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祓魔師


 7月1日。金曜日。

 午後からログインを始めたレオナルドは、キャロルと共に秋エリアへ足を運んだ。

 生い茂る木々の葉は、暖色系。それらが地面に落ち、絨毯のように道を作っている秋らしい景色。

 『神隠し』イベントでも遠目に見た、芸術性溢れる独特な造形の建築物が並ぶ。


 その合間から、少し肌寒い風が吹き抜けた。

 レオナルドはキャロルが震え上がったのを感じ『祓魔師』の初期衣装を着て、キャロルを包み込んでやる。

 キャロルをさするように撫でながら、レオナルドは周囲を見渡し感心を抱いた。


「へ~……秋のところはつい最近まで妖怪に占領されてたって、ダウリスから聞いたけど。そんな雰囲気は感じねーなぁ」


 歴史を感じさせるような質感の壁面を持つヨーロッパ風の集合住宅が立ち並ぶ。

 途中、役場にいたNPCが「俺が家を作ってやろうか!」とレオナルドに話しかけたり、他にも「いいや、私が作る!」と割り込んでくるNPCまで登場する。

 一風変わった雰囲気の層だった。


 レオナルドが申し訳なくNPC達に言う。


「すみません。俺、この先にある訓練所に行かなきゃいけなくて……」


「おっとぉ? そうか! 住宅ではなく『育成所』か!! そこの堅物にはペットが安らぐ空間など作れないぞ。私に任せたまえ!」


 煽られたNPCも「なんだとぉ!?」と声を荒げる。


「テメェのデザインの方こそ、奇抜過ぎてペットが落ち着かなくなるだろうよ!」


「言ったな!? 貴様――」


 言い争いが激しくなるのでレオナルドは渋々、立ち去る他なかった。

 まずは、訓練所に向かう。

 『祓魔師』に昇格したら、ペットの能力を発動させられる訳ではないようだ。

 これは『祓魔師』だけに限らない。

 全てのジョブに訓練所が設けられており、そこの試験を合格することで新たな技術を取得できる。


 近頃、賢者の昇格者が増えていたが、レオナルドが足運んだ時には『錬金術師』の訓練所が異常なまでに混雑していた。

 NPCの誘導員が現れる始末である。

 何しろ、昇格条件は割と簡単な方である。

 深夜の内に、レオナルドとルイスの情報が出回り、大多数の『医者』が昇格、ここに集中しているのだろう。


「うわー……すげぇな」


 呆然とするレオナルド。

 彼に抱えられ、澄ました顔で「う~」と音を鳴らすキャロル。

 一方、アイドル騒動で墓守系が激減した影響が強く、教会のような建築物――『祓魔師』の訓練所には人が少ない。

 適当に配置されたNPCと受付嬢だけ。プレイヤーはレオナルドだけ。

 ちなみに『祓魔師』の昇格条件は以下の通り。


・『死霊の鎌』の上限解放達成。

・ノーダメージでステージクリア

・妖怪に攻撃する事なくステージクリアを30回


 レオナルドは春エリアの三面ボス『ロンロン』のステージを回避練習として何度もクリアしていた。

 あれが幸いにも『祓魔師』の解放条件だった。

 早速、キャロルと共に訓練所で試験を申し込むレオナルド。


 最初は『ソウルオペレーション』の実技試験。

 出て来る(まと)を『ソウルオペレーション』で操作した大鎌で破壊していく。

 操作が混乱しない限り、一本のみならず、最大数五本を操作しても構わない。

 これに関しては、レオナルドは慣れたもの。合格ラインを優に超える成績を残した。


 次は『神隠し』イベントでも見られた大鎌とペットを合体?させる技の取得である。

 指導者として配置された厳格な初老の神父……

 つまり、NPCの教えで話が進む。


「魂と同調する技を『和魂(にぎみたま)』と呼ぶ。『ソウルオペレーション』で行っている魂の操作をまず、そこの兎に対し行ってみなさい」


 それから、祓魔師から取得できる『和魂』の解説画面が表示される。


『和魂』

 ペットと魂の同調することで、ペットが保有するステータス補正を得る。

 『ソウルオペレーション』と併用する事で、ペットの武器化が可能。


 まず、ペット一匹のみしか武器化ができないうえ。

 ペットを引き連れられるのも、一匹だけ。これから先、強くならなければ、最大数の五匹を連れまわすのは無理な訳だ。


 レオナルドが「よし」と気合入れつつ『和魂』を発動。

 七色に灯る魂の光がキャロルの中に入り、前に見たように、キャロルが不思議そうな顔で鼻ヒクつかせながら宙に浮遊し出す。


 次にペットの武器化……と行きたいが、武器自体に特別な細工をしなければ出来ない。

 祓魔師のジョブ武器『四季の大鎌』なら問題ないと表示されたので、レオナルドが試しに宙に浮かせたキャロルと『四季の大鎌』を接触させる。


 瞬間。

 『四季の大鎌』は、赤と白を基調とした大刃と柄、小さなトランプとシルクハットの装飾が柄込みに飾り付けられた、特別仕様の大鎌に変貌を遂げる。

 これは『神隠し』イベントで見られたキャロルの大鎌そのものだった。


 落ち着いた口調で初老の神父が言う。


「武器化すると、形状はペットの意思で調整することも出来る。懐いていないペットを無理に武器化するのはよろしくない」


 レオナルドがよく観察すると、刃が普通と異なっている。

 そう()()()()()()()()のだ。

 驚きつつ、感心しながらレオナルドが大鎌と化したキャロルを撫でる。

 何となくキャロルから喜びを感じるレオナルドは、次にも技を取得していく。


荒魂(あらみたま)

 プレイヤーがペットのスキルを使用する。

 ペットがスキルを発動するよりもMPの消費量が多い代わりに、威力が上昇。


幸魂(さちみたま)

 ペットとの連携技を発動させる。友好度の高さで威力が変動。


奇魂(くしみたま)

 プレイヤーがペットを遠隔操作する。発動中、プレイヤーは行動不能になる。


「やっと攻撃スキルが使えるようになったんだなぁ」


 レオナルドは、遠い日を思い出すかのように呟いた。

 一通り、受注できる試験を終えたレオナルドは足元にちょこちょこ動き回るキャロルと共に、訓練所を後にする。

 キャロルがレオナルドの前に飛び出すと、訴えるように「ぶ!」と音を鳴らす。

 不満ではなく興奮気味なせわしない動きをするキャロルを見て、レオナルドは笑みを溢した。


「早速、戦ってみたいのか?」


「ぶぶ!」


「落ち着けって。こっちにも寄らねーとな」


 一人と一匹が足運んだのは『育成所』。

 これもまた祓魔師で取得できる要素の一つだ。ある意味、新たな生産職要素と言うべきか。

 祓魔師に昇格するとペットの育成・管理・販売が出来るようになる。


 牛からはミルクが、羊からは毛が。

 万能性高い素材を出すペットに丁寧な飼育を施すことで高品質に化ける。

 残念ながら現状、詳細な情報は一切ない。


 一応、レオナルドよりも先に進めた攻略班の情報も、目を通してみるが、攻略班が「色々地獄が始まりそう」と謎のコメントを残していた。

 要素も多い、飼育も手探り。なかなか苦戦しそうな予感がする。

 ハイテンションな受付嬢の元、レオナルドは手続きを確認していた。受付嬢は饒舌に語った。


「全季の祓魔師なんて何年ぶりかしら! 貴方に期待している()()()()もいらっしゃることでしょう!! ……で、育成所はどちらに建設しますか? 貴方は――管理データによると冬以外の層でしたら、どこでも可能みたいですわね?」


「あ、いや。まだ建てようかってのは……」


「ノン! まずは建てなければ駄目!! 貴方は祓魔師なのですから、用途に合わせて、色々育てていかないと! 水中だったら、水中が得意なペット! 空なら、飛行が得意なペット!! それが祓魔師の手段よ!」


 受付嬢の熱意に押されていたレオナルドは、恐る恐る尋ねる。


「いきなり育成所を建てるってのも、ちょっと心配で……何か必要なもんとかないんですか?」


「ハッ! 肝心な事をすっかり忘れてたわ。貴方、知人に『錬金術師』はいらっしゃる? 彼らにペットの餌を配合と質のいい()()を用意して貰わないと」


「ああ、それならキャロルの餌を作ってくれてる友人がいます」


「まあ。ふーん、確かにいい感じの()()()()()ね。適度な運動もさせてあげてるみたいだけど……ちょっと、物足りないかしら?」


「ん? そうなのか、キャロル」


 キャロルは無表情で「ぶ! ぶ!!」と音を鳴らすだけ。

 ぼんやりと、ワンダーラビットの店内の映像がレオナルドの脳裏に過った気がした。

 試しに聞いてみるレオナルド。


「店の中、走り回りたいのか?」


「う~!」


「そいつは難しいな……」


 レオナルドが頭悩ませていると、メッセージが一件届く。

 今は、単位を取る為、大学の講義を大人しく受けている遠藤ことアルセーヌからだった。


ブクマ登録と評価をしてくださった皆様、ありがとうございます。

秋エリア編は、残念ながら本格的に始まりませんが、春と夏とは一風変わった雰囲気になる予定です。

次回は8/3更新になります。

続きが読みたいと思って頂けましたら、ブクマ・評価の方を是非よろしくお願いします。

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