フレンド登録
「オイ! 待ちやがれ!! あのヤロー!」
遅れて怒声を上げたのは、格闘家の少女だった。
VRMMOの界隈に身を置く彼女は、カサブランカは無視しておけないだろう。しかし、彼女は銃使いの女性と違って、チャットにメッセージも残さず立ち去った。
「挨拶もしないでパーティ抜ける奴いるかよ! ふざけんじゃねー!!」
何事かと他のパーティメンバーも僕たちの所に近づいてくる。僕が状況を説明する。
「すみません。カサブランカさん、用事があるらしくログアウトしました」
彼女の名を聞き、盗賊の女性がうんざりした様子だった。
「いいわよ、空気読めない奴って感じだったから」
他のパーティメンバーも口々に言う。
「ヤバイ人? VRMMOのプロ??」
「で、でも敵倒してくれたよ……」
「驚いたぜ! あのねえちゃん、意外にやるじゃねえか。俺の方がかっこつかなかったもんだ!」
「フレンド登録もしたくなかったし、別に」
まぁまぁ!とリーダーの剣士が場を収めて、改めて今回のボス戦はお疲れ様でしたと円満に解散する形となった。僕はすかさずレオナルドに声をかける。
「レオナルド、フレンド登録してくれるかい?」
「おぉ。いいぜ」
メニュー画面のフレンド登録機能を操作しつつ、僕はレオナルドに聞く。
「君っていつログインできる?」
「あー……今日は大学ねぇだけだし、バイトとかあんだよな」
大学生か……個人情報は明かすのはよくないのに。
「木曜は休み、金曜は午後から暇。日曜も一応暇。バイトは忙しい時間帯だけだからな、基本は夜」
「うん、僕も普段は夜にやれる。ログインしてるかはフレンド一覧で確認できるから、ログイン出来たら僕にメッセージを送ってくれないかい」
「わかった」
無事にレオナルドのフレンド登録が終わったところで。
「あ……えっと、いいか? 俺も」
リーダーの剣士が僕に声をかけてきた。彼には興味なかったが、パーティを共にしたよしみで挨拶代わりにフレンド登録をしておいた。彼がレオナルドともフレンド登録をしあったのは、少々嫌だった。
あまり記憶する事を意識していなかったが、剣士の彼は――マーティンは、改めて僕らに礼を伝えたかったようだ。
「さっきは助かった! いい判断してたぜ、二人共。今度ギルド作ったら誘ってもいいか?」
「ありがとうございます。ですが、友達のギルドに所属する予定でして……」
「あちゃ~先客がいたか」
レオナルドも「俺もダチがどうするかわかんね」と返事をした。
僕とレオナルドはマーティンと別れ、パーティから抜けると集会所から出た。
誰も僕らに注目していないか、騒ぎは収まったか。僕が振り返って警戒していると、レオナルドが話しかけてくる。
「やっぱりお前、変わってんな」
「変わってる?」
僕が伺うと、レオナルドは頭を酷くかく。
「お前みたいな奴、初めてなんだよ」
「……ふうん?」
「しょっちゅう喧嘩吹っ掛ける奴ってーのとは腐るほど付き合って来たつもりだけど。お前みたいに徹底的にトラブル回避する奴は、無い。逆に無い。……ああ、絶対ない」
随分と周囲が荒れた環境にいるようだ。学校や地域によるか。
僕が恵まれているだけで、レオナルドだけは違った。そんな運命の差。
しかし、僕が争い事を避けまくっている……語弊がある。僕は少しばかり意地になった。
「確かに僕は争い事を避けているけど、それは普通のことなんだよ。レオナルド」
「そうか?」
「君は少しばかり常識の認識がズレているんだ。闘争そのものが愚かな行為だよ。自身の汚点を増やすだけさ。それにVRMMOはね、もう一つの現実社会と捉えるべきなんだ」
VRMMOだからこその特徴。それはコミュニケーション。
ギルドやフレンド等でメッセージチャットはあるが、VRMMOはアバターを通して現実に近いコミュニケーション能力が必要とされる。
アバター越しだから問題ない人もいれば、銃使いの女性のような人見知りや礼儀のなってない非常識な人に優しくないと指摘されている。
VRMMOは世間でいう『コミュ障』には不向きなジャンルだ。
故に、ユーザーもゲーマーの人口数は低め、一般人が比較的多いとされている。
「君はVRMMOに不慣れだから知っておくといい。ここでの噂一つでも支障を来す事になる。分かったかい」
レオナルドは初めて見る生物を観察するかのように僕へ視線を送っていた。
皆さん、評価ありがとうございます。
今週はほぼ一日投稿できそうなので、よろしくお願いします。