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不死鳥


 木製カントリー風の外見と内装の鍛冶屋に、僕とレオナルド、アルセーヌが転移する。

 ここが楓の店であり、カサブランカが隠れているらしい。

 マイルームの一軒家に住めば、個人名を隠せない仕様上、ムサシと同じく特定されるとは言え、ここまで堂々と他人に寄生していると、逆に褒めたい。

 まあ、素材集め程度の仕事はしているんだろうな。


 僕らが店内に入った時に他の数人ほど、プレイヤー達が話し合っている。

 女性プレイヤー二人に男性プレイヤーの三人組で、全員が武士系だった。

 ピーキー仕様の武士系同士でパーティを結成しているのか。

 なかなか珍しい。


 眼鏡をかけた黒ロングストレートの大正ロマン風の緑を基調とした和服が嘆いている。


「だーかーら! これで何度目!? 大人しく達成条件が下方修正されるの待とうよ!」


 そしたら、ベリーショートの薄紫髪の青年が吠える。


「下方修正待ちなんざ負け認めたようなもんだろうが! いいのかよ、オイ! いいから、DEXにステータス振れって言ってんだろ!!」


「私はINTに極振りしちゃってんの! 真面目な話、手芸師とかの達成条件がおかしいだけだから! アレ、ふつーに達成できる奴がおかしいでしょ!!」


 ああ……武士系のジョブ3『大名』。その達成条件で揉めているのか。

 武士系の特別仕様の一つ、一撃必殺でマルチエリアのレイドボスを倒す。それが条件なのだが。

 つい最近、攻略班の何名が達成したことを除けば、ムサシが先行してクリアしていた。

 ただでさえ、難しいクリティカルヒットを、レイドボス相手に発動させるのは相当困難極めるらしい。


 もう一人。

 困ったように、眼鏡の女性と薄紫色の青年が言い争うのを静観している茶色のセミロングヘアの女性がいる。

 大人びた顔立ちの彼女は、僕らに気づいて、二人を制した。


「二人共。他のお客さんが来ているから、静かにしなさい」


 喧嘩していた二人は、僕らを見るなり目を見開いていた。

 セミロングヘアの女性とは違い、二人は僕らの事を知っているのだろう。とくに、ムサシの話をしていた青年は知らない訳が無い。

 すると、レオナルドは唐突に声をかける。


「お、久しぶり。武士系でパーティ組んでるんだな」


 ……?

 彼が話しかけたのは、眼鏡の女性。彼女も急に話しかけられて、どもっている。

 レオナルドは不思議そうな顔を浮かべながら言う。


「覚えてないか? ログイン初日で一緒にパーティ組んだんだけど」


「あ、い、いいえっ。お、覚えてます」


 ひょっとして足を引っ張っていた、あの武士か?

 こんな奴だったかな。顔はよく覚えてないけど……そしたら、何故かアルセーヌが笑っている。

 一体、何かと尋ねる前に、奴が小声で僕に耳打ちした。


「君。相棒と一緒にいたのに、覚えてないだろ?」


 コイツ……

 小蠅を払うように奴の顔を払っていると、店内の奥から作業途中だったらしい様子の楓が登場した。


「お待たせしてすみません! どうぞ、こちらです」


 彼女が特別に僕らを店内の奥へ行けるよう、店主権限で操作する。

 レオナルドが眼鏡の女性を含めた武士パーティに別れを告げ、僕らが奥へ入るなり。

 「ギャアース!」と甲高くドスの効いた鳴き声が響く。

 流石に僕も驚いて、奥の様子を伺うと。


 武器の精製が行われる竈などが配置されている工房内に。

 茎が金、実が真珠……SSレア素材の『蓬莱の玉の枝』で作られている、不釣り合いな止まり木が一本ある。

 そこに堂々と止まっている鳥が一羽。

 七色に輝く絢爛豪華な模様の尾に、艶のある体毛……飾り羽を広げていない孔雀に似た体格。


 美しい容姿に似合わない鳴き声を発する鳥に、レオナルドが興味深く近づこうとするが。

 楓が慌てて止めた。


「あ、駄目です! ()()()()()、とても攻撃的なので初対面の人には突いてきます」


 ふーちゃん。

 そのネーミングに半笑いするアルセーヌに、僕は咳払いした。

 レオナルドも戸惑いながら、一つ尋ねる。


「お……おう。でも、これって何の鳥だ? 初めてみる」


「野生では中々見かけないので、分かりませんよね。『不死鳥』です」


 成程、これが。

 攻撃的とは言うものの、こいつ自体に戦闘スキルは一切ない。

 恐ろしいまでに生体まで成長させるのが面倒。


 こいつを生体まで育てる方法は、常に手持ちに加えながら、妖怪から一度もダメージを受ける事なく、妖怪を討伐し続ける事。

 一度でもダメージを受ければ、不死鳥は卵の状態に逆戻り。

 最初からやり直し、という仕様上。未だに、一体どれほど妖怪を倒せば生体になれるか検証し続けられているという……


 ただ、成長させた分、恩恵もある。

 まず、こいつから採取できる素材は優秀すぎるほどで、低確率ながらマルチエリアで発見される尾一本で数千万マニーほどでフリマで取引されたとかなんとか。

 そして、不死鳥の名に偽りなく、ロストしない特権がある。

 キャロルのようなペットは、体力0になればロストする仕様だが、不死鳥にはそういう制約がない。


 レオナルドから話を聞いていたが、コイツを育てたのはカサブランカだ。

 興味深く見届けつつ、レオナルドは楓に導かれ、問題のイカレ女がいるところへ向かう。

 僕とアルセーヌも後から続く。


 工房より奥にある空間は、倉庫だ。

 鉱物から木材、水釜まで。あらゆる素材を詰め込まれてある完全物置状態の場所。

 物がごった返す中、奥の奥の方に()はいる。


 作業台代わりの簡素なテーブル、イスに腰を下ろし、糸をひいているカサブランカ。

 外見から、服装まで。

 最後に出会った『神隠し』イベントの時と全く一緒。

 存外、オシャレに気を使わない女……いや、こいつはそういう類じゃないか。


 淡々と作業しているカサブランカに、楓は慣れた態度で話しかける。


「カサブランカさん。レオナルドさんたちが来ましたよ。……あ、それじゃあ。私、向こうで作業しているので、何かありましたら呼んでください」


 楓は気を使ったのか、そそくさと退散する。

 チラリと、少しだけカサブランカが僕らに視線を向けたのを見て、レオナルドが落ち着きない様子で「元気?」と聞いていた。

 露骨な緊張をするレオナルドに笑みを溢しながら、アルセーヌが平然と話す。


「すいませんね。俺の相棒がどーしてもオタクが心配で集中できないもんだから、直接会って話がしたいって」


 そしたら、レオナルドが慌てて「ちょ、お前!」とアルセーヌを黙らせようとする。

 既にカサブランカはこちらに視線を向けていない。

 僕が仕方なく話す。


「貴方が呪いを受けていると聞きました。解呪をしたいのなら、レオナルドが協力すると申し出ているんです」


 手元で糸を束ねながら一言。


「そうですか」


 ……それだけだった。

 カサブランカは僕らに顔すら向けない。

 今、作業中で手を離せない。のではなく、余計な交流に関心がない。会話も適当に受け流しているんだろう。


 「あらあら」とアルセーヌが素っ気ないカサブランカを横目に、レオナルドの機嫌を伺う。

 レオナルドの表情は複雑である。

 例の噂通りなら、ロクでもない目にあっているだろうカサブランカは、気味悪いほどに平然としている。

 何か無理をしている風でも。

 意固地になっている風でも。

 ましてや、辛気臭い。薄暗い雰囲気もない。普通なのだ。


 普通に作業をしている。

 よく観察すると、手元には画面を幾つか展開させて、ゲームとは異なる、個人の仕事か何かに関係する資料らしきものに目を通していた。

 有り体に言うと『多忙』そうである。


 レオナルドは気まずくなって、頭をかきながら告げた。


「邪魔して悪かったよ。……あー………でも、さ。もし、呪いを解きたいってなら、協力するよ。具体的に言うと金用意しておく。そん時は、楓を通して連絡してくれ」


 そしたら奴の返事は


「そうですか」


 聞いてないだろ、コイツ。

 手元に不死鳥の尾らしい素材を取り出しながら、視線は画面の資料にばかり向けている。

 僕は思わず溜息を漏らす。

 レオナルドに帰るよう促そうとした矢先、アルセーヌが「ちょいちょい」と割り込む。


「何やってんだよ、相棒。連絡先交換しろって」


「は、はぁ!? いや、何言って」


 アルセーヌの提案に、レオナルドが珍しく冷静を失っている。

 僕は「どうせ無理だから早く行こう」と言っても、アルセーヌは小声で語る。


「連絡先ってかフレンド登録だよ、()()()()! 折角のチャンス、棒に振るとか恋愛初心者以下だぜ?」


「アルセーヌ、あのな。図々しいにもほどがあるだろ。てか、今は駄目だ。今は。カサブランカの気分、悪くさせたくねーし。空気読めよ……」


「え? じゃあ、俺が交換しておく?? ふつーに突撃するけど」


「話聞けって!」


 お互い小声で会話を繰り広げているが、きっとカサブランカには丸聞こえだったんだろう。

 奴は僅かに手を止めて、立ち上がった。

 ツカツカと近づきながら画面を開き、言い争っているレオナルドの肩を叩いて、即座にフレンド申請をしてくる。

 あまりに迅速な行動にレオナルドは目を見開き、アルセーヌは黙りこくり見守る。


 レオナルドが「え、あ、いいの?」と聞くのに対し、カサブランカは「早く対応してくれませんか」と急かすように返事をした。


()()()()と仲介するのが無駄ですし、彼が相手を翻弄して無駄に時間を浪費させるのを楽しむ輩なのは、先程のやりとりで十分理解できましたから。好きではないんですよ。彼のように、結論を先延ばしする人間は」


 ストレートに言い放つカサブランカの言葉に、珍しくアルセーヌが沈黙する。

 奴がぐうの音も出ないのは、僕も気分が良かった。

 レオナルドは、そこまで言われると渋々、カサブランカからのフレンド申請を受け取る。


 事が終わると。

 やり取りがなかったかのように、カサブランカは席に戻って作業を続けるのだった。

ブクマ登録、評価をして頂きありがとうございます。

ようやく、ヒロインと主人公がフレンド登録をしました……普通なら、もっと序盤に行われそうな……


追記:次回は9/9に投稿します

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 不死鳥のノーダメってプレイヤーが?それとも不死鳥本体が?
[一言] まさかカサブランカがヒロインで相手がレオナルドとは… もう一人の主人公?ルイス君はどうなっていくのやら
[一言] ヒロインそっち!? てっきりルイスだとばかり・・・
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