ギャラハッド
あれから何事もなく道中ステージはクリア。
だが、どうだろう。
四面以降の道中ステージもアレの繰り返しであったなら……
レオナルドの大鎌の耐久力を回復する為、茜の鍛冶屋に寄ってから三面ボス『ギャラハッド』に挑戦しようとした。
光樹が嫌らしく言ってくる。
「やっぱり、殺した方がええんとちゃいます?」
お前が殺したいだけだろう。
新たに登場した『鎌鼬』のモルドレッドは、レオナルドが倒して立ち去った訳ではない。
僕は、睨みつけずにはいられずに、視線を送りながら光樹へ反論する。
「いいえ。しません。レオナルド、ダメージはどれくらい与えたか分かるかい?」
休憩がてらキャロルに餌の乾燥した草を与えながら、レオナルドは唸った。
「そもそも体力ゲージが表示されなかったんだよな。一定時間の耐久か、ある程度のダメージを与えたら撤退してくれるって奴かな」
光樹は残念そうに天を仰ぐ。
「なんやぁ、倒せへんのは面倒やわ」
まだ大して強くもなっていない癖して倒そうなど出過ぎた真似だ。
小雪も念の為、武器を手入れつつ「いやいや」と独り言に近い突っ込みをする。
しかし、だ。根本的な解決になっていない。
今回、レオナルドとモルドレッドでタイマン勝負に持ち込んだからこそ、対処可能だった訳で。
次からガレスにトリスタン、ランスロット、モルドレッドが共闘して現れないとは限らない。
次の『ギャラハッド』を倒せば、奴も加わるだろう。
更に四面の道中ステージは、だだっ広い草原が続く。
妖怪が湧けば、即座に視認できるほど障害物の類は一切ない。
あそこでガレス達、全員の襲撃を受ければ……僕も思案してみる。一旦、フラグのリセットは出来ないだろうかと考える。
つまり、あそこのフラグ……キャロルがガレスを発見しなければ、という事。
イベントは連鎖的に発生するのか。
フラグは継続されるのか。
こんな時に、攻略班が働いてくれればいいものの。
僕とレオナルドは上手く立ち回れば、猛攻を回避できる自信はある。
問題は、茜と小雪。
今後のメインボスを討伐するには、彼女達の協力があった方が楽だ。
何より、彼女達に日頃の礼をしておく意味で、夏エリアの攻略を共に挑んだのだ。
………………
僕は改めて皆に話す。
「今回ばかりは僕の判断ミスでした。ガレスが登場した時に、キャロルを置いて再走するべきでした。申し訳ございません」
素直に引き下がる事にした。
馬鹿の一つ覚えでムキになっても解決しない。
僕が頭下げたのに、光樹が何か言うかと見構えたが、奴は無言だった。
奴の表情は、今の僕には分からない。
茜は一息吐いて「しゃあないよ」と気休めの言葉をかけてくれる。
今からでも、キャロルを外した状態で再走すれば今日中はともかく、明日までには夏エリアを攻略できる筈だ。
僕が再走を提案しようとしたが、小雪は意外な発言をした。
「え、何言ってるんスか。このまま『ガウェイン』までやっちゃいましょうよ」
僕は顔を上げて彼女に尋ねる。
「このままだと小雪さん達に負担をかける事になりますよ?」
「あ、全然大丈夫です。マギシズは他の糞VRMMOより一億倍マシですよ。道中ステージは誰かがゴールすれば全員クリアになるヌルゲー仕様なんですから。私は死んでも無視して構いません。気にしないんで」
リアリティのあまり、VRゲームでは感情的になりやすいプレイヤーがいる。
PKの躊躇も、ペットのような愛着湧く類も、プレイヤー同士のトラブルからNPCに対する恋愛まで。
小雪に関しては、かなり割り切っていた。
茜も武器の耐久度回復を終えて、腰を上げながら言う。
「あたしも全然いいさ。アンタの方はどうなんだい」
彼女が問いただした相手は光樹。
目を丸くして「自分?」と聞き返しながら、せせら笑う光樹はこう答えた。
「自分はまだまだ分からん事、多いですんで皆さんに合わせます。レオナルドさんは?」
レオナルドは「ああ」と頷き。
キャロルも気合入れるように「う~!」と一つ鳴いた。
意外性と安堵を得られた僕は「ありがとうございます」と気持ち程度の感謝を表明。
改めて、三面ボス『ギャラハッド』のクエストを受注する。
僕らが転移された場所は、幹の細い木々ばかり植わる山道の途中。
舗装もされていない、ただただ草木が生い茂るだけの場所。
そのど真ん中にいる僕らの前に『しき』は出現する。
「この辺りは、人の手が入っていない夏の層でも珍しい場所の一つヨン。こういう場所によく妖怪は住み着いているヨン! 定期的に見まわりをしているけど、最近、ここに立ち入った人間が失踪してるみたいヨン。気を付けるヨン!!」
注意を呼び掛けた『しき』が消え去るや否や。
地面が揺れ動く。せり上がるように地中から土塊の壁が出現。そこに埋め込まれたような形で人間の男顔と腕半分だけを形どったソレこそ『ギャラハッド』だ。
妖怪の『塗壁』にあてがわれたギャラハッドは、嘆きの呻きを上げる。
これがボス戦開始の合図だ。
今回、前線に出るのは僕と茜、そしてキャロル。
小雪はいつも通り、邪魔にならないよう後方へダッシュ。レオナルドは光樹と共に、僕らとギャラハッドから一定距離を取る。
二人で僕らのサポート……正確には、キャロルのサポートをして貰う。
ギャラハッドがブツブツと呟き出す中、僕は茜に呼び掛けた。
「奴の攻撃は僕が対処するので、攻撃に集中してください!!」
「はいよ!」
ギャラハッドの体に周囲の土が纏わり、段々と肉体を肥大化させていく。
僕は『薬品一式』でセットしておいた『蒸留水』10連打をギャラハッドへぶちかます。
キャロルも最低限のAIだが、弱点を理解しているようで、液体の入った瓶を開放。小規模な水鉄砲をギャラハッドに与えた。
小雪からいつもの「撃ちまーす」の合図と共に、遠距離から氷結系の銃弾が放たれる。
一時的に凍結状態となるギャラハッド。
装甲の高いギャラハッドを茜が叩き、ダメージを与える連携だ。
しかし、途中からギャラハッドの肉体が発熱する。そのタイミングを光樹が「そろそろ赤くなります」と教えてくれた。
茜がギャラハッドから離れるや否や。
マグマ状と化したギャラハッドは、氷を溶かし、高熱のドロドロ状態と化する。
ギャラハッドはマグマで形状変化を行い、大きな巨人の腕を形取った。
マグマをまき散らしながら振り回す巨人の腕。
僕の『蒸留水』がマグマと衝突すれば固まっていく。なのでキャロルも水鉄砲を腕に当てるが、まず小さなキャロルが攻撃回避しなければならない。
そこをレオナルドがフォロー。
逆刃鎌による浮遊移動で攻撃をすり抜け、キャロルをすくいあげる。
こうして、水によりマグマの肉体が固まったギャラハッドを茜が叩き込む。
その次、最終形態は一味違う。
再び光樹が「時間なります」とタイミングを告げれば、周囲の鉱石がギャラハッドにまとわりついた。
石や鉄以外にも、現実で言う宝石類がギャラハッドにまとわりつく事で強固な防御として完成される。
ただ、この状態だとギャラハッドの挙動は一段と低下。
攻撃回避は茜でも余裕になる。
茜と、レオナルドとキャロルが離れたのを確認し、僕が次に使用するのはもうお馴染みになった『火炎瓶』だった。
ブクマ数408件突破しました!
累計PVも間も無く30万を突破しそうです。皆様、ありがとうございます。
夏エリアのシナリオに関しても何等かの形で触れていきたい感じですが、もう少し先の話になります。
続きが読みたいと思って頂けましたら、ブクマ・評価の方を是非よろしくお願いします。