ケイ
それから、どうしたか。
僕らは再び馬車に揺られながら、草原を移動し―――何事もなく目的地に到着した。
突っ込み所は多くあるだろう。しかし、事実だ。
道中、決して妖怪が登場しない事はなかった。
それでも出現頻度は、ポツポツレベル。序盤と大差ないほどの数。
シナリオイベントでこんな結末、あっていいものか。失敗ではないかと不安をかき立たせる状況。
目的地に到着し、先行していた精鋭部隊と合流する僕ら。
NPCの精鋭部隊も白昼、妖怪に出くわしたような驚きようを見せる者から、僕らが草原を走ったか怪しむ者、僕らが妖怪に化けた類かと疑う者まで。
様々言われているが、僕らは反論ができない。
これも、イベントに含まれているようで、喋る事は愚か、身動き一つ取れない状態だ。
最終的に精鋭部隊の一人が、僕らに告げる。
「悪いが、お前たちにはここで離脱して貰う。今回の一件は剣聖『ギルベルト』殿に報告する。不正行為が確認されれば、厳しい処分が下されるぞ。分かったな」
表示されたメッセージは『ステージクリア』表示だったが、何とも腑に落ちない結果である。
普通にクリアしてこれなら、マーリンと交渉するのが正解だったのだろう。
クエスト終了と共に、集会所に戻される僕ら。
その全員にメッセージが届いていた。NPCからの特殊なメッセージ、という名の通達。
内容は以下の通り。
<登録会員:1XXXXX ルイス様>
先日、受注して下さった任務において、不正行為があると報告があり、剣聖『ギルベルト』様の監視の元、厳正な調査を行いました。
調査の結果、残念ながら皆様の不正行為が確認されました。
これにより、ルイス様を冒険者組合から除名処分させて頂きます。
敬具
酷く短く一方的な内容だった。
普通の人間なら全く納得できない。
僕らはしっかり命令されたルートを辿って目的地に到着したのだから。
冒険者組合だとか、なんとか色々書き込まれているが、別途の運営側からの重要なメッセージが届いており。
これはあくまでシナリオイベント上の演出であり、今後のクエスト受注等に支障は発生しないと明記された。
内容に目を通した光樹は、相変わらずの陽気な態度でヘラヘラ喋る。
「正解じゃありません? 面倒な話に付き合う必要あらへん」
茜が「結果論だからね」と鋭く注意をする傍ら。
僕は肩の荷が下りた気がした。一安心という奴か。変に時間を食う必要はなくなった訳だ。
思わず、レオナルド達に構わず僕は言う。
「すみません、ありがとうございました。僕やレオナルドには、マーリンを攻撃できませんでした」
結果論ありきでも、結果的には好転した訳だ。
あれが僕とレオナルドの二人きりならともかく、今日はそうじゃない。
茜や小雪の存在があるだけで、僕は保身に走ってばかりだった。
一応、礼は言っておかないと気が済まない。
光樹は驚いたように目を見開いてから、いつも通りの笑みを浮かべる。
それにしても、レオナルドは演出として通知された内容に複雑な表情だった。
「どうして駄目だったのかな、これ」
小雪が彼女なりの考えを伝えた。
「普通に疑われたとか、ですかね? それかギルベルトって奴が手柄を横取りしたいから??」
「うーん。俺達に命令した女の人は関係なさそうだし。何とも言えねーなぁ」
腑に落ちない様子のレオナルドや僕たちを見て、茜は過ぎた事として割り切って話を進める。
「ちゃっちゃと次に行くよ、次」
少し間が開いたように感じるが、いよいよ夏エリアの四面ボス『ケイ』だ。
これもなかなか厄介な相手だ。
僕は咳払いし「そうですね」と全員の注目を集めて話す。
「『ケイ』は僕の生存が重要になります。僕は回避に専念するので、攻撃はしません。各自立ち位置は前方に光樹さんと茜さん、中央はレオナルド。後方に小雪さんでよろしくお願いします」
自信なく小雪が手を上げて、宣告してくる。
「すみません。最悪、私死ぬかもしれません。大丈夫ですか」
茜も気まずそうに便乗した。
「あたしも。体力は低いんだよ……最悪、レオナルドとルイスだけ残るんじゃないかね」
すると、自分もいるぞとキャロルが体から音を鳴らす。
だが、今回ばかりはレオナルドは「キャロルは休んでてくれ」と撫でてやっていた。
話の内容を聞いて、不思議そうに光樹が尋ねる。
「そない強いんです? 次のボスさん」
僕は「いえ」と首を横に振って否定した。
「ケイは全体攻撃の範囲が凄まじいんです。遠距離型殺しと言われていますね。ある程度、プレイヤースキルがあればいけますし、体力が多いプレイヤーは攻撃に耐えられます」
全体攻撃の猛襲を動画等で確認したが、全て回避しようものなら相当のプレイヤースキルが求められる。
並のプレイヤーでも苦戦するのだ。
今回ばかりは、キャロルは留守番。
最終的に残りそうなのはレオナルドだろう。
僕も、回避に自信はある方だが、控えめに評価し、光樹にも伝える。
「無理せず回避しようとは考えなくて構いません。少しでも攻撃してくれるだけでも十分です」
◆
夏エリア、メインクエスト四面ボスエリア。
因縁の草原を後方に、先に広がる荒れ地へ僕らは転移された。
エクストラクエストの件が反映されているようで、本来登場する『しき』の姿がない。
代わりに無機質なメッセージが目の前に表示する。
『パーティメンバー全員の承認がされた後、クエストを開始します』
バックストーリーを考えるに、冒険者組合に所属していると『しき』のような妖精がサポートに現れる、といったところか。
僕はその辺りに関心がないので、深く追求しない。
全員が承認を押し、通常通りボス戦が開幕。
耳をすませば、荒れ地から静かな音が聞こえる。
突如、薄汚い包帯が露わとなり、その包帯は瞬く間に何かに巻きつき出す。
ブラキオサウルスを彷彿させる首長竜の形状に包帯が巻かれ、盛大に鳴き声を上げた。
この透明人間ならぬ透明生物が『ケイ』。
こいつが何故、厄介かと言えば……早速、首長竜の形状が崩れ落ち、胴体との構造を有耶無耶にし、長い首を鞭の如く振り回しだした。
僕は手早く一人一人に似合った『薬品一式』のセットを使用。
それから、ケイの攻撃回避をするが、早々に小雪たちはダメージを受けて、レオナルドは逆刃鎌の浮遊移動と『ソウルターゲット』を駆使し回避。
僕はタイミングを測りながら『回復薬』の準備をした。
ケイは透明で正確な形状が不明確だからこそ、どんな形状にも変化し、攻撃するという理不尽の塊のような奴だ。
一体、何を食って透明人間から、こんな発想をしたのやら。
長い鞭の形状変化も終わり、次は巨大で三日月の形状となって回転しながら縦横無尽に飛び交うケイ。
無論、接近攻撃では済まない。
上下左右、360度に遠距離斬撃を飛ばすべく、一旦上空に浮上して攻撃開始する。
他にもバリエーションは様々あるが……これらの猛襲を、大鎌を傾ける角度を調整、時には真横に等しい体勢に倒れ込み、攻撃を掻い潜っていくのがそう――レオナルドだった。
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以前、整理券の件で『しき』とは違う妖精が送り込まれたように、色んな妖精がいます。その辺りにはまだ触れられませんが……
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