作ったものに見えるが、不吉なオーラを纏った異物だった。
珍しい素材かとレオナルドも思ったが、キャロルが鼻先でレオナルドを突く。それに反応し、悪寒を感じたレオナルドが視線を動かせば、腰に自動装備されている『探知炎』が青紫色に燃えた。
光樹は平然と述べる。
「アレは別に、ええです。コレ以外、全部ゴミやから。はー……初見で手間かかる言うなら、しゃあないけど。そないやったら、はよう済んでるわ」
まさかとレオナルドが問う。
「光樹さん、それ……妖怪の?」
呪い持ちの鍛冶師が作製できる妖剣、といった奴か。
不安なレオナルドを他所に、光樹は真顔で妖気の纏った剣を自らに突き立てた。
◆
「ふぁ~、疲れたー!」
ワンダーラビット号の中に、スティンクの時空間の裂け目が現れ、そこからメリーとリジー・ボーデン、クックロビン隊がどやどやと疲労困憊で登場した。
僕は回収した竜の子を体に巻きつかせた状態で、座席に腰かけながら「お疲れ」と言葉をかける。
今、店は酷く揺れていないので、簡単な菓子くらいは食べられるだろうと、メニュー画面から操作した。
一通り、僕が彼らに菓子を配り終えた頃、本命のバンダースナッチが漸く姿を見せる。
奴はかったるい様子で溜息つきながらも、普段のようにテーブル席へ突っ伏さず。
警戒心を高めたまま、状況報告を行う。
「とりあえず、地上の人間は片付いた。後方から盗賊共の乗り物が迫ってるが、追いつく頃には親父の射程範囲に入るから問題ない」
僕は「分かりました」と返事をしつつ、早速メニュー画面を開き、バンダースナッチに告げる。
「少し検査させて下さい。体内に季節が蓄積しているかもしれません」
「別に平気だろ。こんくらい……前と比べりゃ全然マシだ。まだ戦える」
「念の為です」
気乗りではない様子のバンダースナッチ。
嫌々な彼を検査する中、妖怪たちに僕は尋ねる。
「人間はいいとして、妖怪の方は?」
ボーデンは指摘されて思い出したようで「そういや」と他の者の反応を伺う。
クックロビン隊は一同に首を傾げ。
リジーとメリーも分からないように首を横へ振った。
バンダースナッチが答える。
「あっちはスティンクが警戒してる。何かありゃ知らせて来るだろーよ」
「なるほど。……やはり駄目ですね」
検査の結果。
バンダースナッチの体内に季節が蓄積していた。
無季の力を調子よく使ったのも、相まってだろう。
「しばらく安静にして欲しいところですが……まだ着きませんか」
ここから先、バンダースナッチの戦力を過信できない。
彼は不満そうに「病人じゃねーんだから」と突っ込んでいた。
すると、リジーがこの世の終わりみたいな悲鳴を上げた。
彼女はジャバウォックの操縦席にあるモニターを目にしている。
映し出されているのは、春の木々に囲まれた渓谷にある不気味ながらも、しっかり作られた石橋。
即ち、ロンロンの石橋なのだが。
「大変! どうしちゃったのかしら!! あの子、人間と一緒にいるわ!!」
しょうもない事に驚くリジー。
ロンロンの性格を踏まえるとありえない光景だ。
橋の上に、霊体のロンロンと共に人間……真っ白な女が獲物を待ち受ける構えをしている。
バンダースナッチがそれを目にすれば、重要な事実に注目した。
「あいつ、呪ってやがるのか?」
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