ガレス
何だかんだで効率的なパーティが結成された。
小回りの利く剣豪の光樹が主に、敵を倒す主戦力として前線に出る。
僕が身体強化の薬品に加え、攻撃力アップの薬品も使用してやると馬鹿な攻撃極振りが相まって、道中の雑魚妖怪程度なら余裕で倒せるのだ。
光樹は暗算が得意とレオナルドから説明を受けたが、あと半発、何回攻撃すれば、倒せるというダメージ計算を戦闘中にする以外にも。
体感時間まで正確で、僕の効果時間の確認過程が無駄だと言わんばかりに「あと十秒できれます」と指摘してくる。
その点は僕も関心したが、光樹は体力僅かな敵をあえて攻撃力の低い『勇者の剣』で倒したり。
状況によっては、僕達に倒すよう頼んでくる。
これを急に振ってくる。戦況の流れが崩されるワンマンな独断専行が多い。
ハンマーが武器の茜は即座に対処できない。
小雪は銃弾を無暗に使えない。
なので自然と、適度な攻撃力を持つレオナルドが名乗りを挙げてくれる。
「じゃあ、俺が弱った奴を倒していくんで、光樹さんはいつも通りにやって下さい」
気楽にやっていいと受け止めた光樹は「ありがとうございますぅ~」と調子良く戦っていた。
どこかでヘマしないかと、僕は黒い感情を胸に秘めたが。
事後処理を行うレオナルドは、キャロルと共にパーティ全体のサポートをしてくれている。
僕が回復役なら、レオナルドは戦闘補助。
『ソウルサーチ』の索敵に『ソウルシールド』の状態異常無効。
光樹の倒し残しの処理以外にも、対処できない場面で『ソウルターゲット』で駆けつけてくれていた。
硬い妖怪は茜が担当する。
ハンマーを振るう動作や、ハンマーの重さで機敏な立ち回りはできないものの。それは妖怪も同じ。
装甲がある妖怪は、敏捷が遅いのが特徴。
彼女以外の、僕らが他の妖怪を片付け、落ち着いて対処すれば、初心者でも倒せる。
そして、遠距離……上空にいる妖怪は小雪が片付けた。
発砲する前に僕らを驚かせない為、駆けながらライフルを構え、小雪が一声かける。
「はい、撃ちまーす」
そんな具合に僕らは順調に夏エリアを攻略した。
現在、一面最後の道中クエストに挑んでいる。中間地点の目印である廃れた神社が見えてきたので、僕は皆に呼び掛ける。
「皆さん、回復しますので、ここで一旦休憩してください。神社の敷地内まで妖怪は入ってきません」
各々、疲労感ある一息をついている間にも、僕は全員のMP回復とステータス強化薬品を使用し、疲労回復をしていく。
今の内にレオナルドや光樹は砥石で武器を研いでいる。
ここをクリアすれば、いよいよ夏エリア最初のボス『トリスタン』だ。
攻撃力ある光樹がいるなら、多少攻略時間は短縮されるが……当の光樹は相変わらずのお喋りをする。
「お嬢さん、あの距離撃ち抜いてビックリしもうたわ! 他のゲームで腕あげたんです?」
光樹のテンションに押され、困った様子の小雪は小さく「あ、はい、まあ……」と口どもっている。
戦闘中なら、高揚感も相まって普通に喋れる反面。
やっぱり、初対面にはこうなってしまうようだ。
タイミングもいいので、僕は光樹に一つ忠告しておく。
「光樹さん。春エリアのボスをレオナルドと一緒にクリアしましたか」
それを尋ねると情けない態度で光樹は答えた。
「あ~……レオナルドさんとクリアしたの、自棄に名前が長い……ロンドンでしたっけ? あそこまでです。あと、ロンドンなんちゃらは、レオナルドさんにゴールしてもろおて、自分は途中脱落してしまいました」
まあ、普通はそうだろう。
プレイスタイルを確立させたとは言え、何でもかんでも、出来るようになる訳がない。
コイツの欠点は、経験のなさだ。
僕は咳払いをした後、光樹に告げる。
「ボスは道中に登場した妖怪と違って、AIが搭載されています。道中の妖怪のように、ワンパターンな動きばかりではないと頭の隅に置いておいて下さい」
「……はあ。AIですか」
釈然としない光樹にレオナルドが教えた。
「ある程度の自我があるって思ってくれればいいです。ワンパターンな動きがないって訳でもなくて、人間みたいに癖がある奴もいるって考えた方がいいです」
「ふんふん……」
話を聞いて、片手の人差し指で頭を叩く独特な動作をする光樹。
まるで、今までの情報を整理しているかのようだ。
ふと、茜が顔をしかめて周囲を警戒するべく、武器を構えながら僕らに尋ねる。
「ちょっといいかい。何か聞こえるよね?」
………耳を澄ます。
確かにひそひそ、小さな喋り声……笑い声? 妖怪のものだろうかと、僕が疑った矢先。
レオナルドは『ソウルサーチ』を展開させた。
すると、声の主を発見。いや、看破したと表現を正すべきか。
僕らと共に駆けてきた仲間・白兎のキャロルが、この廃れた神社の敷地内にあった台座から落ちたらしい狛犬の石像。それの匂いを嗅いでいる。
キャロルが匂いを嗅ぐ度に、石像から変な声が漏れ出している。
具体的にはくすぐったいのを堪える声。
その石像に、魂がついたり消えたりを繰り返す不可思議な光景が広がっていた。
小雪が「え?隠し要素??」と思わず口走る。
というのも、ここに妖怪が隠れている要素は今日まで噂になっていない。
だが、どうやら……発動条件にはペットが必須らしい。
キャロルが狛犬の石像全体を嗅ぎまくると、悲鳴と共に狛犬が飛び上がった。
苔の生えた石像から一変、独特な青の炎を纏った水色の毛並みを持つ狛犬となりながら、素っ頓狂な声で喋る。
『どっ、どこの匂い嗅いでるんだよ! お前ぇっ!!』
嫌悪感を吹き飛ばそうと、狛犬が体を震わせたが、キャロルが「ぶっ、ぶっ!」と音を鳴らすだけで、狛犬は驚いてしまう。
圧倒的に体格差があるのに、小さな白兎に狛犬は追い回されていた。
『うわ~~~~! やめろって! くすぐったいもん!! やだやだ、こっち来ないで~!』
「ぶっ! ぶっ!」
奇妙な光景を前に、僕らは途方に暮れていた。
レオナルドがキャロルに呼び掛ける。
「キャロル! 嫌がってるだろ、止めるんだ」
兎特有のすました無表情でこちらをじっと視線を注いでから、ちょこちょことキャロルはレオナルドの方に駆け寄る。
一方、狛犬は一安心して地面に項垂れた。レオナルドが心配そうに、狛犬に尋ねる。
「大丈夫か? キャロルも悪気はなかったんだよ」
『も、もぉ~……だったら、何で変なところ嗅いでくるのさぁ』
キャロルは踏ん反りかえっているような態度で「うー!」と体から音を鳴らしていた。
隠れていた妖怪を探し当てたから、キャロル的には褒めて欲しいのだろう。
と、場が落ち着いた筈が。
狛犬は我に返って、飛び上がる。
『うわぁ~~~~!? 人間だああぁあぁぁあぁぁ!』
……今更?
『ど、どうしよぉおぉお~~~! アーサー様に怒られちゃう~~~~!!』
情けない捨て台詞を吐きながら、狛犬は逃げ去っていく。
僕らプレイヤーが追いかけられないフィールド外に入ってしまったので、見届ける他ない。
狛犬を驚かせてしまったのを後悔しているらしいレオナルド。
彼を傍らに、僕らにメッセージが届いた。
[シークレットイベント:『ぬらりひょんの謎』が解禁されました]
[解禁条件:『ガレスとの遭遇』を達成しました]
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実は春エリア以外にも、それぞれの季節のエリアで隠しイベントはあります。
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