しない
このペナルティ項目にある『マルチエリア』は、素材収集のマルチエリアは含んでいない……と願いたい。
念の為、運営に問い合わせているうえ。
レオナルドが来るまで、光樹とアルセーヌが勝手に素材集めを名乗り出たので、定かではなかった。
どちらにしろ。
僕がマルチエリアへ足を運べないのは、何かと厄介だ。
ペナルティがあり続ける以上、レオナルドがマルチエリアの素材集めをしなければならない。
僕が行けない弱みを使って付け込む輩も湧く。
実際に、光樹が僕の協力をする代わりにと迫っている現状だ。
妖怪共から視線を集めるアルセーヌが、呑気に提案してきた。
「やっぱりさぁ。相棒もルイス君も『ギルド』作った方がいいんじゃない?」
…………。
レオナルドは意味深に唸る。
以前も僕とレオナルドは話し合ったが、信用できる人間が五人もいないんだ。
適当な奴らを集めて、なんて受け入れられるわけがない。
だのに、ギルドの話題を聞くとリジーは驚きながらも感動気味に言う。
「す、凄い! 二人ともギルドを作れるの? そうよね、やっぱりそうよね!」
彼女の褒めようは、さながら舞台女優だった。
ギルドに関し、理解が乏しいクックロビン隊たちは首傾げているが、バンダースナッチは何故か浮かない表情をしている。
スティンクも複雑な顔で、僕らに尋ねた。
「正気ですか? この二人が真っ当にギルドを運営できるとは想像できませんね」
アルセーヌが能天気に笑う。
「いやいや。相棒とルイス君だけで運営するんじゃないって。俺も協力できるし?」
…………。
沸々と感情が込み上げるのを、僕が抑えているとは知らない連中共は好き勝手喋る。
光樹も便乗して話に割り込んできた。
「なら、自分も入りますけど? この間、一緒に戦ってくれはったお二人もギルド、入ってくれるんと違います??」
…………。
僕が必死に感情を押し殺そうとする傍らで、レオナルドは唸っている。
どうしようもない奴だ。
結局、僕が判断を下さないと動こうともしない。都合のいい奴だが、自分で動けないロクでなし。
レオナルドに対する悪態を内心でついていると、場外から余計な介入者が出現した。
僕らの店に転移してきたプレイヤーが複数。
その内、一人は、最初に余計な情報漏洩をしでかした剣士のマーティンだった。
奴は血相変えた様子で僕らに気づいて、呼び掛ける。
「よかった! レオナルド、助けてくれないか!?」
「うん?」
…………………。
僕達の状況などお構いなく、マーティン達の次に転移して来たのは、これまた厄介要因になった奴・ホノカ。
あと、彼女のギルドメンバー達。
鬱陶しいサクラまでもいる。
余計な話を持ち出そうとしているのが目に見えて分かる。
一体何事かと不思議そうにいるアルセーヌと光樹、妖怪達を差し置いて。
自棄に殺気立ったホノカが怒鳴った。
「おい! お前らもコンテストに向けて食材集めしてんだろ。だったら『太古の揺り籠』共を蹴散らすのに手を貸せ」
…………………ああ、もう。大体どういう事態か想像がつく。
レオナルドがうんともすんとも言わずに、悩ましい表情を浮かべているので、ホノカは舌打ちして説明を付け加える。
「アイツらが食材集めの妨害してやがるんだ。このままだと、うちらも、お前らも食材集めなんか出来ねーぞ」
目を細めつつ光樹が純粋に言う。
「妨害? ありました? 自分ら、ふつーに素材集めましたけど」
アルセーヌが「あれは素材専用のエリアだから」と宥めるように教える。
マーティンも申し訳なさそうに頼む。
「他にも、個人経営のプレイヤーとギルドに呼び掛けている。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、向こうの人材の多さは異常だ。プロも混ざってるし、それ以下のプレイヤーもジョブ3クラスで構成されてる」
だから僕達に助けを求めている、と。
ハッキリ言って冗談じゃない。
マーティンとホノカ達につられて来た他プレイヤー達も、好き勝手にあれこれ言い始める。
「アンタがいるだけで話は変わってくるって!」
「そうそう! 二人が加わるって聞いたら、他の奴らも乗り気になってくれる!!」
「なあ、ムサシと連絡取ってくれよ! ムサシだってPKで経験値稼ぎしたい筈だ!!」
僕が一声吠えようとしかけた時。
レオナルドは唐突に叫ぶ。
「しない!」
静寂に包まれた場で、レオナルドは悩みから解放され自分の意見を述べた。
「そういうのは、しない! 絶対にしない。うん、しない。しちゃ駄目だ」
まるで自分自身に言い聞かせているようだった。
あまりの事に、周囲はポカンとしていて。上機嫌だった光樹も冷水を浴びたように大人しい。
アルセーヌも……不気味なほど真顔と化している有り様だった。
レオナルドは続ける。
「悩んでる時点で俺自身、駄目じゃないかって無意識に分かってたんだ。だから、もう止めだ。ルイス、ギルド作るのは絶対止めよう。俺も『育成所』を建てない。キャロル以外、ペットは持たない」
あまりの決断に、流石の僕もレオナルドに向き合う。
彼の表情は真剣だった。
勢いで適当を抜かしているかと思い、僕は思わず聞き返す。
「ならバトルロイヤルは? コンテストは? あのイカレ女を相手にするのにペット一匹で挑むつもりかい?」
「バトルロイヤルは参加する。コンテストはポイント稼げなくてもいい。キャロルだけで戦う。大体さ、ペットとか装備で実力誤魔化したところで、カサブランカが満足する訳ないだろ」
「………」
とんでもない宣言をするのに、笑いを溢すのはアルセーヌ。
周囲の視線を感じ、半笑いしつつ「悪い悪い」と反省ない態度で謝罪していた。
しかし、周囲の連中が納得する訳ない。
レオナルドの宣言に対し、癇癪持ちのサクラが真っ先に食いかかる。
「また、強い癖して何もしない訳!? この意気地なし~!」
僕らを頼って、勝手に失望している連中も、今回ばかりはサクラと同じ心情なんだろう。
しかし。
それでも僕にとっては十分過ぎる。
思えば、近頃ストレスが溜まってばかり、気分の優れない日々だった。
コンテストもそうだが、夏エリア攻略から秋エリアに向かうまで、ギルドや育成所……
ああ、なんだ。
この手のゲームも柵が必須なのか。
結局、ギルドに関わらないとゲームを楽しめない仕様なのか。
普通にゲームをクリアするにしても……何もかもが僕にとってストレスを積み重ねるものだった。
レオナルドが妥協した事で、僕も落ち着いて現状を把握できる。
本性が現れたこのゲームのシステムそのものを、鬱陶しく感じていたんだ。
僕は一息吐いた後、テーブル席から立ちあがって、共闘を求めているプレイヤー達に告げる。
「君たちはまるで学習しないね。先日、『クインテット・ローズ』の騒動があったばかりなのに、また同じ騒動を起こすつもりかい?」
そもそも、素材収集妨害は、以前より問題視されていた。
運営が分かっていない訳が無い。
問題解決をしようとした矢先。『クインテット・ローズ』という想定外の騒動が発生した訳だ。
あちらの対応に追われ、本来対処する予定だった素材収集妨害の対策が遅れている。
『太古の揺り籠』も大概馬鹿だな。
アイドル連中の二の舞だ。
僕は憑き物が落ちたように気分が晴れ晴れしている。
駄目なものは駄目。余計な事には手出ししない。僕自身の在り方を失いかけていた。
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本来あるべきルートを突き進むより、改めて過程が必要なのだと思います。
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