表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/315

登場


 漸く、パーティ全員が揃う。

 アルセーヌも、通りすがりで『太古の揺り籠』のプレイヤーを片付けたから遅れただけで、無事に不死鳥の雛を手に姿を現す。

 ラザールが周囲を見渡していると、上空から黒雲に持った虎がやってきた。大人ほどの体格の虎相手に、ラザールは叱りつける。


()()、戻るのおっせーぞ!」


 アルセーヌが「え?何その名前」と嘲笑した。

 ヘラヘラするアルセーヌに「実家の猫と同じ名前だ!」と自棄に牙向けるラザール。

 喧嘩する二人を他所に、ムサシは向こう側で戦い続けている。


 この状況が続いて、どれほど経っているのだろうか。レオナルドがムサシを呼び止めようとしても、接近する事すら難しい戦場だ。

 そしたら、光景を観察していた光樹がこんな事を言う。


「なんや、また同じの来てません? 顔も服も同じのおりますわ。あそこ飛んでますの」


 一瞬でそこを見抜けるのは光樹ぐらいだろう。

 彼の呑気な指摘に対し、アルセーヌは面倒な態度で答えた。


「プレイヤー自身が離脱したらペナルティなしで、マルチに復帰できるんだよなぁ。一発でやらねぇと。ムサシがご丁寧に殺してるのは、それが理由」


 確かに、そこが厄介なペナルティの抜け穴だ。

 レオナルドも復帰できないように、ムサシと同じく徹底したPKを行っていたが。

 賢者たちに至っては、第七魔法をぶちまかまして即撤退という戦法を取っている有り様。

 魔法の抜け道を看破したレオナルドは、確実に上空で余裕かます賢者たちを殺せる確信があった。


 すると、光樹が


「は? それ。自分、全然知りません。無駄骨折っとった訳やないか。()()()()()()


 珍しく苛立った口調で言葉を吐く。

 あまりの変わりように、レオナルドも皆全員が黙りこくってしまう。

 細目も見開いた光樹の顔は、先程までの穏やかさの欠片もない。


 手元に持て余していた剣を含めて、()()()()()()()()()()

 あんまりな事に、ラザールも突っ込んだ。


「おい!? 何やってんだぁ! 頭に血昇って、レオナルドの真似してんじゃねーよ!!」


 レオナルドが馬鹿真面目に「いや、俺はここまでしないだろ」と呟く。

 光樹は変わった剣を取り出した。

 一瞬、季節石と似た素材で作ったものに見えるが、不吉なオーラを纏った異物だった。


 珍しい素材かとレオナルドも思ったが、キャロルが鼻先でレオナルドを突く。それに反応し、悪寒を感じたレオナルドが視線を動かせば、腰に自動装備されている『探知炎』が青紫色に燃えた。

 光樹は平然と述べる。


「アレは別に、ええです。コレ以外、全部()()やから。はー……初見で手間かかる言うなら、しゃあないけど。そないやったら、はよう済んでるわ」


 まさかとレオナルドが問う。


「光樹さん、それ……()()()?」


 呪い持ちの鍛冶師が作製できる妖剣、といった奴か。

 不安なレオナルドを他所に、光樹は真顔で妖気の纏った剣を自らに突き立てた。





「ふぁ~、疲れたー!」


 ワンダーラビット号の中に、スティンクの時空間の裂け目が現れ、そこからメリーとリジー・ボーデン、クックロビン隊がどやどやと疲労困憊で登場した。

 僕は回収した竜の子を体に巻きつかせた状態で、座席に腰かけながら「お疲れ」と言葉をかける。

 今、店は酷く揺れていないので、簡単な菓子くらいは食べられるだろうと、メニュー画面から操作した。


 一通り、僕が彼らに菓子を配り終えた頃、本命のバンダースナッチが漸く姿を見せる。

 奴はかったるい様子で溜息つきながらも、普段のようにテーブル席へ突っ伏さず。

 警戒心を高めたまま、状況報告を行う。


「とりあえず、地上の人間は片付いた。後方から盗賊共の乗り物が迫ってるが、追いつく頃には親父の射程範囲に入るから問題ない」


 僕は「分かりました」と返事をしつつ、早速メニュー画面を開き、バンダースナッチに告げる。


「少し検査させて下さい。体内に季節が蓄積しているかもしれません」


「別に平気だろ。こんくらい……前と比べりゃ全然マシだ。まだ戦える」


「念の為です」


 気乗りではない様子のバンダースナッチ。

 嫌々な彼を検査する中、妖怪たちに僕は尋ねる。


「人間はいいとして、妖怪の方は?」


 ボーデンは指摘されて思い出したようで「そういや」と他の者の反応を伺う。

 クックロビン隊は一同に首を傾げ。

 リジーとメリーも分からないように首を横へ振った。

 バンダースナッチが答える。


「あっちはスティンクが警戒してる。何かありゃ知らせて来るだろーよ」


「なるほど。……やはり駄目ですね」


 検査の結果。

 バンダースナッチの体内に季節が蓄積していた。

 無季の力を調子よく使ったのも、相まってだろう。


「しばらく安静にして欲しいところですが……まだ着きませんか」


 ここから先、バンダースナッチの戦力を過信できない。

 彼は不満そうに「病人じゃねーんだから」と突っ込んでいた。

 すると、リジーがこの世の終わりみたいな悲鳴を上げた。


 彼女はジャバウォックの操縦席にあるモニターを目にしている。

 映し出されているのは、春の木々に囲まれた渓谷にある不気味ながらも、しっかり作られた石橋。

 即ち、ロンロンの石橋なのだが。


「大変! どうしちゃったのかしら!! あの子、人間と一緒にいるわ!!」


 しょうもない事に驚くリジー。

 ロンロンの性格を踏まえるとありえない光景だ。

 橋の上に、霊体のロンロンと共に人間……真っ白な女が獲物を待ち受ける構えをしている。


 バンダースナッチがそれを目にすれば、重要な事実に注目した。


「あいつ、呪ってやがるのか?」

次回:10/24

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ