二号店
僕とレオナルドはワンダーラビットに戻り、秋エリアで採取した素材を加工や調理をしていた。
『花畑エリア』以外にも、秋エリアのマルチエリアを幾つか巡り『秋小豆』など、コンテストで提出する『不思議の国セット』で使用する素材を重点的に採取。
料理に似合った素材を選ぶ。
その為、様々なパターンの『不思議の国セット』を試作していっている。
僕は調理を続けつつ、レオナルドから話を聞いていた。
彼が納得できない様子というか、首傾げていたのは、ロンロンの動向が原因だったようだ。
相変わらず、少しズレて……この場合、色々と『普通』ではない状況なのだけど。
率直に、僕が思った事を言う。
「君はレシピイベントでの事を忘れたのかい? 奴は普通に嘘をつくよ」
「いやぁ……」
レオナルドはカウンター席で、瞼を閉じて唸っていた。
彼の傍らでジャバウォックがうさぎの小物を掴み「ぶ~ん」と空中に飛ぶように動かし。
小物をレオナルドに衝突させた。
「痛いって」と小言を口にしつつ、背中をさすり振り返るレオナルド。
彼は、無垢な瞳をするジャバウォックと目が合い、思わず尋ねる。
「ロンロンって、そういう奴じゃないと思うんだよ。なあ?」
レオナルドの問いかけに対し、ジャバウォックは何も答えずに手元の小物を踊らしていた。
……まあ、レオナルドの意見は間違いではない。
奴は基本的に人間を物としか見做してない。
性格にブレがない以上、ロンロン本人が呪いの価値がないと言えば、他プレイヤーが例外的にロンロン
の呪いを受けるなんて、特別扱いされる不公平さが発生する方が不具合だ。
……そうだ。
正真正銘の例外がいるなら、イレギュラーは起きる。
僕はレオナルドに問う。
「レオナルド。君はカサブランカをどう思っているんだい」
目をぱちくりさせレオナルドが顔を上げて「カサブランカのこと?」と聞き返して、答えた。
「独りでも生きていける強い奴? うーん。でも大丈夫かな~って心配にはなる」
そんな風に思っているのか。……って、そうじゃない。
「カサブランカは普通じゃないよ。あの女はロンロンと相性が壊滅的に悪すぎたんだ。だから、例外的に呪いを受けたのさ」
「……そうかなぁ」
納得できない表情をするレオナルドに、僕も奇妙なもどかしさが込み上げる。
彼に限って恋愛感情を持ち込んでいるんじゃないかと、不穏を感じてしまう。……ないとは思うけどね。
会話を繰り広げている間、完成した試作品をカウンター席に置き終えた。
ジャバウォックがレオナルドの隣に座り、試作品の試食を開始しようとした。
すると、店内に新たな訪問者が現れる。
静電気よりも強めな電流がピリッと一筋走った。
久方ぶりに眼球のない呪い人形・メリーを見た気がする。
彼女もどこか恐る恐る、店内のテーブル席の影から僕とレオナルド……ついでにジャバウォックの機嫌を伺っているらしい。
僕が呼び掛けるよりも先に、マットの上を駆け回っていたキャロルがメリーの足元に近づく。
キャロルに匂いを嗅がれたのか「きゃぁっ!?」とメリーは声を上げた。
「な、なによ~! ビックリさせないで!! もうっ」
鼻をひくつかせるキャロルにメリーがポコポコと怒りのリアクションをした。
レオナルドが身構える事無く普通に話しかける。
「久しぶりだな。今日はルイスが最後の試作品を作ってたところなんだ。メリーも食べるか?」
「う、うん……」
少々、ぎこちない様子でカウンター席に座るメリー。
今日はマザーグースがおらず、ジャバウォックとメリーの二人だけ……随分と少なく感じた。
他の妖怪たちは、気まぐれで訪れないのか、それとも何か外せない用事でも……
ああ、待てよ。春エリアに侵入してきた、あの妖怪の事か……?
『スパロウ』を捜索しているバンダースナッチのイベントも平行しているというのも……
僕はさり気なく、うさぎの練り切りを食すメリーに尋ねる。
「最近、顔を出せなかったのは例の侵入者の件があったからかい?」
メリーは「あっ!」と話に食いつく。
「そうそれ! 本当に信じられない!! 一体どこから来たのかしら!」
ひょっとしなくても、夏エリアからじゃないかと僕は思う。
間違いなく、そちらのイベントと関係あるタイミングではあった。確証はないのが欠点だが。
メリーの発言を読むに、マザーグースも足取りを掴めていないらしい。
練り切りだけを食べながら、感情的にメリーは言う。
「最低でも中級クラスの妖怪ね。何が目的かは分からないけど、おじい様の事を知らないのはきっと、産まれて間もない常識知らずの奴に違いないわ」
それを聞いたレオナルドは脳裏に、例の妖怪を思い浮かべて首傾げた。
「見た目はそんな感じしなかったよな? ルイス」
古代ギリシャの布服を着た、アルビノと思しき外見の男。
まあ、見た目や言動が産まれて間もない雰囲気は無い。
常識がない訳ではなさそうに感じる。
可能性は色々あるが、無難に考えれば……僕は思いついた話をした。
「見た目はともかく、相応の知識と常識はあるんじゃないかと思うよ。言葉も流暢だったし……他の上級妖怪に教育されたというのは、ありえそうだね」
「まあ、それっておじい様みたいな変わった妖怪がいるって事?」
祖父を変わっていると断言するメリーは少々、眉間にしわ寄せた気難しい表情を浮かべつつ、知識を総動員させていた。
「春に一番近い層は、夏と冬でしょ~? 夏は人間がほぼ占領してるから、上級妖怪が育ちにくい環境なのよ。うーん、そうねぇ~。上級妖怪化した『空亡』は知ってるけど……ありえないわねー」
僕は「ガウェインのことかな?」と確認するが、メリーはお手上げ状態で、カウンター席に突っ伏す。
「全然しらな~い。『空亡』は少し変わった妖怪だから、私達も近づけないのよ」
変わっている。
雑魚妖怪の『空亡』でも、その変わった特性を確認できる。
『空亡』は妖怪を恐怖させる妖怪なのだ。
元々、妖怪が恐れた太陽を妖怪と定義した存在だ。妖怪殺しの妖怪、という奇抜な設定からか、マルチエリアに出現する『空亡』も周囲の妖怪を追跡し攻撃する。
メリーはハッキリと告げる。
「その『空亡』が秋の層を支配してた妖怪達を襲撃したのは本当。人間が秋の層を奪還できたのは、『空亡』のお陰よ」
彼女が最後の練り切りを口に入れた瞬間。
どこからともなく、店内に壮大なファンファーレが響き渡る。
唐突な効果音にレオナルドが驚く。ジャバウォックは「ぱんぱか、ぱかぱか……」とファンファーレの真似をし、キャロルも嬉しそうに後ろ足で軽く立ち上がった。
メリーが何事かとキョロキョロする中、普通に妖精の『しき』が店内に登場し、告げる。
「おめでとうございますヨン! お店のレベルが18に到達したヨン!! これで二号店を建造できるようになったヨン! これからも頑張ってビックになるのを目指すヨン!」
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