二刀流
無事、剣士系のジョブ2『剣豪』に昇格した光樹は、レオナルドと話し合う。
レオナルドも、段々と光樹の才能を理解する。
彼は本当にVRゲームは愚か、アクションゲームに疎いので、ステータスのアルファベットも何を示すか分からなかった。一昔前の自分と同じだとレオナルドが感じる。
光樹自身が述べた通りに、レベルアップでステータスも上昇し、動きは機敏になっており飲み込みが速いと思ってしまう。
それでも、プロプレイヤーと比較すれば無駄な動きがある。
改善するにも多少の時間は必要だろう。
二人と一匹は、休憩がてら春エリアで個人経営店を巡っていた。
光樹は、ジョブの初期衣装しか持っていない。
その初期衣装のままだと、やはり目立つうえ、初心者だと気づかれてしまう。
こういう時こそ、外見は大事。つまり、彼等は衣装探しを行っているのだ。
しばらく探索すると、光樹の要望を叶える店を発見。
現代ではマニアックな和服専門店だ。
幾つか試着して「ちょ~っと着心地悪いなぁ」と相変わらずの本音をぶちまける光樹に従業員たちは苦い笑いを浮かべた。
レオナルドは反射的に「すみません」と謝罪する。
恐らく、光樹は悪気が無いのだ。
ただ、カサブランカと違ってああしろ、こうしろと助言を与えたりはせず、光樹は一方的に切り捨てる。
無駄を省いて、効率を求める姿勢はカサブランカと似ているが、光樹の場合は具体的な数値を重視する。
他にも色々調べたが、光樹の好みに近い紺の『着流し』を販売しているのは、この店しかなかった。
「我慢しますわ」と不満前面に光樹は購入。
次は武器。
武器関連は光樹自身が鍛冶師を選ぶべきだ。
しかし、今回はレオナルドと同行しているので、素直に茜の店へ足を運んだ。
茜は珍しく店を閉めている状態だが、その理由はジョブ3『神槌』の昇格条件を満たす為、製造に集中しているのだ。
レオナルドと光樹、そしてキャロルが店に訪れれば、疲労困憊な茜が出迎えてくれる。
「あ~~レオ。これ完成したから、ついでに渡しておくよ……」
茜から渡された品を受け取りながら、レオナルドは戸惑い気味に「ありがとうございます」と礼を告げた。
キャロルが項垂れてる茜の匂いを嗅いでる内に。
レオナルドは完成品の概要を開き「おお」と感心の声を漏らす。光樹も興味津々に覗き込む。
『蓬莱玉の包丁』
『龍珠のピッケル』
『子安貝の毛刈り鋏』
鍛冶師系のジョブ3『神槌』の昇格条件とは、武器以外の道具を強化するというもの。
新薬作製が出回った時期から、包丁を強化できるネタ要素があって。
そこから『神槌』昇格を成し遂げたプレイヤーが登場。
本当に、何が切っ掛けになるか分からないものだ。
キャロルを捕獲し、撫でまわす茜は光樹の姿に疲労感ある溜息をついてしまう。
「新しい奴を連れてきたと思ったら、剣士……! ゲロ吐くほど武器作る奴、連れて来るとはねぇ……!!」
レオナルドは申し訳ない気持ちを抱きながら「ジョブ武器、お願いしてもいいですか」と頼む。
光樹は剣士系のジョブ武器……ジョブ2に昇格したことで進化した『勇者の剣』を上限まで解放できる。
攻撃力と耐久度を確認した光樹は首傾げる。
「はぁ、これが上限です?」
光樹の質問にレオナルドは頷く。
「これ以降の解放には、夏エリアのメインクエストボスを六面まで倒した称号が必要なんです」
ジョブ3へ昇格する為の第一段階。
ジョブ武器の最終解放に向けた上限解放には素材以外にも、夏エリアのメインクエストボス討伐の称号が必須なのだ。
今日の夏エリア攻略計画は、このジョブ武器上限解放の為に行われる。
もっとも、普通のプレイヤーだったら、ジョブ武器完成が先で、昇格条件が満たされるのは後なのだが……
(光樹さんの戦い方なぁ)
レオナルドも彼なりに色々と想像する。
ここまで深く、光樹自身の心境を聞いていなくても、彼がどうしようかと、どうしたいのかと探れた。
将棋が得意。
俄か知識ながら、将棋は相手の何百手先を読み合うものだとレオナルドは聞き覚えある。
細かい計算を省き、臨機応変な攻撃方法に特化したのがカサブランカなら。
光樹は、プレイヤースキルが疎かな代わりに、的確かつ計画的な戦い方に特化している。
普通ならプレイヤースキルの特訓を重視したい。
しかし、それは光樹のプレイスタイルには致命的なまでに合わないだろう。
レオナルドは唸る。
(ダメージ調整とか、したそうだよなぁ。うーん)
キャロルに癒されてる茜の姿で、レオナルドはふとムサシを思い出した。
「光樹さん。剣豪になると『二刀流』が使えるんです」
「ほお! 二刀流!!」
ムサシがジョブ2の『武将』で二刀流が使えるようになったのと同じ。
剣豪でも二刀流が解禁される。
たが、そこそこ重量ある剣を片手で持つ二刀流を使いこなすには高いSTRが必須。
レオナルドは攻略サイトなどで疑念を解消し、光樹へ教えた。
「剣を二本装備できる仕様です。えっと、つまり……常時剣を二本、腰につけてる状態なんですけど、剣を一本だけ使う事はできるみたいです」
それを聞くなり、光樹は上機嫌にレオナルドの肩を激しく叩いた。
「ええやん! それやそれ!! いやぁ、レオナルドさん。自分のこと、分かってくれて助かるわぁ!」
レオナルドが想像した考えで間違いなかった。
『勇者の剣』をかざし、光樹は興奮気味に思案したものを語った。
「基本、これより強い剣で戦いますけど、トドメ刺す時はこっち。体力が残り僅かの敵相手にわざわざ強い方で叩くなんて無駄ですわ。敵を叩く回数減らして耐久度を節約しましょ、って訳です」
無駄。
光樹の言う無駄とは、こういう無駄なのだ。
下手に剣を振るわず、耐久度を節約する。
武器が壊れる概念を知ってから、光樹はそれを重視しながら思考を展開させていた。
光樹の反応に満足する笑みを浮かべるレオナルドに対し、疲労感が拭えない表情で呆れている茜。
「また、妙な奴を連れてきたもんだねぇ……」
さて、プレイスタイルを確立したところで肝心の『強い剣』だ。
レオナルドは茜の店を把握しているので、一つ聞いてみる。
「今、店で売ってる剣みせて貰えますか?」
「ん~……あるにはあるけど。安価な適当に作ったもんから、素材のせいで馬鹿高く設定してるもんまで、こんなもんかね」
所謂、オリジナル武器という奴だ。
スキル付与はしていない状態で、茜なりにデザインを施した剣だけをレオナルド達に見えるよう展示する。
光樹は沢山ある剣から、一先ず彼の趣旨に合わせたものを要求した。
「和風っぽいもんあります?」
「わっ……武士の『カタナ』がソレなんだよねぇ。和風っぽい、ぽい奴……こんなもんくらいかね」
彼の要望に困惑しながら、茜はある剣を取り出したのだった。
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夏エリア突入の前準備の話になってしまいました……次こそ、本当に夏エリア攻略開始です。
また、今まで気づきませんでしたが日間ランキングに入っていました。
皆様、応援して下さって感謝の極みです。
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