ジョブ3
レオナルドが琥珀の後方を伺う。
人目を気にせず、お喋りし続ける子供と思しきプレイヤー達が二十人前後おり、琥珀と同じ付き添いと思しきプレイヤーも同人数程いると分かる。
大凡四十人の行列は、目にするだけで気が遠くなる。
レオナルドがギルド関係者に疎い事や、彼が軽率な行動を取ったのは注意力の無さと言えるが、それはそれとして、この廃課金野郎の態度は大概だろう。
恐らく奴は、儀式はとっくに済ませてあるし、奴の背後に列なす新人たちの付き添いでしかない。
それなのに人の親切心を仇で返すなんて、非常識にもほどがある。
突然の展開に困惑するレオナルドを他所に、琥珀の付き人らしいプレイヤーが嫌味ったらしく言う。
「貴方達、全員譲ってくれるんですよねぇ? 早くどいてくれませんかぁ??」
光樹の件で、色々と積もり積もった苛立ちが爆発しそうだった。
平静を装いながら、僕は笑顔を浮かべ答える。
「すみません、直ぐに移動しますので」
僕はレオナルドが余計な事を口にする前に、彼の腕を掴みあげ引っ張っていく。
茜と小雪も、察してくれたようで僕らの後に付いて行く。
僕達が到着した最後尾からは神殿すら見えないほど遠く、居住区に差し掛かるところだった。
乱雑に僕がレオナルドを解放した。
彼は僕達に謝罪していたが、何も頭に入らない。
頭痛が起きるくらいに僕の機嫌は最悪だった。
茜が「大丈夫?」と声をかけたのに対し、僕は思わず苛立った口調で「話しかけないでくれ」と突き返す。
アイドルファンに絡まれた以来だ。これほど頭に血が昇っているのは。
僕はステータス等を眺めて気を紛らせながら、どうにか落ち着かせた。
気持ちに冷静さを取り戻したのは、神殿前の事。
次でようやく、夏の女神から儀式を受けられる場面だった。
それまで僕達は無言だった。
茜たちが何か話していたかもしれないが、僕の耳には全く入らなかった。
チラリとレオナルドを横目にやると、彼は真剣なのか真顔なのか、曖昧な普段の表情を浮かべている。
こうして観察すると、兎のよう。
儀式を終えたプレイヤー達が「お待たせしました」と挨拶をかけてくれる。
僕が笑顔を作って会釈した。
向こうは、何だか妙に驚いていたが、有名になった僕らの存在だと気づいたからだろうか。
突然、レオナルドが僕の方を振り返って、改めて言う。
「ルイス。俺が勝手に先を譲るとか言い出しちまったせいで、時間かかっちまって……」
さっきも謝罪してた気がしたが……
ああ、僕が落ち着くのを待っていたのか。
僕は「別にいいよ」と普段通りに答えながら、神殿の内部へ足を運ぶ。
「君が話しかけた奴は、アルセーヌも言ってた『太古の揺り籠』のギルドマスター・琥珀だ。ネットの噂を全て真に受ける訳じゃないけど、下手に関わっては駄目だよ」
あの時は頭に血が昇って冷静ではなかったので、僕はレオナルド達に尋ねる。
「そういえば……彼らは僕とレオナルドに気づいていた感じだったかな?」
小雪と茜の表情が訝しげなものだった。
レオナルドは「どうだろ」と首を傾げ、茜は「アンタねぇ……」と溜息混じりの言葉を、小雪は「さぁ……」と何とも言えない感じの返事をする。
まあ、流石に知らない事はないだろう。
そうこうしているうちに、石壁の一部が崩落し、苔や蔦が生え放題、手入れされていない神殿内部に到着する。
管理されているのが分かる春の神殿とは、まるで違う。
僕ら以外にも、儀式を受けるプレイヤー達も後からやってきた。
今、この場にいるのは、一度に儀式を受けられる最大人数十二人のプレイヤー。
春の女神同様、半透明の女神が僕らの前に出現する。
全体が緑で統一された引き締まった体型をする夏の女神は、穏やかな春の女神とは違い、乱雑だった。
『ったくよぉ。まーた人間が来やがって。ええと、なんだなんだ』
プレイヤー全員を一通り観察した夏の女神は『ふーん』と意味深な反応をしてから、手元に緑色の――夏のエネルギーらしき光を集中させた。
『いいか、お前ら。今から季節の枷を解いてやる。枷が外れりゃ体調崩す軟弱者が一人や二人出るからよ。気ぃつけるんだな!』
――バシュ!
彼女から夏のエネルギーを投げ込まれるという、春の女神とは違う荒々しいやり方だった。
僕達全員の体にエネルギーがぶつかった軽い感覚。
他プレイヤーが咄嗟に「うおっ?!」と声を漏らしていた。
これでプレイヤーに変化が起きるか否かがある。
ショブ3への昇格条件を満たしていれば、プレイヤーが光に包まれ昇格。
ジョブ3の初期衣装を着て、ジョブ3の武器に変化する。
条件が満たされていなければ何も起きない。
条件を一つ満たしたとメッセージが表記されるだけ、武器も衣装も変化しない。
この状態でジョブ3の昇格条件を満たせば、自動的に昇格する。
「よっしゃ~! ジョブ3だ!!」
歓喜極まる他プレイヤー達。
僕らと共に儀式を受けたプレイヤーは『魔導士』。
ラザールのお陰で、昇格条件が判明しているジョブだからこそ、彼らが『賢者』に昇格するのは当然のこと。
賢者のジョブ武器はペンダント状の石。
杖とは違って、敵を殴れない形になってしまったが、首から下げるだけだと、箒で飛行しながら魔法を発動できるので便利なのだとか。
そして、肝心のレオナルド。
ダークな雰囲気の『魂食い』の装備と変わって、七色の光沢がある白ファーが装飾にある、フード付きのマントを靡かせ。
『祓魔師』の制服らしい煌びやかな装飾があるキャソック――所謂、神父服という中々な恰好だった。
ジョブ武器も、季節石に似ている七色の光沢放つ刃に変化して。柄も白ベースに薄緑の光沢がある手触り良さそうな質感に見えるものと化した。
馬鹿目立つレオナルドの姿は、色合いから考えるに『全季』のプレイヤーが取得できるジョブ衣装とジョブ武器だと分かる。
問題は――僕だった。
全く心当たりなかったし、レオナルドのような特別なアクションがあった訳じゃない。
まさか、僕が昇格条件を満たしているなんて、どういうことなのか。
光に包まれた後、ジョブ武器が医療鞄から、側面に勲章が刻まれている白のスーツケースに変化していた。
服装も、秋の層以降の気候に合わせて、厚めの長袖長ズボンの真っ白な制服。
反応に困っている僕に、メッセージが表示された。
<おめでとうございます! ジョブ3の昇格条件を満たした為、『錬金術師』に昇格しました!!>
・『若葉の医療鞄』の上限解放達成。
・合成薬品100個以上、作製達成。
・アイテムを200個以上、捨てる。※スタック数込みで上限は満たせます。
道理で、今日まで誰も分からない訳だ。
アイテム管理するジョブである薬剤師系が物を捨てる……百や二百ほど捨てる機会なんて、早々起きない。
僕の場合は……ああ、あれだ。
『神隠し』イベントで連鎖爆発を起こす為に『火炎瓶』を捨てまくったアレか。
僕はゲームオーバーで離脱したが、一応、カウントはされていたのか。
極めつけに、レオナルドはともかく僕にまで他プレイヤー達が問い詰めて来る。
「え!? ウッソだぁ!!? 『錬金術師』の昇格条件判明したの!?」
「あの、すみません! 昇格条件教えて下さい!!」
「性能! ちょっとだけでいいから、性能見せてくれよ!!」
今日は厄日だ……
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次回は8/1更新になる予定です。
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