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衝突


 バンダースナッチのエネルギー波が広がると共に、周囲で絶えず、戦闘態勢を維持する動物が発動中の季節のスキルが無力化されていくではないか。


 増殖したヤギは一匹に。

 ブタの体も元通りに。

 対峙する賢者が放つ魔法も、季節を組み込んでいたものは術式が崩壊し、霧散した。

 他にも、季節が付与されたスキルや武器に影響があった。

 とくに魔石はヒビが入り、使い物にならない。


 誰かが言う。


「魔法も季節も駄目って……タイマンでやり合えって事かよ?!」


 陣形を組んだばかりの怪盗集団、冬の季節で硬化したワイヤーの強度が落ち、それでも戦う外なかった。

 仕方なく、神槌と賢者のプレイヤー達でバンダースナッチを引き寄せる。

 季節のスキルはバンダースナッチのエネルギー波の影響で発動しない。起動しても、相当微弱な効果しか得られなかった。


 これでも相当鍛え上げられたプレイヤーばかりだ。

 バンダースナッチの動きに対処するのは困難でも、足止めまでは果たしている。

 お陰で怪盗たちがワイヤーを上空から地上まで繋ぎ合わせて形成する網が完成。

 合図と共にワイヤーを引っ張り、一気にバンダースナッチへと絡めていく。


 バンダースナッチも広範囲の光弾でワイヤーを断ち切ろうとするが、素材が良かっただけあり頑丈だ。

 ワイヤーで拘束されてしまうと、時空間に退避できない。

 ここぞとばかりに、一斉攻撃をしようとした時。


「た、頼む! こっちを手伝ってくれ!!」


()()()()()!!」


 あまりに理解不能な助けに、バンダースナッチに集中していたプレイヤーたちは、上空に浮遊する飛行戦艦に変形したワンダーラビットに気づいた。


 店の特徴を残しながらも体面積が肥大した外観。

 飛行操作を叶えるジェットエンジン。

 搭載された無数の砲口が機械音と共に方向転換。


 バンダースナッチを取り囲むプレイヤー達目掛け、兎型のロケットが連続して発射。

 待機していた盾兵系のプレイヤー達が、防御壁を展開させる。


 遠距離攻撃でワンダーラビットを狙い続けるプレイヤー達は、攻撃を中断しない。

 彼らへ追い討ちを掛けるのは、ワンダーラビットから連続で発射される兎ロケットである。

 ただ、今回の兎ロケットは一味違う。中身は、ルイスが作り置きしていた攻撃系の薬品と合成鉱石で構成されていた。


 単純に投げて使用する通常の物とは異なる。

 ロケットという()()()に詰め込み、スピードも加えた、形ある脅威としてぶつけられる。

 いつぞやのイベントと同じく。

 こちらもジャバウォックの補正で得られた物量と、妖怪の戦力をフルパワーに注いだ上での使用。

 圧倒していく。


 ロケットは闇雲に放たれてはおらず、バンダースナッチの拘束を解く為に目下攻撃を集中させている。

 無論、そうなる事も予測済みだ。

 ここぞとばかりに盾兵系のプレイヤーは交代で防御壁を展開させ続け。

 その間に、バンダースナッチを嬲り倒す算段である。


――   。


 完全に『太古の揺り籠』が優位にあった状況下、騒音に紛れ、一つの効果音が響いたような気がした。

 それは本当で。

 盾兵のジョブ2『守護騎士』の一人が倒れ。一人、また一人と倒れていく。


 単純な話。

 盾兵系の防御スキルを無視して攻撃するには『防御貫通』を以て攻撃、それで事足りる。

 しかし、周囲を警戒していた賢者達は箒で周辺を見渡しながら、口々に言う。


「『クックロビン隊』だ! どっかから顔出してやがるぞ!!」


「分かってる! さっきから探してんだよ!!」


 着実に盾兵の数が減っている。

 というより、普通はこんな短時間で防御ラインが崩れることは無い。

 ピンポイントで急所になる頭部へ連続で当てている。盾で頭を隠しても貫通して、攻撃を受ける。


 すると、盾兵達に守られていた怪盗の一人が、俄かに信じ難い内容を叫んだ。


「違う! 『狙撃手(スナイパー)』だ!! 『クックロビン隊』じゃねえ! 銃弾食らって死んでる!!」


 まさか、と。

 それ自体が冗談ではないかと全員が思うのは、『狙撃手(スナイパー)』のエイム力の強さ……ではなかった。

 困惑気味に周囲を見渡す賢者の一群。

 動物と格闘する者、バンダースナッチを集中砲火する者、ワンダーラビットを攻撃する者。

 様々な立場の面々が各々に。


「あいつらと連んでた狙撃手がいるんだよ! きっとソイツだ!! 間違いない!」


「さっさと見つけろ! 銃使いなんざタイマンでやり合えねえんだからーー」


「い、いや待て! どっ、何処から狙撃してる!? この一帯に高台なんてねぇぞ!?」


 そう。高所がないのだ。

 せいぜい木の一本や二本の上から狙撃出来なくもないが、誰もいない。

 ヤケクソ気味に賢者の一人が吠える。


「おい、新入り!! ソウルサーチ、ちゃんと発動してんだろうな?!」


 実は一人ひっそりと大鎌を携える、墓守系のプレイヤーもいて、これはアルセーヌも少し触れていた。

 深緑のフードとエメラルドグリーンの模様ある仮面のせいで容姿も顔も分からない墓守系のプレイヤーは、黙って頷く。

 ソウルサーチだけでなく、ソウルシールドで状態異常を防いでいる。

 しかしながら、役割はただそれだけ。


 そんな墓守系プレイヤーの協力があっても、狙撃手らしい魂を捕捉できない。

 ソウルサーチの範囲外から狙撃している。周辺に高所はない。

 近場で高所と言えるのはーー春の女神を祀る神殿くらいだ。そこからでも尋常じゃない距離だった。


 それを分かってか、指示を聞かず、思うがままに墓守系プレイヤーが春の神殿を目指したのだ。

 謎の狙撃手がフォーメーションの関係上、身動きとれずにいる怪盗を撃ち抜いていく。


 拘束が緩んだところで、バンダースナッチは再びエネルギー波を放ち、光弾も三百度余りぶち回して。

 怪盗のワイヤーから解放されたバンダースナッチ、不思議なほど攻撃を受けていない様子。


 バンダースナッチが集団に足止めされていた最中。

 その隙にワンダーラビットが何処かへ向かうべく、方向転換を始めていた。


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