ワンダーラビット『号』
レオナルド達がマルチエリアへ出向いて、少しばかり時間を経過してからの事だった。
僕は妖怪達の食事を片付け、『賢者の石』の作製作業の続きを行おうと工房へ足運んでみると、既に待ち構えている存在がいた。
ジャバウォックである。
菓子類でも強請りに来たのだろうか。
僕が溜息をつくと、ジャバウォックは兎の小物でツンツンと僕を突いてくる。
邪魔しないよう頼むよりも前に、ドォン!と外から効果音が。
しかも、地面が、建物自体が大きく揺れてるじゃないか。
意味深にジャバウォックが「始まってしまったか」と呟くのを他所に、僕は窓から様子を伺う。
すると、様々な人間たちが店を包囲している。
連中は居住区内では装備不可である武器を構え、あろうことか魔法などのスキルで店に攻撃を仕掛けてきた。
前回、襲撃したアーサーよりも酷い。
折角、直したばかりの庭を滅茶苦茶にしたどころか、本来どうこうする事もできない無人販売所も吹き飛ばし。店の外観まで破壊されていた。
その断片が吹き飛ぶのを窓越しで眺める以外、成す術ない。
憤りが来そうだったが、以前よりもストレスのない僕は混乱だけで抑える事ができた。
アーサーの襲撃と同じく、ログアウト不可の状態が確認できる。
つまり、イベントだ。
最初、店を攻撃しているのはNPCかと思ったが、装備している武器が見覚えないオリジナルばかり。
NPC一体一体にオリジナル武器を与えたりしない。
なので、プレイヤーだと察した。
しかし――数は、あまりにも多い。多すぎる。
数十人……まさか、百を超えているのか? 流石にそれはないと思いたい。
店に対し、激しい猛襲をぶつけられ続けていた。奇妙にも店はビクともしない。
元々、破壊不可の仕様だからか?と考えるがミシミシ軋む音を耳にし、辛うじて保っているだけで時間の問題かと悟る。
店内に残っていたメリーたちも状況を把握したらしい。
タイミングよくブライド・スティンクが、店内に姿を現し、見渡してから呆れたように言う。
「こういう時に限って、彼がいないんですか」
彼。
どうせレオナルドの事か。僕はそれよりも状況説明を求めた。
「外で襲撃を仕掛けた彼らは、一体何者なんですか?」
「『太古の揺り籠』と呼ばれるギルドに所属する人間共です。件のアーサーと手を組んでおり、警戒していましたが、まさか向こうから攻撃してくれるなんて……愚かですね」
……冗談じゃない。
淡々と不愛想に述べたスティンクに、八つ当たりしたくなる僕。
一個人のプレイヤー……とは言えないが、アーサー関連だったら狙いは僕だけ。それをギルド単位で? 本当に冗談じゃない。僕が不利過ぎる。理不尽だ。
レオナルドと共に、新しいアカウントでやり直した方が良いまでありそうじゃないか。
メリーが「どうすんのよ、この数!」と焦る一方。
この瞬間までテーブルに突っ伏していたバンダースナッチが欠伸と伸びをかましながら、深く息吐くように尋ねる。
「人間から攻撃したって事は、正当防衛適応って奴か?」
スティンクが信じられないと言わんばかりの表情を浮かべ、言い放つ。
「お父様が人間に関する法を無効にしたのを忘れたんですか???」
「あーそうだったか」
「早く行きなさい」
「ハイハイ」
ダルそうにバンダースナッチが消え去る。
それから、またジャバウォックが僕を突いてきた。今度は、地下へ続く扉を指さしている。
スティンクが時空間へ続く裂け目を虚空に広げ、メリー達に顎使って入るよう促す。
ボーデンはやる気満々だが、リジーとメリーは違った。
二人共、仕方なくな雰囲気を漂わせた。
スティンクが、時空間の裂け目を閉じ、消え去る。
ジャバウォックは深刻な表情で、珍しく喋る。
「時間がない。私について来るのだ」
物語の主人公に助言する立場の人間っぽく振舞いつつ、奴と共に地下倉庫へ。
妖怪除けの棚以外は、ジャバウォックが好き勝手に物を移動させ、散らかっている。
今度、整頓しなくては。
僕の思考とは別に、ジャバウォックは壁に配置してある妖怪除けが付与されてない棚の前に立ち、手元にある兎の小物を上から三段目に置く。
すると
ーーゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
棚が自動で横にスライドし、奥に続く道が明かされた。
「ちょっと待て」
思わず僕は口にしていた。
なんだこの魔改造は、勝手にやったのか!?
ジャバウォックに怒りをぶつけようにも、外から伝わる振動が建物を揺らす。……ここまで勝手にやったんだ。何か手はあるんだろうな。
先導するジャバウォックの後をついて行けば、妙な控えめな光が奥から漏れている。
近づくと、そこにあったのはコックピット。
何のゲームなんだ、本当に。
バンダースナッチで分かってはいたが、開発者の趣味が出ているというか……
席につきながらモニターを表示するジャバウォックが言う。
「お客様にお願いとご案内です。座席に座り、シートベルトをしっかり着用して下さい。また、運転中に立ち上がったり、席を移動するのは非常に危険です。停止してから立ち上がるようお願いします」
イベントとして先に進まないのは困るので、僕は渋々、席についた。
ジャバウォックが何かをチェックし、操縦ハンドルを握る。
「ワンダーラビット号、発進!」
皆様、評価、ブクマ登録、誤字報告などしていただきありがとうございます。
近頃、リアルの都合で投稿が遅れるようになりました。
一日一投稿目標でしたが、二日に一投稿になって行くと思います。
申し訳ございませんでした。