ランスロット
次の二面道中を攻略中に、僕は強い口調で光樹に注意した。
「あの時は、レオナルドが機転をきかせてくれたので良かったですが。今後は独断で作戦を無視しないでください。光樹さん。他のパーティでもそうですよ」
対して光樹は「ああ、すんません」「行けそう思って、つい」とケラケラ笑いながら弁解する。
僕が深々と溜息つく。
今回は、不用意に場を乱すのは抑えたい。
いくらレオナルドが対処してくれるだろうと思っても、パーティの連携を乱すなんて。
二面の道中は、トリスタンのいたコンサート会場の奥に進んだ道。
深く淀んだ雰囲気の沼地が続く。
こんな場所には当然、あれしかない。
先行するレオナルドの『ソウルサーチ』が捕捉した、沼から凄まじい速度で僕らに接近する魂が一つ。
僕らはただただ、先を急ぎ続けるので基本は無視する。
だが、前方側から接近する沼の中に潜む魂は対処しなくては。
レオナルドが冷静に言う。
「光樹さん、向こうはフェイントかけてくるのでタイミングに気をつけて下さい」
それに返事をせずとも、光樹は黒曜石の剣を構えている。
一瞬、飛び出すかのように岸へ接近した魂は、即座に切り返して、岸から距離を取った。
レオナルドが注意を促したフェイントである。
再度、接近した際、沼の底から飛び出す存在――『河童』が沼に引きずり込もうと襲い掛かる。
光樹は黒曜石の剣で三回、最後に勇者の剣で一撃、河童に食らわせた。
大凡のダメージ計算は済んであるのだろう。
次々と沼から襲い掛かる河童を、光樹が薙ぎ払う。
岸に上陸し、皿を投げつける河童たちは後方から僕らを攻撃する。
ソイツらはキャロルのトランプ攻撃、小雪の中距離射程の銃器、レオナルドの浮遊移動する大鎌などで倒す。
この厄介な道中には、他プレイヤーも苦戦を強いる。
茜は僕の薬品込みでも僕らの中ではAGIが遅いので、ひいひい声を上げていて。
自棄気味に銃弾を消費する小雪も「ああ、もう河童は嫌!」と叫ぶ。
河童の猛攻が一旦、落ち着いた頃だった。
先行していたレオナルドが、何かに気づいて引き返す。それから僕らに告げた。
「あっちは駄目だ。あの狛犬……ガレスっぽい奴がいる」
……よりにもよって、最短ルートで通ろうと思ったところに居るなんて。
仕方ない、ルート変更だ。
イベントに時間を食うよりも、マシだと考え、僕らは遠回りのルートを選択する。
こういう時の為、レオナルドが先行して様子見してくれるのは有難い。
次の道中ステージも途中でガレスと思しき狛犬が現れ、ルートを迂回。
その次はトリスタンが居たらしい。これもルートを迂回。
更にその次にはガレスが……どうなってるんだ? イベントに遭遇しやすいよう工夫されているのか??
まあ、どれも回避していった。
変に探られたくないから断言させて貰うが、レオナルドは嘘をついていない。
僕らが迂回ルートを選択した際に、遠くからガレスの姿が見え、トリスタンが奏でている音色が聞こえた。
予定よりも遅くなってしまったが、無事に夏エリアメインクエスト二面ボスエリアに到着。
道中ステージと同じ、薄気味悪い森。
転移された僕らの眼前に、霧立ち込める湖が広がっている。
トリスタン戦に続いて『しき』が現れ、僕らに話す。
「やっぱり、この辺一帯を支配下に置いた妖怪が現れたみたいヨンね。ここは人間の住む街に近い場所……放っておくのは危険ヨン! すぐにでも追い出さないと、人間が襲われるヨン」
マザーグースの一件で分かっていたが、この世界では妖怪をとにかく駆除するべきとの常識な訳だ。
春の層と同じ。
支配下に置く妖怪が居る方が、均衡が保つ事もある。
しかし、問題は『アーサー』個人の性格。
先に情報を把握している僕は『アーサー』が、マザーグースのような善良さや良識のある人格者には思えない。
何故なら……
最後に『しき』が「みんな、頑張るヨン!」と一言残して消え去ったか否や。
湖が揺らめき、底から妖怪がのっそりと登場。
水で滴るボロボロの衣を着た男。
彼のボサボサな緑髪、その天辺には人間的な容姿に似合わない河童の特徴たる皿が載せられている。
ただし、皿は大きくひび割れていた。
河童の皿が割れれば力を失うか、死ぬと言われているが。
どうやら、この世界観では死に至らず、弱体化する程度なのだろう。
この酷く痩せこけた河童こそ二面ボス『ランスロット』だった。
開口一番にランスロットは震える声で、早口に喋る。
「トリスタンとガレスは何をしていたのだ! に、人間の侵入を許したなどアーサー様に知られれば、た、タダでは済まない。こ、殺される……!!」
実に物騒な話だ。
トリスタンはどう思っているか知らないが、少なくともガレスとランスロットは妖怪にも関わらず、使える主に恐怖しているのは明白だ。
普通ではない。
だが、ランスロットに同情する暇もない。
奴は主からの暴力を回避したいが為に、僕らを攻撃して来るのだ。
僕が予定通り、全員に薬品を使用。
レオナルドは『ソウルシールド』と『ソウルサーチ』を発動。
遠距離型の小雪だけは離れ、僕達は湖の水を操作するランスロットに迫る。
ランスロットの攻撃は、トリスタンほど機敏ではない。
しかし、厄介なのは湖の水で楕円状の大きな塊を八個形成。
ボールの如くバウンドし動き回る水塊にプレイヤーが接触してしまうと、水中に飲み込まれ、デカイ水ダメージを受け、地面に叩き付けられる。
水塊自体の回避はVR慣れした初心者でも余裕だが、問題はランスロット本体。
コイツが水塊を介して、素早く移動を繰り返し、隙あらばプレイヤーに攻撃する。
だが、水塊にいる時は雷魔法が効果は抜群という。
劣化版のバンダースナッチだ。
これは僕らはランスロットを追い、遠距離から小雪がランスロットが入った水塊に雷の魔石で作製した銃弾を撃ち込むだけ。
とは言え、僕は辛うじてランスロットの水塊からの飛び出しを回避できるが。
茜と光樹には難しいようで、攻撃をうけそうになるところを。
レオナルドが大鎌で無理に押し出す、吹き飛ばすなどでサポートをかけていた。
小雪の宣言がされる。
「撃ちます!」
ランスロットが飛び移った水塊に銃弾を撃ち込み。水塊全体に雷撃が走った。
発光で視界は見えにくいが、ランスロットの叫びは聞こえる。
一旦、水塊が解かれ、大量の水が傾れ込んだ。
茜はハンマーの重さで水流を耐え、キャロルは瓶の中に避難して、流されていく傍ら。
レオナルドは『ソウルターゲット』で倒れたランスロットに接近。
光樹は水の抵抗をなくす『ミネラルレイド』を発動。水色の光に包まれながら、レオナルドと共にランスロットへ攻撃を叩き込む。
僕が事前に教えたランスロットが持ち直すタイミングを測った光樹は、レオナルドに合図を送る。
体勢を整えたランスロットは、僕らから距離を取るべく異常な脚力でジャンプ。
再び、水塊を形成する。
これを三回繰り返せば、無事に勝利する。
今回に関しては、光樹も大人しく指示通り動いてくれた。
いや、単純にトリスタンよりも厄介なランスロット相手に必殺技を叩き込めなかったからだろう。
ステージクリアの表示と共に、ランスロットは倒されること無く、悲鳴を上げながら逃げ去る。
茜は申し訳なさそうに項垂れる。
「は~……今回は何も出来なくて悪いねぇ」
僕は「いえ」と彼女に言う。
「相手が相手ですから、あれは仕方ありません。茜さんは次の『ギャラハッド』をお願いします」
茜もそうだが、攻撃の相性的にキャロルも活躍できなかったのだ。
しかし、キャロルも『ガウェイン』では活躍して貰わなくては。
一息ついていると、光樹がレオナルドと会話をする。
「レオナルドさん。あれ、どう思います? 見ましたでしょう?」
「うーん……」
「妖怪は人間と社会の在り方、似とるんですかね? 自分、ゲームの世界観よう分からんですけど」
「違うみたいです。なんで、俺達人間の価値観でどうこう解決できないかと」
「ははあ。面倒やわ」
……なんの話か。今は置いておこう。
まだ二面ボス討伐だ。次の『ギャラハッド』はレオナルドと光樹では相手が悪い。小雪もだ。
僕と茜、ついでにキャロルが相手しなければならない。
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なんだか、楽勝に進んでいる気がしますが、ソロだったりレオナルドとルイスのような攻撃+サポートのみですとキツイボス戦になります。
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