実戦
レオナルドは『ソウルサーチ』を展開していなかったが、脇道に入る際には彼らに気づいていた。
それはキャロルの聴覚補正のお陰だ。
感度を最高状態にし、キャロルの特性を最大限活かす。
レオナルドは『Drink me!』のスキルで出現する大瓶の中へ避難した。
ペットのキャロルが発動する其れとの違いが、大瓶から水鉄砲を発射させるかどうかの操作がプレイヤー側の任意であり、大瓶を冬の季節で硬化させることで、ガード利用まで可能となる。
ルイスと共に性能チェックを行い発見した裏技だった。
『トランプアタック』のクラブが防御スキルで有効なのだが、あれは前方向は防げるものの、先程のような広範囲攻撃に対応するのは難しい。
何れにしても。
奇襲を防いだレオナルドは爆発の黒煙に包まれている間にもう一本、青薔薇の逆刃鎌を自身の近くに出現させ。
残る四本の大鎌を黒煙に乗じて、大凡、回り込む形で散開、仕掛けていく。
爆破により黒煙立ち上る状況で興奮気味な声が一つ。
「おい、やったか!?」
既に待機していたプレイヤーが、暗がりから様子を伺いながら尋ねる。
彼らは『太古の揺り籠』に所属するプレイヤー達で、元々、素材集めの為に集まっている最中、レオナルド達が来たことでギルドマスターである琥珀から、彼らの妨害を指示されていた。
正確には、監督役のプレイヤーから指示を受け取った形ではある。
レオナルドを襲ったのは盗賊系の道具『起爆罠』。何かが接近すると同時に爆発する。シンプルながら、不慣れなプレイヤーには直撃してしまう。
秋エリアの素材集めには、ジョブ3のプレイヤー……現時点では賢者と錬金術師、神槌が大半を占めている。
賢者は戦闘力があるとは言え、彼等はプロプレイヤーではない。
折悪しく、プロ集団は春と夏エリアにいる局面。
到底、彼らにレオナルド達の足止めは務まらなかった。
気を抜いた錬金術師の一人が不満を漏らす。
「私たち戦闘専門じゃないのに、どうしてこんな……」
神槌の監督役は「つべこべ言わずに、次だ!」と呼びかけた。
突然の妨害指示に困惑したり、やる気になったり、全員バラバラな反応だった。
しかし、次を急ごうとした彼らへ紅のダイヤが無数に降り注ぐ。
『トランプアタック ダイヤ』の遠距離攻撃を受け、瞬く間に攻撃の集中砲火をくらう太古の揺り籠一同。
ただ、全員がそうではなく、数名の賢者が箒で上空へ避難。そこから炎、風、闇など様々な第六魔法を展開させていた。
一人、「俺が先だ!」と名乗り出た賢者は闇の魔法を発動させる。
闇は重力関連の特性を持つ。
レオナルドを重力で押しつぶし、身動きを封じる魂胆から。
宣言通り、黒紫色の円形エフェクトが展開されると同時に大瓶に入ったまま、レオナルドは地面へ向かう。
地上にいるメンバー全員が、寄ってたかって、レオナルドを攻撃した。
魔法は勿論、錬金術師は『火炎瓶』などの攻撃系薬品だけでなく『黄雷石』といった攻撃系の鉱石を投げ込む。
監督役の神槌もハンマーで地面を叩き鳴らし、地割れを発生させ、裂け目から高エネルギーで攻撃する『ヒドゥンクレバス』を発動。
だが、レオナルドは瓶に入ったまま『ソウルターゲット』で加速する体を引っ張れば、不思議なほど宙に魂の軌道を描いて動ける。
彼が地上に落ちなかった為、不発に終わる攻撃の数々。
何人かが「あれで動けるのおかしいだろ!」「ふざけるな!」など仕様に文句をぶつける声が上がった。
他にもマグネットのように引き寄せる闇の魔法を発動させても、レオナルドの体そのものを引っ張ったところで、大瓶の中で攻撃を防いでいるので無事に終わっている。
錬金術師の薬品には状態異常を起こすものが混ざっている為『ソウルシールド』を展開すると、体が不思議と軽くなる。
レオナルドの体にかかっていた重力やら引力の影響も『ソウルシールド』で防いでいるようだ。
これは少々予想外というべきか。
他プレイヤー達が運営に修正を求めかねない案件ではある。しかし、これでも魔力消費が激しいのだ。こまめに魔力水を使わなければやっていけない。
イーブンじゃないだろうか。
先に遠方へ避難させた大鎌三本で、地上にいる『太古の揺り籠』メンバーの背後を狙い『トランプアタック ダイヤ』の遠距離攻撃を連射。
急所の頭部に命中した錬金術師以外は、ダメージを受けつつもまだ余裕があるらしい。
元々、薬剤師系はステータス的に体力が高い。
攻撃力が控えめなレオナルドが仕留められないのは、仕方なかった。
監督役の神槌だけは、スキルか何かを使用し、凄まじいスピードを発揮、レオナルド目掛け衝突しようとした。
動作で、レオナルドは瞬時に見抜く。
神槌のプレイヤーが地面にハンマーを叩きつけ、その衝撃か何かで吹っ飛ぶ。
大瓶に神槌が衝突し、瞬く間に破壊される。
ただ、攻撃へ移行する為には、ハンマーを振る動作が必要。僅かな隙にタイミングを測るレオナルドは、キャロルと同化していた白樺の逆刃鎌の刃を向け『トランプアタック スペード』を発動。
逆刃鎌の形状が突如、変化することで。
刃が真っ直ぐに、スペード型のエフェクトと共に鋭い突きを繰り出し、神槌のプレイヤーの額に刺さった。
相手は「え?」と困惑気味な反応をする。
やや遅れ、震えながら消滅した。
「え、遠距離攻撃じゃ……」
相手はレオナルドが『トランプアタック ダイヤ』で攻撃すると読んでいたようだ。
体もスキルか季節かで防御を高めている状態だったらしい。
『スペード』は一撃を決める為、貫通能力も備える。それが功を奏したのだ。
運が良かったと安心するには早い。
レオナルドは地上から上空へと戻って来る四本の大鎌を確認しつつ、周辺ないし地上から放たれる魔法の猛攻を逆刃鎌の騎乗で躱す。
雷は合間を通り抜け、炎は『Drink me!』の水で消化しつつ、威力に押される前に潜り抜け。
水や風は『トランプアタック クラブ』で受け流す。
大鎌の片面に展開するシールドを上手く傾け、シールドと武器が破壊されないよう気を付ける。
向こうも「武器を狙え!」と吠えていた。
魔力消費量を確かめ、レオナルドはキャロルとの連携技『ロイヤルストレートフラッシュ』を発動させる。
キャロルが同化している逆刃鎌以外の、四本の大鎌にそれぞれハート、ダイヤ、クラブ、スペードのエフェクトが浮かび上がり、大技の展開間際、輝きを放つ。
まずは上空の賢者たちから。
向こうも各々、強力な魔法を展開させた。恐らく第七魔法だ。
隕石を彷彿させるような巨大火球が落とされる。
雷の化身とするような生きたように蠢く電撃。
宙に出現した水塊が氷結したもの。
しかし、レオナルドは真っ直ぐ彼らに突撃するのだった。
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