竜
季節が無い料理は作製できない。
ただし、無季のプレイヤーの協力があれば別だ。
無季の能力――季節を打ち消す特性を活かせば、料理から季節だけを消し去れる。
以前より、これは判明していたが、料理で得られるバフは低下してしまう。
なので、無季の能力は食材の季節をリセットし、新たに別の季節を付与する為に使用されている。
料理単体に使う事になるのは、僕だけだろう。
バンダースナッチは適応したが他の妖怪達は分からない。
要検証が必須だ。
診断書の内容を大雑把に説明すると、身体能力に向上の傾向あり、食力上昇。
ただし、消化スピードは乏しい。食事量は控えるべき。
僕の説明を聞いてバンダースナッチはだらしない体勢で座りつつ、尋ねる。
「すぐ良くなるのか」
「時間が必要です。長年維持し続けた身体が急速に変化できる訳がありません」
「……はぁ」
明らかに不満そうだった。
レオナルドがキャロルに餌を与えながら、一つ提案する。
「やっぱり、俺も手伝おうか?」
「人間が妖怪の事情に突っ込むなよ」
「俺達、無関係ってほどの立場じゃないぜ。ルイスがアーサーに狙われてるんだ。今のままだと外に出るのも難しくてさ」
「自業自得だろ」
相手にするのも面倒そうにバンダースナッチが消え去る。
上手くいけば、あのペナルティも解消されるのか?
正直、マルチエリアに向かう予定がない。ペナルティの解消を最優先するつもりではないけど。
……出来るなら解消したいものだ。
バンダースナッチは時間が惜しいように、もどかしさを隠しきれてない。
仕方ないか。
アーサーは屑だ。救いようもない屑。
まだ見ぬマザーグースの子供、スパロウが屑に付き合わされているとなれば無視できない。
レオナルドも無視したくない状況に、悩ましい表情を浮かべ。
そんな彼を、ジャバウォックが兎の小物で突いている。
バンダースナッチと入れ替わるように現れたのは、リジーとボーデンだった。
だが、今日に限って様子は妙で。
どこかで拾ったらしいボロボロの竹籠が一杯になるほどの植物を詰めて、持ってきたのだ。
僕らは頼んでもいないが、ボーデンは自信満々に言う。
「動物共が持って来てるのと同じ奴、集めてやったぜ!」
レオナルドも僕と素材集めしているだけあって、ボーデンが集めたのが大体薬品で使用する植物ばかりだと分かっていた。
不安そうにレオナルドは僕に聞く。
「料理に出来る?」
「うん。これは天ぷらにしよう。……ああ、『賢者の石』に使う予定の素材もあるね。ありがとう、助かったよ」
僕が礼を告げるとボーデンは調子よく「ほら!大丈夫じゃねーか!!」とリジーに言う。
リジーも心配そうな様子から一変。
安堵を露わに、僕に確認した。
「ほ、本当? 良かったわ。ボーデンが適当に詰め込むから、変な草も混ざってるんじゃないかって……」
「適当じゃねー! 見た事ある奴だけ入れたんだッ!!」
まあ、それは正解だ。
下手に使わない素材を持って来られても困る。
ボーデン達が持ってきたのは、大体がコモン素材で薬品で使用する薬草ばかり。
妖怪達が持ってくる、何か特別な素材も混ざってないかと、籠に入った素材を手持ちに加えようとした時。
レオナルドが「ん?」と僕を止める。
籠に入った薬草の山が揺れ、何かが這い出てきた。
途端、リジーが甲高い絶叫をし、反射的に籠を吹き飛ばす。
「いやあああああぁあぁぁっ! 蛇! 蛇!! ちゃんと見て入れてねーじゃねぇか! この馬鹿!!」
籠が飾り棚に衝突し、棚の小物や籠に入った薬草も店内にぶち巻かれる惨状が広がった。
レオナルドも何かの存在を把握していたようで、気配を頼りに探す。
リジーがボーデンをどつき、毎度の如くボーデンが半ベソかく頃。
レオナルドは棚の下の隙間に入ったらしい生物に呼び掛ける。
「大丈夫だから。コッチに来いって」
同じように隙間を覗いたジャバウォックが、「どしゅ!どしゅ!!」と口で効果音立てながら兎の小物を隙間に潜入させようとする。
僕が「刺激を与えないで」とジャバウォックを立たせたところ。
小さな鳴き声と共に、ソレが顔を覗かせる。
スルスルと長い胴体を這って動かす姿は、蛇を連想させるが、蛇ではなかった。
顔には僅かばかりフワフワとした毛と本当に小さな角が生え。
胴体も、背に毛が生えている。
毛先から胴体まで真っ白。キュウキュウと独特な鳴き声を漏らしながら恐る恐る、這い出て来た。
ソレは真っ先に僕へ向かっていくと、足に絡まり、そのまま僕の体を駆け上ってくる。
僕の肩まで到達して、ようやく安堵したらしく。
キュウキュウ鳴きながら、動かなくなった。
蛇と勘違いして距離を取ってるリジーに、僕は説明する。
「これは竜の子供だよ。まだ手が生えていないから、蛇っぽく見えるのは仕方ないね」
素っ頓狂な声色でリジーが「竜?」と聞き返す。
「見た事あるけど、そんなに小さいの……?」
「うん、幼少期はしばらくこの体型のままらしいよ」
ジャバウォックが小物を差し向けるたびに、驚いた竜の子はせわしなく僕の体を駆け巡る。
レオナルドは、竜の子を僕から離そうと試みるが。
可愛げに鳴きながら必死に逃げた。
一応、ペット状態にはなっていないから、僕がログアウトをしたり店から出れば、強制的に離す事はできるだろうけど。
レオナルドが神妙な表情で告げる。
「ルイスから離れたくねーみたいだぞ、ソイツ」
「だろうね。君も把握しているんじゃないかい。竜のエネルギー源は食事ではなく季節。成長の為に『春石』のような季節の力に満ちている物に取り付いて、エネルギーを食う……要するにコイツは季節の力に満ちてる僕に寄生したいのさ」
「き……お前、もうちょっとマシな言い方ねーのかよ」
何故か気まずい表情のレオナルド、僕は不思議に思った。
普通の、事実を話しているだけだから、変な事を言ったつもりはない。
このまま、将来的に飼うのは無理だが……コイツの素材は欲しい。僕はレオナルドに提案する。
「コイツは僕に寄生しているけど、手懐けるのは君に任せていいかな。レオナルド。竜の素材は希少で、鱗や爪、毛、それと『竜玉』は欲しいかな。体表につく『竜玉の欠片』だけでも高値がつく」
「おお、そういや茜さんが欲しがってたな、竜の素材」
まあ、素材を入手できるのはコイツがある程度、成長してからだけど。
こんな具合に、僕達の素材収集は順調だったが……想定外の事態が起きようとは、僕もレオナルドもまだ想像すらしていなかった。
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素材集めは順調ですが、それ以外の事で厄介なことが……?