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ペナルティ


「ああっ! 酷いわ!!」


 メリーの悲鳴が庭に響き渡る。

 これもイベントクエスト失敗のペナルティらしく『不思議の国のアリス』をモチーフにしていた庭は、アーサーが巻き起こした風で無茶苦茶に。

 薔薇の生垣、数を増やす為コツコツ育てていた青薔薇の苗、煉瓦などの庭の装飾にも影響があった。


 一先ず、僕はメリー達、妖怪が腰かけるテーブル席を整える。

 ……とは言え。

 そのテーブル席も、長いテーブルが真っ二つに折れている悲惨な光景が広がっていた。

 店内にあるテーブル席を移動し、繋ぎ合わせて誤魔化すしかない。


 テーブル席にはリジーにボーデン、ジャバウォック、メリーが腰かける。席に座らない形でクックロビン隊たちとスティンクも近くにいた。

 そして、もう一人。

 久方ぶりに姿を出現させたバンダースナッチが、面倒そうな溜息を漏らしながら乱雑に腰かける。


「うわっ、なんだこりゃ!?」


 遅れてログインしたレオナルドが現状の光景に驚愕すると、全員の注目が集まった。

 ちょこちょこと彼の足元に移動して来たキャロルに、無垢な表情のまま小物でレオナルドを突くジャバウォック。

 メリーは「お花が大変なの!」とヒステリック気味に嘆き、近頃喋りが流暢になったクックロビン隊たちは各々「れお~」と鳴いている。

 ボーデンが僕を指さしながら「あの馬鹿が余計な事しやがった!」と告げ口したのを、リジーがどついている。


 騒がしい中、バンダースナッチとスティンクは酷く冷静だった。

 レオナルドが、テーブルに突っ伏しているバンダースナッチに気づいて、声をかけた。


「えっと、お疲れ? スパロウの奴は見つかったのか??」


 『スパロウ』の名前を聞いてバンダースナッチが気だるげな溜息を漏らす。

 不思議そうに尋ねるレオナルドに、スティンクは冷静に答えた。


「例の妖怪に関してお話する事があるので、さっさと座ってくれませんか」


「ん? お、おう」


 言われるがままレオナルドが座ったのを僕は見届ける。

 僕は全員分のお茶菓子と紅茶を用意。

 手際よく、レオナルドの前に紅茶を置いた時、ハタと目が合ってしまう。


 思わず目線を逸らして、僕はレオナルドの隣に座って一息つく。

 どうも今は話しかけたい気分じゃない。

 レオナルドの表情は伺えないが、僕に話しかけないところを見ると空気を読んでくれたのだろうか。


 メリー達が自由に菓子を食べている中、スティンクは険しい表情で話を始めるのだった。


「まず、例の……『アーサー』と呼ばれる個体ですが、お父様から正式に我々で対処する事が決定しました。アレが春の層に現れたのには、我々にも責任があるので」


 ……何となく想像つく。僕は試しに口を開いた。


「スパロウが関わっているのでしょうか」


 バンダースナッチがうざったい溜息を共に、体を起こす。

 呑気に菓子を食っていたメリー達、中でもクックロビン隊たちは表情が分からない鳥頭だが、際立った反応を示している。

 リジーも事情を把握してなかったようで「あの子、見つかったの?」とオドオドしく尋ねた。

 スティンクは渋々、説明を続ける。


「『アーサー』を含む一派の侵入にスパロウが関与しています。……時空間能力を有する妖怪が背後にいるのは承知していましたが、まさか()()の仕業だとは思いませんでしたよ」


 彼女の話を聞いてボーデンが「はぁあぁっ!?」と素っ頓狂な声を上げた。

 僕らはスパロウの人格を把握してないから、何とも言えないが。

 少なくとも、リジー達からすると予想外らしい。

 動揺を隠せないクックロビン隊たちを他所に、レオナルドが困惑気味ながら落ち着いて意見を述べた。


「本当か? 普通に考えたら、関わらない方だと思うんだけどな。『ぬらりひょん』の能力とかで従ってるとかさ」


 対しバンダースナッチが「どうだか」と曖昧に答える。


「あの時。俺も一瞬、動きを封じられたが連中に『ぬらりひょん』が混ざってたかは分からねぇよ」


 スティンクが「貴方を止められる類も限りがあるでしょう」と突き放すように指摘した。

 だが、そうか。

 妖怪の掌握に特化した『ぬらりひょん』は、妖怪側からすれば厄介だ。

 力量の均衡は不明だが、場合によってはマザーグースのような上級妖怪も成す術もなく操られるのか。


 僕が沈黙を貫いて話を聞く傍ら。

 仕方なくといった雰囲気でスティンクが、僕に嫌悪の視線を向けながら告げた。


「一番に問題なのは、()()()()。『アーサー』と呼ばれる個体に目をつけられたのですから。今後、隙あらば『呪い』を仕掛けられるでしょう」


 レオナルドが予想外な「え!?」と驚きを示すが、僕は何とも答えなかった。

 そんな気分ではないし。

 心底どうでもいい。

 僕の代わりに、レオナルドはスティンクに聞く。


「呪いって……呪いをかける妖怪も大変なんだよな。そんな簡単に呪いをかけようとするのか?」


「最大のメリットはありますよ。呪った人間を死ぬまでこき使える事です」


「いや、うーん……分かるけどさ」


 腑に落ちない様子で頭をかくレオナルドは、唸る。

 彼を見かねて、スティンクは話を付け加えた。


「大多数の上級妖怪は、人間側の戦力を削ぐ為に使用します。優秀な人間を野放しにするほど、我々も愚かではありませんから」


 だろうな。

 呪いのメリットは人間側の戦力削ぎと、呪いを受けた人間による影響か。

 優れた人間ほど、人脈のある人間ほど呪いによる弊害と追放を受けてしまえば、結束が崩落する。

 地位ある立場なら尚更、社会の混乱は免れない。


 しかし、僕を呪った事で影響など一切ない。要するにアーサーが短気だったからだ。

 レオナルドも、そういう意味で「ルイスを呪ってもなぁ」と首傾げる。

 ただ、妖怪達は納得しているようだ。代表して、メリーは言う。


「ルイスが作る料理目当てなのよ! あと、妖怪相手に料理作る人間なんていないもの」


 ボーデンが「挑発したからだろ……」と小声で呟くのが聞こえる。

 レオナルドが流れに便乗して、ようやく僕に話しかけた。


「あれじゃねーか? ルイス。多分、お前はその気はないだろーけど。アイツにとっては良い事したとかさ」


「記憶にないね」


 僕が即答する。僕はレオナルドに視線を向けなかったが、彼からの視線は感じた。

 未だ均衡状態にある僕らの間を割って入ってくる奴がいる。

 どこか嘲笑するかのような態度で話しかけて来た奴は、いつの間にか生垣越しに姿を見せていた。


「何言ってんの。ホラ、ルイス君。食事の経験あるかどうかって色々確認取ってたじゃん。あれって割と好印象に感じちまうけど?」


 …………。


 レオナルドが慌てて振り返り、そこに佇む奴・アルセーヌの存在に驚いていた。

 いつの間に、戻って来たのやら。

 アルセーヌと共に帰還を果たした光樹が、慣れ慣れしく話しかける。


「今日は自分ら行けますけど。これから先、ルイスさんがお困りになるのは変わりません。どうにかできひん? 運営さんに訴えれば解決できます??」


「み、光樹さん? えっと、すいません。何の話ですか?」


「あら? ルイスさん。ペナルティの説明せなアカンでしょ~」


 本当に鬱陶しい……

 僕が受けた特殊ペナルティ。


『マルチエリアにいると確率で「アーサー」含む上級妖怪が出現します』


 妖怪ファンなら願っても無いペナルティだが、僕のような普通のプレイヤーからすると迷惑極まりないものだった。


新たにブクマ&評価して下さった方、ありがとうございます!

普通に隠しイベントをクリアした場合、当然ですがペナルティは発生しません。

ただ、その先、アーサー等の好感度が関わってきます。

続きが読みたいと思って頂けましたら、ブクマ・評価の方を是非よろしくお願いします。

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