欠点
壮大に見構えておいてアレだが、レオナルドが行おうとしているのは至ってシンプル。
『ロイヤルストレートフラッシュ』で第七魔法を突破する。
攻撃が最大の防御ならぬ『幸魂』という必殺技で打ち向かう。
一種の壮大な冒険物であったなら、読者の胸熱くさせる展開だが、攻撃を放つ賢者たちは鼻先で笑った。
「そんなちんけな技、通用するかよ!!!」
やってみなければ分からない。……とはならない。
現実問題、彼らの言葉は正しい。
攻略サイトで検証されている中には、祓魔師のものも含まれている。イベント限定のペットが覚えられる『幸魂』の技も、その威力も。
残念なことに『ロイヤルストレートフラッシュ』の威力は、平均的な第七魔法の威力どころか第六魔法を相殺できるか怪しい。
だが、レオナルドもその程度は分かっている。
バトルロイヤルに、カサブランカとの闘いに向け、今日まで準備している最中だ。分かっていない方がおかしい。
実はこの『ロイヤルストレートフラッシュ』は、大鎌一本で技を繰り出せる。
つまり、ソウルオペレーションで複数操作している数だけ、連続で発動可能。
レオナルドは五本分の『ロイヤルストレートフラッシュ』を撃ち込めるが、今回は自身が乗る逆刃鎌を除いて四本分発動。
ズルイ仕様に思えるが、その分、大幅にMP消費する。
四本分の消費でレオナルドのMPは一気に0に近い数値に、ソウルターゲットもソウルシールドも使用不可。
しかし、こうでもしなければ攻撃は防げない。
『Drink me!』の大瓶や『トランプアタック クラブ』で第七魔法を受け止められないのだ。
レオナルドが上空めがけ向かった矢先、地上から賢者や錬金術師の支援攻撃が入る。
キャロルの聴覚補正で、攻撃を感じ取ったレオナルドは逆刃鎌を機敏に操作した。以前、スケボーを経験したこともあってか、斜めに切り返す動きで攻撃を躱す。
だが、錬金術師の合成石らしいものが上空まで飛んでくる攻撃だった。
どうやら、賢者たちの魔法で錬金術師の薬品・合成石を押し上げている。
つまり、挟み撃ちの形になる。
攻撃は躱せるが、薬品系の状態異常範囲は広い。受けてしまったら……反射的にソウルシールドを展開した時。
(あれ? MP回復してる……??)
ダメージを受けた時や、MP消費の際、なんとなく感覚で分かるのだが、レオナルドが集中して気づいていなかったらしい。
誰かがレオナルドのMPを回復した。
MPを回復できるのはパーティメンバーだけだ。
事態に気づいたアルセーヌがしてくれたのか? ラザールも襲撃に合っている??
(だったら急がねーと)
今後への問題点を噛みしめながら、レオナルドはまず『ロイヤルストレートフラッシュ』の発動準備をしている四本の大鎌を上空へ。
火球の第七魔法をそれぞれ一振りし、放たれる四種のトランプマークで打ち消す。
まだだ。
『ロイヤルストレートフラッシュ』はこれを五回繰り返せる。
名称の由来となったポーカーの役通り、五つの組み合わせで完成されるように、五種類の攻撃で構成されている。
最初が『A』。
次は『10』。十体の概念的なトランプ兵が召喚され、攻撃。
『J』『Q』『K』も前述と似たように、それぞれ放たれる前方に攻撃を繰り出す。
連続で『ロイヤルストレートフラッシュ』を繰り出し続ける事で、辛うじて相殺しあう事ができている。
ただ、後方からも魔法が放たれる動きが。
「離脱しろ!」
死に物狂いでレオナルドが上空の第七魔法を相殺しつくした所で、上空の賢者たちは離脱しようとした。
一つの有効打とはいえ、散々一個人を追い詰めた後でこれは卑怯でしかない。
しかし、レオナルドは『ソウルターゲット』で箒に乗る彼らの一人に、急接近し、急所の頭部。
浮上際に四本の大鎌から的確に『トランプアタック ダイヤ』の遠隔攻撃で、魔石を使い距離を取った賢者の頭部を狙い。
大鎌の近くに浮遊していた賢者も『トランプアタック スペード』の餌食となった。
視界が開けた事で、レオナルドは状況を整理し。
彼らの挙動や位置を考慮し、一掃することが実現できたのだった。
大体は、彼らが好む魔法で分かる。第七魔法はプレイヤーにつき一つしか覚えられない仕様だ。本人が考えて選んでいる以上、彼らの性格も予想がつく。
あいつは逃げる。反射神経はどうだ。逃げるとしても、どう逃げるか、どこへ逃げるか……など。
上空の賢者は当分現れないだろうが、レオナルドは安心できなかった。
遠方のスポーン地点より、応援と思しき賢者たちが現れる。
『太古の揺り籠』は量で圧倒すると聞いていたが、レオナルドもスポーン地点から続々とくる賢者の数に度肝を抜かれる。
(ムサシ達も離脱するように言わねーと)
流石に不利過ぎる為、強制離脱をしたいが誰もメッセージに反応がないのを見ると、『太古の揺り籠』の相手に夢中なのだろうか。
このまま、レオナルドだけが離脱しても良くない。
まずは、地上からの攻撃を対処しなくては……レオナルドが地上を警戒していると、彼らは先程と同じ攻撃を繰り返していた。
薬品などを風の魔法で押し上げる戦法。
だが、あまりに距離が離れ、遥か上空にいるレオナルドに届く訳がない。
「………?」
それをずっと繰り返していたのだ。
レオナルドは魔法使い系に詳しくないので、何とも言えないのだが。
彼らは風の魔法が得意? さっきまで色々使っていた筈。何故、あればっかり続けているんだろう。
とてつもなく、異常だった。
レオナルドが普通に、回り込むように移動してみるが、地上の攻撃は変わらず。
何故か、ずっと上空ばかりに攻撃を続けていた。
壊れた機械の如く、魔法を放っている。
不審に思ったレオナルドが、地上に降りて様子を伺うと。
「ねえ! これ、どうやったら止まるの!?」
「わっかんねぇよ!」
「バグに決まってるだろ!? 運営が仕事するの待つしかないんだよ!」
そう、彼らはいつまでも攻撃し続けるだけの存在に成り果てていた。
身動きも出来ず、中にはアイテムもMPもないのに攻撃のモーションを振り続け、わざわざ不発からのキャンセルモーションまで律儀に繰り返す。
第三者から見れば滑稽なのだろうが。
キャロルがレオナルド何か意思を飛ばすので周囲を見渡すと、レオナルドが腰につけていた『探知炎』が青紫に燃えていた。
戦闘が続きましたが、次回はルイス視点に戻ります。
次回:9/30