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方針


 僕達は、ワンダーラビットの前で残り一人が来るのを待っていた。

 レオナルドは以前、ミナトに改造して貰った『魂食い』の初期衣装。袖なしの黒インナーに白の腰布と黒ズボン。

 僕は『医者(ドクター)』の初期衣装、半袖の白衣に灰色のズボン。

 茜も春エリアの普段着よりも涼しそうな、深紅の生地で織られた、袖捲る和服だった。

 夏エリアは異常状態で『熱中症』が発生するほどの暑さ対策が必須で、衣服も当然その一つに含まれる。


 さて……

 レオナルドが面倒事を招き込むのは、今に始まった事ではない。

 今日は夏エリア攻略の為、部外者がパーティに加わるので僕も謙虚に振る舞いたかった。

 レオナルドは彼なりの思惑があり、最良な選択をしているとは言え……僕は訝しげに()の機嫌を伺う。


 つい先日、追い払った癖毛ある茶色のセミロングヘアに細目の剣士、いや、今は剣豪の男。

 プレイヤーネームは『光樹』というらしい。

 饒舌にベラベラ話す奴は、完全に調子乗っている類だ。

 全く変わらない態度で、光樹は如何にも申し訳なさそうな声色で言う。


「ホンマ、すんません! 急にご一緒させてもろおて」


 僕は辛うじて、にこやかな笑顔を作って「いえ、大丈夫ですよ」と返事ができた。

 我ながら褒めたい。

 茜がキャロルを抱き撫でつつ「また変わった奴を見つけたもんだね」と感心している。

 問題児のレオナルドは気まずそうに僕へ耳打ちした。


「悪い。放っておいたら駄目な気がしてさ」


 今日ばかりは、耳打ちの際、僕の耳に近づけたレオナルドの手首を掴む。

 苛立っていた僕は、無意識に強く握った。

 あれはカサブランカ並にロクでもない類なのに。僕の小声は低いものになっている。


「ムサシの件であんな目に合ったのに、懲りないね。君は」


「み、光樹さん、初心者だからって店に入れて貰えないんだ。でも、俺達と一緒にいるって噂が広まれば、初心者と思われなくなるだろ?」


「そうだね。目立つだろうね」


「ル……ルイス。腕、滅茶苦茶痛い」


「一つ、僕に謝ってくれないか」


「ご、ごめんなさい」


 片言なイントネーションで謝罪するレオナルド。

 僕は仕方なく手を離した。

 手首をさするレオナルドに、僕は血の巡りを抑えながら小さく問いかける。


「君はどういう考えだったのかな」


「あ、あー……普通に光樹さんが、どこかに受け入れられるようにしたかったっていうか。ルイスも光樹さんに付け回されたくないだろ? その辺りのフォローをしておきたくて……」


 レオナルドが不安そうに僕の機嫌を伺うので、僕は一息つく。


「……ふぅ。うん、いいよ。今日の一件は仕方ないさ」


「いや。俺が何度かメッセージ送り続ければ良かったよな……」


「普段なら、君のメッセージに返事は返せたんだ。本当に間が悪かっただけだよ」


 ああ、本当に。()()()()

 移動授業で返信が遅れたとか、携帯端末を教師に没収されたなどではない。

 僕に付きまとってくるクラスメイトの男子。

 アイツが期末テストがヤバイから勉強を教えてなどと絡んでくるから、放課後もしばらく時間を食うハメになった。


 頻繁に話しかけて来られると、携帯端末も無暗に取り出せない。

 なら、素直に僕が魔法使い系ではなく薬剤師系を選んだと教えればいい、とか普通の人間は割り切るだろう。

 僕は真っ平ごめんだ。


 アイドル騒動の時もだが、平然と僕の個人情報をクラスにばら撒きそうな奴だ。

 死んでも教えたくない。

 夏休みの空白を使ってゲーム関連の話題を有耶無耶に終わらせたい。


 そこに、光樹が話しかけて来た。


「あの~……まだ、けえへん? 結構、待ってますけど」


 僕らが待っているのは、銃使い……今はジョブ2『狙撃手(スナイパー)』の小雪。

 茜の手から逃れたキャロルを手元に来るよう、レオナルドが仕草しつつ。

 光樹に対し説明する。


「今日中に『ガウェイン』までクリアしたいって頼んだら、銃弾作りで遅れるってメッセージが来てました」


 レオナルドがそう話した瞬間。


「すいませぇえぇぇん! 遅れましたあぁあぁぁ!!」


 現れた白のペイント模様がある黒半袖に白長ズボン、口元を赤バンダナで覆っているボーイッシュな茶髪の女性。

 こういう時ばかりは大声張り上げられる小雪は、銃系統の中でも大物のランチャーを引きずって現れた。

 あれを常時装備する訳ではないだろう。

 ランチャーの威力や射程距離を考慮すると『ガウェイン』戦で使用するものだ。


 小雪の謝罪も短く済ませて、僕らはパーティを結成しメインクエストを受注する。

 一先ず、僕がまとめ役をかった。

 全員に方針を伝える。


「これから、メインクエストを連続でクリアしていきますが、今日中に『ガウェイン』まで到達する為には最短ルートを選びます。探索は行わず、道中の妖怪も基本的には倒さないでお願いします」


 本来、二日間かけてやる予定だったが、それを()()()()と脅迫してきたムサシの事情に合わせるなら。

 これがベストな方針だ。

 界隈に慣れた茜と小雪は各々「了解」と一つ返事をするが、光樹は純粋な質問をぶつける。


「ボス戦じゃあらへんのに、自分も一緒で上手く行きます?」


「僕はマップの地形を大凡記憶しています。僕が先導になって案内します。それと、あくまで最低限の戦闘回避です。道中、妖怪を倒さないと進めない場所もあります。皆さんの疲労は、僕が薬品を使って回復させます」


 僕の説明を一通り聞いて、ポカンと驚いた反応の後、光樹は「成程なぁ」と納得してくれた。

 分かってくれたなら、僕は光樹に一つ尋ねる。


「薬品も皆さんのステータスに合わせたものを使うので……光樹さんのステータスを見せて貰ってもよろしいでしょうか?」


「ああ、はい。皆さんと比べたら大したもんじゃありませんわ」


 などと自虐気味に語る光樹のステータスは。

 ……僕は自分でどんな表情をしているだろうか。絶句どころじゃない。

 コイツの場合、レオナルドからステータスの説明を受けてコレ。


 ()()()()()()()()()()……!!


 だが、武器も際物を装備している。

 スキルで二刀流になっており、一本はジョブ武器の『勇者の剣』。もう一本は『オブシウス・フランベルジュ』というオリジナル武器。

 洒落た名称に感じるが、形状をそのまま名にしただけだ。

 オブシウスは『黒曜石』の発見者だったかな。フランベルジュは刀身が波打っている剣の名称。


 特徴的な光沢と刀身の形状を除けば、鞘と鍔がない剣。分かりやすい形のモデルを挙げるなら『草薙の剣』だ。

 僕の表情で察したのか、光樹は弁解する。


「敵倒しやすくしよう思て攻撃高くしてしもうたんです。でも、ほら。他はなんもイジってませんけど、数値は高いと思いません?」


 それはそうだ。

 序盤の伸びがいい剣士系は、これだから初心者向けと扱われている。

 だからと言って……もう仕方ないか。

 僕は咳払いをし、いよいよクエストに挑む。


「準備は整いました。皆さん、行きましょう」


ブクマ数394件突破と新たに評価して下さった方、ありがとうございます!

誤字報告もありがとうございます。

累計PVがいつの間にか25万突破してました。

最短攻略ルートみたいなのを考えて楽しむプレイヤーもいると思って書いてます。

続きが読みたいと思って頂けましたら、ブクマ・評価の方を是非よろしくお願いします。

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