約束
ケイは序盤、通常攻撃ばかりを繰り出す。
そのくせ、姿形を変化させ、上空に舞い上がるのだ。
決して地上に降りないことは無いが、飛ばれては接近型の光樹や茜は手出しできない。
小雪も回避をしながらも、幾度かランチャーの弾をケイ本体に命中させる。
ある程度、ケイの体力が削れていくと、次は『回復不可』の状態異常の付与する正四角形の形態、更には不気味な炎を放射する噴射機のような形態、高速移動する車輪型の形態などなど、変幻自在だ。
レオナルドの『ソウルシールド』で状態異常を防ぐが、長引いてしまえば魔力消費が激しくなるだけ。
無論、レオナルドは手を抜いていないが、大鎌の攻撃力は低め。
いよいよ、僕の手持ちにある『回復薬』も尽きてきそうになった。
持ち込んだ『回復薬/大』のスタック数は、上限の99個。
もう少し持ち込めばと指摘されるだろうが、僕が回避に専念する以上、手持ちは可能な限り少なくしなければならない。
ケイの体力は残り三割。あともう少しと言えるギリギリ厳しい状況が続いていた。
僕は全員に聞こえるよう叫ぶ。
「もうすぐ『回復薬』が尽きます!」
ケイが一旦地上に降り、火炎放射形態に変化。
これに対し、茜が意を決してケイに『ラハールインパクト』を使い接近、広範囲のスキル技『クリオコナイトホール』を叩き込んだ。
小雪も最後と言わんばかりにランチャーの残弾を全て打ち尽くす。
レオナルドも五本の大鎌を見事に操作し、ケイーにダメージを与えているが、やはりあともう一歩。
そこに、光樹がスキル発動しながらケイに接近するのが見えた。
剣に纏ったオーラから判断するに『コスモスラッシュ』。
混戦だからこそ、コンボが継続しないスキルを使い、必殺技を放とうとする。
トリスタン戦と同じパターンを繰り返すつもりか。
レオナルドが逆刃鎌に乗ってケイの後方に回り込み、五本の大鎌全てで切り刻む。
だが、ケイは怯む素振りが無い。
図体の丈夫さを活かして、僕らに対し攻撃の手を緩めない魂胆だ。
辛うじてダメージを最小限に抑えながら接近した光樹が、ケイに黒曜石の剣を叩き込む。
ケイの体力が一割切ったところで、ケイは周囲を振り払う。
再び別形態に変化。レオナルドが持ち直して、再度攻撃を仕掛けようとしたが……光樹の必殺技『ミルキーウェイ』が発動する。
一つ違うのは、光樹がケイを掴んでいた事。
正確には、勇者の剣を包帯の合間に入れ、強引な手段でケイにしがみ付いている。
光樹は振り払い後にそれをやった。
『ミルキーウェイ』は、プレイヤーを中心に星の濁流が駆け回るもの。
美味い具合に必殺技が炸裂したことで、奇跡的に全滅する事無くケイが逃走、ステージクリアとなった。
「いやぁ、年に似合わず泥臭いもんやってしまいました」
微笑浮かべながら光樹がのたまう。
レオナルドは満足気で、茜と小雪は満身創痍で奴に礼を告げ、僕も「さっきのは良かったでした」と褒めておいた。
パーティメンバー全員が協力して、勝利を収めた。
表面上はいい結果だが、問題はこれから。
五面以降は、道中ボスも強さを増していく。
固定シンボルの妖怪を倒さなければ先に進めない仕様を除いて、今まで以上に足早で駆け抜けなければならない。
茜と小雪も、ここから先は自信ない。
双方共に「先に行っちゃっていいから」と僕らに告げてきた。
レオナルドの表情は普段通りながら、真剣な眼差しで挑む。ここから先も、レオナルドの活躍次第だ。
彼なら確実に道中ステージをクリアできる。
僕はクエスト受注をし、通常通り、田舎臭い廃村の五面道中ステージなのを確認。
……さて、普通に考えれば悪い意味で通常のメインクエストから逸脱している事から、ガレスたちに巻き込まれる心配はない筈だ。
先行しているレオナルドも、ガレス達の姿は無いと報告してくれている。
四面道中とボス戦で時間短縮したお陰で、予定より早くクエストは進行していた。
しかし、不思議だ。
僕は少し前、レオナルドがマーリンを『ぬらりひょん』だと考察したのを推していきたい。
『ぬらりひょん』なら、あそこまで無防備だったのは納得できる。
なら……アーサーとは何なのか?
将来的に、まだアーサーを攻略する予定は皆無だ。
それでも少しは考えておいた方が良い。
ゲーム探索のプロたる攻略班やゲーム廃人が、アーサーが捕捉できないのは『ぬらりひょん』故ではなく、本物の『ぬらりひょん』こそマーリンだから見つけ出せていないからか?
いや。妙な点が多過ぎる。
マーリンが『ぬらりひょん』だとして、アーサーの暴力を止める事は出来ないのか。
彼らの社会では正当化された暴力だから許された?
ありえる以上、否定も出来ないな。
悶々と思案している内に、僕らは五面道中ステージをクリア。
レベルとプレイヤースキルが低い、茜と小雪、光樹が途中離脱を幾度か行ったが、僕とレオナルドは問題なくステージを完遂してみせた。
いよいよ始まる夏エリアのメインクエスト五面ボス『ベディヴィア』戦。
茜が武器の耐久度回復をしている間、僕とレオナルドは一旦、店に戻る事となる。
僕は薬品補充をしに、レオナルドは休憩していたキャロルを手持ちに加える為に。
キャロルは、ジャバウォックと戯れていて、撫でられたり餌を与えられたりとリラックスしていた。
だが、レオナルドが現れれば鼻をひくつかせ、嬉しさ満点で近づく。
ジャバウォックは、どことなく不満そうだった。
レオナルドが「よしよし」と撫でまくり、心地よさそうなキャロルに頼む。
「あともう少しだ。一緒に来てくれるか? キャロル」
「う~」
返事か、心地よさを伝えているのか、曖昧な音を鳴らすキャロル。
微笑ましく眺めながら僕はレオナルドに伝える。
「レオナルド。僕の準備は整ったよ」
「おう、わかった」
レオナルドがキャロルを加える操作をしていた時だった。
唐突に、ジャバウォックが駆けだしたかと思えば、兎の小物を掲げ、庭の門の向こう側へ威嚇している。
一際変わった男がいる。
古代ギリシャの……ヒマティオンとかキトンと呼ばれていたか、その布を巻きつけたような服装を着熟し。
肌があまりに真っ白だが、体はそこそこの筋肉質。
赤眼。
僕と同じ銀よりか、カサブランカと同じ白に近い色合いの髪が逆立っている。
漫画のキャラ? どちらかと言えば……アルビノか?
警戒するジャバウォックを汚物を見下すような表情をするアルビノの男は、僕とレオナルドにも気づいて、門の縁を指先でトントン叩く。
「ふん……店は開いていないのかな」
僕が「すみません、ここは」まで言いかけたのを、レオナルドが制止しながら代わりに即答した。
「今、立て込んでて開店できない状態なんです。少ししたら足を運んで貰えますか」
レオナルドの言葉を聞いて不敵に笑う男。
「また来る」と言い残して、立ち去っていく彼を見届けてからレオナルドが眉間にしわ寄せて、僕に告げる。
「あれ……多分、NPCだ」
「……まさか?」
僕は耳を疑う。
イベントでも流暢なNPCを幾度か見受けられるが、あれも? 服装は際立っていたが……
小物を掲げながら勝利を体現しているジャバウォックを目にし、僕も理解する。
「あれは妖怪だったのかい? ジャバウォック」
無垢な表情でジャバウォックは答えてくれる。
「ラビット仮面は平和を守る為に活躍するのだ」
「……成程ね」
いつもだったらプレイヤー相手には「ふぉんふぉん」とサイレン音を口真似するジャバウォックだが、さっきの対応は普段とは何か違う。
アルビノの男相手に、遊ぼうとはしなかった。
これには、レオナルドが不安な表情を隠せない。
「大丈夫、じゃないよな。ヤバくなったら逃げろよ? ジャバウォック」
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そして、春エリアにも脅威が来る?
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