依頼
僕らに話しかけて来たのは、そばかすのある茶髪のおさげの少女。
服装は薄黄のワンピース。
武器はハンマー。
しかし、装備しているのは木製のハンマー。
何故、折角の重量系の武器を耐久度と攻撃力を低下させる素材で作っているのか。
理解に苦しむ。
鍛冶師系……秋エリアにいるから『神槌』なのは確かだ。
……それでコイツは一体誰だ?
僕が怪訝そうに少女を探っていると、レオナルドがふと思い出したようで「おお、久しぶり」と返事をする。
反射的にレオナルドへ振り返った僕に、彼が教えてくれる。
「ほら、お前と会った最初のパーティ組んだ時、一緒だった鍛冶師の子だぞ」
「………ああ」
僕は適当にそれらしい相槌をした。
正直、覚えてない。
最初の印象に残ってるのは、ホノカとマーティン、カサブランカだけ。他に誰が居たやら……あまり印象に残ってない。
緊張気味の少女は、堅苦しい声で話し出す。
「い、今、お時間を頂けないでしょうか。その……呪いを浄化していただけないかと思って」
先程の会話を立ち聞きしたんじゃないかという位、タイムリーな話題に、レオナルドが素っ頓狂な声で「呪い?」と聞き返す。
しかし、少女は慌てて付け加える。
「あ、でもそのっ、直ぐにじゃないんです。上級妖怪の呪いなので、祓魔師が四人必要なんです。残る三人は、これから探さないと……」
最早、狙っているじゃないかという話だ。
僕は少女に問いただす。
「差し支えなければ教えて欲しいのだけど。一体誰が、呪いを受けたのかな?」
「あっ、ごめんなさい! 先にお願いだけ言ってしまって。そうですよね!」
……少し思い出した。
DEX極振りのステータスのせいで足を引っ張っていた鍛冶師か。
名前は、記憶にないな。と結論を導いた僕に助け舟を差し出すように、少女が喋った。
「以前、パーティを組ませていただいた『楓』と言います。お二人もご存知の――カサブランカさんが呪いを受けてしまって。その、色々大変な事に」
は?
レオナルドは「え!?」と目を見開いてしまう。
いや、本当に意味が分からない。
よりによって、あの女……大体この、楓はカサブランカと知り合いなのか? どういう経緯なんだ。
突っ込みが追い付かない状況下、僕は咳払いしてから尋ねる。
「想像がつかないな……カサブランカほどの実力者が呪いを受けるなんて」
悪い意味で、内面が腐り切った戦闘狂に呪いをかける妖怪がいるのか?
と皮肉ったつもりだ。
楓は少々、気まずそうに話しだす。
「あの……お二人が発見された春エリアのレシピイベント、なんです。事件が起きたのは」
◆
僕達が体験したイベントを、別のプレイヤーが体験した話をされるのは中々斬新だった。
楓はDEX極振りのお陰で生産職として成功したようだ。
レシピイベントも、武器作製等の交流で体験する経緯となったらしい。
だが、最初のレシピ集めはいいが、肝心のメインクエストボス――妖怪達との交流は苦戦を強いる。
僕らは適当にあしらったが、他プレイヤーは色々あるようで。
中でも楓と、彼女の知人の薬剤師が苦戦した相手とは。
「ロンロンです。最初、私の友達と一緒に思いっきり殺されてしまって。友達が挫折しちゃったんです……」
よりにもよって……
その友人が妖怪ファンなら、ショックはデカかっただろうな。
残念だが、アイツは紛れもない屑だ。
ロンロンの名を聞いてレオナルドは「え? ロンロン??」と意味深な反応をしている。
楓は気にせず、話を続けた。
「私も正直、自信をなくしてしまって……それでカサブランカさんに同行して貰えないかとお願いしたんです。あ。レシピイベントって、イベント継続しているプレイヤーがいれば他プレイヤーも途中参加できるんです」
ああ、なるほど。
流れとして自然だが……待てよ?
僕が引っ掛かった部分を的確に、楓が述べて来る。
「それで……カサブランカさんがロンロンを挑発したというか。ううん。カサブランカさんは悪気ないんですけど、思った事を正直に指摘しただけなんです。でも、ロンロンが凄い怒ってしまって」
想像がつく。
というよりも、相性が最悪だ。
カサブランカのような自意識過剰の塊は、ロンロンがいたぶりたい対象に相応しい。
僕は呆れながら一息つく。
「それで呪いを受けたと」
「は……はい。私も呪いに疎くて、何もできなくて……でも、あれって回避が出来ないと思います。避けられる攻撃とは違うんです。イベント処理とも言えなくないですけど……」
僕が感じるに散々、調子に乗っていたから天罰でも食らったのだと思う話だ。
呪いの影響で大人しくなったら、それで構わない。
たが、一つ。
カサブランカを心配に思うレオナルドに対し、僕は先手をうった。
「レオナルド。コンテストが終わるまで、駄目だよ」
「え、あ……うん」
意気消沈しているレオナルド。
楓も慌てて「コンテスト優先でも大丈夫です」と言う。
「カサブランカさんの戦闘には問題ありませんので、色々大変なだけです」
レオナルドはしっかり確認するべく「大変って?」と質問した。
申し訳なさそうに楓が答える。
「ロンロンが凄くうるさくて……ずっと喋ってるみたいなんです。カサブランカさんの隣で。私の店にいる時もそんな感じです」
楓のような奴が言うのだから、相当だな。
僕らの店でも、饒舌にベラベラ喋っているから、あんな奴が背後霊として付きまとってくるのはカサブランカでも鬱陶しく感じるほどだろう。
もどかしい様子のレオナルドが「分かった」と返事をした。
「コンテストが終わってからになるけど、浄化の取得をするよ。カサブランカにも伝えておいてくれ」
「あ、ありがとうございます! お願いします!!」
あの女が頭を下げない代わりに楓が頭を下げて、レオナルドに礼を伝えている。
僕はレオナルドに「また関わろうとして」と注意を投げかけようとしたが。
彼の様子はどこか妙で、複雑な表情を浮かべる。
レオナルド自身、自らの心境を理解できてないような、戸惑いばかりの表情だった。
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次回は8/10の投稿になります。
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