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明暗


 ルイス達が呑気に店内で過ごしている間にも、周囲は様々な出来事が発生していた。

 『太古の揺り籠』では、あれやこれやと噂が広まる。


「さっきの話、マジなの?」


「マジらしいぜ。主力部隊(プロ集団)が軒並みやられて、レベル一気に下がったって」


「カサブランカがチート使ったらしいぜ」


「違う違う。チートじゃなくて、()()だよ。相当やばかったらしいぜ……」


 作業を中断して噂をし合うプレイヤー達も、ふと顔を上げて、自分達の近くを通りかかろうとする()()を目にするなり、一斉に黙りこくる。

 少年……の容姿だが、中身は声色からして初老近い男性であるギルドマスター『琥珀』だ。

 

 肩につかない長さの短髪に、童顔の顔立ちという庇護力かき立たせる可愛さがある筈が、異常なまでに眉間にしわ寄せ、眼光が鋭い為、可愛らしさの欠片もなかった。

 深く渋い橙色のタンクトップとカーゴパンツ、その上から『琥珀』の飾りを付けた鎧を装着。

 ギルドマスターでは珍しい近距離支援型の盾兵系のジョブ2『守護騎士』である。


 誰もが「何でこんなアバターに」と突っ込むのに対し。

 琥珀本人は「見た目でしか判断できない無能」を蔑んでくるのだから、どうしようもない。


 ズカズカと移動する琥珀。

 AGIにステータスを高く振っているので、相当なほどスピードがある。

 険しい顔つきで、ゴシック建築の『本部』内を移動する琥珀を広間に通ずる扉の前で出迎えたのは、二人の青年プレイヤー。


 どちらもオールバックの髪型で、顔立ちが瓜二つ。

 正しく双子だったが、それぞれ赤と青の色彩で分かれている。

 青髪の青年が不敵に笑顔を作りながら話かけた。


「お待ちしていました。琥珀様。早速ですが処遇は如何いたしましょうか? 彼らが()()()()を行ったのは明白なのですから、早急な処理を私の方で済ませましょうか」


 青髪の双子はご機嫌取りのように穏やかな口調をするが、琥珀は険しい表情のまま問いただす。


()()()()()()()()()()()()()()。手間を取らせるな」


「申し訳ございません。琥珀様。最終確認は必要です。どうかお許しを。処罰は戦闘部隊から採取部隊へ降格。鍛冶師系のプレイヤーは三名ほど生産部隊へ配属。最近、抜け出した枠の穴埋めです」


「大雑把に分けるな。採取部隊に配属させる方が規律を乱す。本日、確保できなかった素材回収へ向かわせろ」


「はあ……そうしたいのは山々なんですが、彼らのレベルは相当降格しておりまして。どうやらレベル上限を超えても総合PK数が経験値ペナルティに加算されてしまうようです。なので」


 レア素材を収集できるマルチエリアに向かえない。

 青髪の双子がそう述べているにも拘わらず、琥珀は再度告げた。


「何故、奴らの都合に合わせなければならない? レベルが降下したのは奴らの責任だ。私の問題ではない。素材を確保するまで帰還をするな。そう伝えておけ」


「……わかりました」


 非常な命令だが、満更でもない表情で青髪の双子は頭を下げた。

 本心から琥珀の言葉に賛同している様子だ。

 もう一人の――赤髪オールバックの青年は舐め腐った態度で話し出す。


「『()()()()()』がトンズラした件はビックリしちゃったなぁ~。大体はテキトーに対応した錬金術師のせいだけど~」


 赤髪の双子はふざけた様子だったが、内容は主力部隊がヘマした次に問題だった。

 あーちゃん。

 ではなく、アーサーが料理を受け取らずに、素材も置いて行かなかった。

 ランキング一位をキープする為、生産や土地開発を緩める訳にいかない状況でこれ。

 本当に最悪極まりない。


 琥珀はまず、青髪の双子を顎で指示し、彼も察して広間の方へ移動。広間にはカサブランカにやられた主力部隊が待機しており、彼らに処遇を伝えるべく向かった。

 残った赤髪の双子に琥珀は、真顔で確認した。


「重要な情報から話せと教えた筈だ。何故、アーサーの不服を買った。カサブランカの呪いは規格外の性能なのか。運営に報告すれば、こちらの損壊が緩和される」


 赤髪の双子が「ああ、そっか~」と感心するが。

 琥珀が苛立ちを隠しきれてないので、面倒臭そうに説明する。


「『あーちゃん』の事はよく分かんな~い。急に料理の説明をしろとか、人間が食べてるのと何が違うとか。人間と食べてるの同じとか答えればいいのに、取り繕った返事したから嫌われたんじゃね?」


「………」


「カサブランカの奴は油断してたとか言い訳してたけど~……アイツら古典的な馬鹿! 聞いてよ、こはっちゃん! カサブランカに憑りついてんのロンロンなんだけど、アイツって相当屑じゃん? カサブランカの体、ぐちゃぐちゃに溶かしたりしてたんだって!! マジやべー、公式でそういうのやっちゃう?」


「………」


「ぐちゃぐちゃだし、洗脳されてるっぽくて歌とか歌ってたとか! 想像しただけで何か笑える!! あ、それでそれで。主力部隊の奴らも、こんな状態なら余裕で倒せるだろって集団リンチしようとしたんだって。返り討ちになったけど! ぶっはははは!!」


 饒舌に語って笑う赤髪の双子を聞いて、琥珀は無表情に「時間の無駄だった」と呟いた。





「お待たせしました。『キドニーパイ』です。添え物で『フィッシュ・アンド・チップス』もどうぞ」


 レオナルドが器で焼き上がったキドニーパイと白身魚のフライにポテトフライを添えた『フィッシュ・アンド・チップス』を光樹の前に運ぶ。

 僕が作ったのはイギリス料理のド定番セット。


 キドニーパイは癖の風味が消えないように具材を調整。

 フィッシュ・アンド・チップスは、味に飽きないようソースを備え付けてある。ケチャップ、タルタルソース、オイスターソース……といった具合に。


 レオナルドは僕が指示した通り、ギドニーパイを皿に取り分けていると、どこからともなくジャバウォックが現れ、じっと様子を伺っている。

 光樹も気づいて、無垢なジャバウォックに冗談っぽく提案してきた。


「なんや。興味あんなら食べてみます?」


 レオナルドが取り分けたものを光樹の前に置きつつ、申し訳なく言う。


「ジャバウォックの分は、俺達で用意しますので大丈夫ですよ」


「も~、レオナルドさん。自分一人でこの量、食べきれません。絶対残しますぅ。坊主は若い内に食った方がええですよ~」


 ほらほらと適当に光樹が皿に取り分けて、ジャバウォックへ差し出す。

 興味津々に黄金色の瞳で眺める奴の為、僕は食器を用意してやる。

 光樹は「何年ぶりやろ~」とザックリとパイを切って、大き目の一切れを口に放り込む。

 癖ある味なのに、バクバク食ってる光樹。


 ジャバウォックはポテトやタルタルソースをつけた白身魚のフライから食べ、メインディッシュとしてパイを最後まで取っていたようだが。

 一口食べると、無垢な真顔のまま、無言でフォークを置く。

 それから、僕に対し目で訴えて来るのだ。やれやれと僕は答える。


「好みが分かれる癖が強い料理なんだ。無理して食べなくていいからね」


 それにしても。

 ジャバウォックが残した分も、なんだかんだ食べてしまう光樹のプロフィールを見ると。

 本人が言及したように、剣聖へ昇格していた。

 厄介な奴が常連客になってしまったが、一つ尋ねてみる。


「光樹さん。剣聖に昇格した事で、どう変わりましたか? 性能の方は僕も全く分からないので、お聞きしたくて」


「ん~? 戦いやすくなったとちゃいます? 自分一人でも楽なとこなら、いけそうですわ」


「そうですか」


 具体的な説明をしろ……

 性能よりも、光樹自身のプレイヤースキルに問題があるだろうな。

 ソロで活躍して貰う場合なら、そこを補って欲しい……


新たにブクマ登録して頂きありがとうございます。

次回は漁に出ます。

続きが読みたいと思って頂けましたら、是非ブクマ&評価をよろしくお願いします。


追記:9/2中に投稿します。

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