表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/315

しない


 このペナルティ項目にある『マルチエリア』は、素材収集のマルチエリアは含んでいない……と願いたい。

 念の為、運営に問い合わせているうえ。

 レオナルドが来るまで、光樹とアルセーヌが勝手に素材集めを名乗り出たので、定かではなかった。


 どちらにしろ。

 僕がマルチエリアへ足を運べないのは、何かと厄介だ。

 ペナルティがあり続ける以上、レオナルドがマルチエリアの素材集めをしなければならない。

 僕が行けない弱みを使って付け込む輩も湧く。

 実際に、光樹が僕の協力をする代わりにと迫っている現状だ。


 妖怪共から視線を集めるアルセーヌが、呑気に提案してきた。


「やっぱりさぁ。相棒もルイス君も『ギルド』作った方がいいんじゃない?」


 …………。

 レオナルドは意味深に唸る。

 以前も僕とレオナルドは話し合ったが、信用できる人間が五人もいないんだ。

 適当な奴らを集めて、なんて受け入れられるわけがない。

 だのに、ギルドの話題を聞くとリジーは驚きながらも感動気味に言う。


「す、凄い! 二人ともギルドを作れるの? そうよね、やっぱりそうよね!」


 彼女の褒めようは、さながら舞台女優だった。

 ギルドに関し、理解が乏しいクックロビン隊たちは首傾げているが、バンダースナッチは何故か浮かない表情をしている。

 スティンクも複雑な顔で、僕らに尋ねた。


「正気ですか? この二人が真っ当にギルドを運営できるとは想像できませんね」


 アルセーヌが能天気に笑う。


「いやいや。相棒とルイス君だけで運営するんじゃないって。()()()()()()()()?」


 …………。

 沸々と感情が込み上げるのを、僕が抑えているとは知らない連中共は好き勝手喋る。

 光樹も便乗して話に割り込んできた。


「なら、自分も入りますけど? この間、一緒に戦ってくれはったお二人もギルド、入ってくれるんと違います??」


 …………。

 僕が必死に感情を押し殺そうとする傍らで、レオナルドは唸っている。

 どうしようもない奴だ。

 結局、僕が判断を下さないと動こうともしない。都合のいい奴だが、自分で動けないロクでなし。

 レオナルドに対する悪態を内心でついていると、場外から余計な介入者が出現した。


 僕らの店に転移してきたプレイヤーが複数。

 その内、一人は、最初に余計な情報漏洩をしでかした剣士のマーティンだった。

 奴は血相変えた様子で僕らに気づいて、呼び掛ける。


「よかった! レオナルド、助けてくれないか!?」


「うん?」


 …………………。

 僕達の状況などお構いなく、マーティン達の次に転移して来たのは、これまた厄介要因になった奴・ホノカ。

 あと、彼女のギルドメンバー達。

 鬱陶しいサクラまでもいる。

 余計な話を持ち出そうとしているのが目に見えて分かる。


 一体何事かと不思議そうにいるアルセーヌと光樹、妖怪達を差し置いて。

 自棄に殺気立ったホノカが怒鳴った。


「おい! お前らもコンテストに向けて食材集めしてんだろ。だったら『太古の揺り籠』共を蹴散らすのに手を貸せ」


 …………………ああ、もう。大体どういう事態か想像がつく。

 レオナルドがうんともすんとも言わずに、悩ましい表情を浮かべているので、ホノカは舌打ちして説明を付け加える。


「アイツらが食材集めの妨害してやがるんだ。このままだと、うちらも、お前らも食材集めなんか出来ねーぞ」


 目を細めつつ光樹が純粋に言う。


「妨害? ありました? 自分ら、ふつーに素材集めましたけど」


 アルセーヌが「あれは素材専用のエリアだから」と宥めるように教える。

 マーティンも申し訳なさそうに頼む。


「他にも、個人経営のプレイヤーとギルドに呼び掛けている。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、向こうの人材の多さは異常だ。プロも混ざってるし、それ以下のプレイヤーもジョブ3クラスで構成されてる」


 だから僕達に助けを求めている、と。

 ハッキリ言って冗談じゃない。

 マーティンとホノカ達につられて来た他プレイヤー達も、好き勝手にあれこれ言い始める。


「アンタがいるだけで話は変わってくるって!」


「そうそう! 二人が加わるって聞いたら、他の奴らも乗り気になってくれる!!」


「なあ、ムサシと連絡取ってくれよ! ムサシだってPKで経験値稼ぎしたい筈だ!!」


 僕が一声吠えようとしかけた時。

 レオナルドは唐突に叫ぶ。


()()()!」


 静寂に包まれた場で、レオナルドは悩みから解放され自分の意見を述べた。


「そういうのは、()()()! 絶対にしない。うん、しない。しちゃ駄目だ」


 まるで自分自身に言い聞かせているようだった。

 あまりの事に、周囲はポカンとしていて。上機嫌だった光樹も冷水を浴びたように大人しい。

 アルセーヌも……不気味なほど真顔と化している有り様だった。

 レオナルドは続ける。


「悩んでる時点で俺自身、駄目じゃないかって無意識に分かってたんだ。だから、もう止めだ。ルイス、ギルド作るのは絶対止めよう。俺も『育成所』を建てない。キャロル以外、ペットは持たない」


 あまりの決断に、流石の僕もレオナルドに向き合う。

 彼の表情は真剣だった。

 勢いで適当を抜かしているかと思い、僕は思わず聞き返す。


「ならバトルロイヤルは? コンテストは? あのイカレ女(カサブランカ)を相手にするのにペット一匹で挑むつもりかい?」


「バトルロイヤルは参加する。コンテストはポイント稼げなくてもいい。キャロルだけで戦う。大体さ、ペットとか装備で実力誤魔化したところで、カサブランカが満足する訳ないだろ」


「………」


 とんでもない宣言をするのに、笑いを溢すのはアルセーヌ。

 周囲の視線を感じ、半笑いしつつ「悪い悪い」と反省ない態度で謝罪していた。

 しかし、周囲の連中が納得する訳ない。

 レオナルドの宣言に対し、癇癪持ちのサクラが真っ先に食いかかる。


「また、強い癖して何もしない訳!? この意気地なし~!」


 僕らを頼って、勝手に失望している連中も、今回ばかりはサクラと同じ心情なんだろう。

 しかし。

 それでも僕にとっては十分過ぎる。

 思えば、近頃ストレスが溜まってばかり、気分の優れない日々だった。


 コンテストもそうだが、夏エリア攻略から秋エリアに向かうまで、ギルドや育成所……

 ああ、なんだ。

 この手のゲームも(しがらみ)が必須なのか。

 結局、ギルドに関わらないとゲームを楽しめない仕様なのか。

 普通にゲームをクリアするにしても……何もかもが僕にとってストレスを積み重ねるものだった。

 レオナルドが妥協した事で、僕も落ち着いて現状を把握できる。


 本性が現れたこのゲームのシステムそのものを、鬱陶しく感じていたんだ。

 僕は一息吐いた後、テーブル席から立ちあがって、共闘を求めているプレイヤー達に告げる。


「君たちはまるで学習しないね。先日、『クインテット・ローズ』の騒動があったばかりなのに、また同じ騒動を起こすつもりかい?」


 そもそも、素材収集妨害は、以前より問題視されていた。

 運営が分かっていない訳が無い。

 問題解決をしようとした矢先。『クインテット・ローズ』という想定外の騒動が発生した訳だ。

 あちらの対応に追われ、本来対処する予定だった素材収集妨害の対策が遅れている。


 『太古の揺り籠』も大概馬鹿だな。

 アイドル連中の二の舞だ。

 僕は憑き物が落ちたように気分が晴れ晴れしている。

 駄目なものは駄目。余計な事には手出ししない。僕自身の在り方を失いかけていた。


新たにブクマ下さった方、ありがとうございます!

本来あるべきルートを突き進むより、改めて過程が必要なのだと思います。

続きが読みたいと思って頂けましたら、ブクマ・評価の方を是非よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] レオナルドとルイスが迷いを振り切って方針を決め直せてよかったです。
[一言] レオナルトの決断にルイスもすっきり こんなにも晴れ晴れとした気分なのは何時ぶりだろうか 特に最近はストレス続きでしたしw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ