再来
妖怪達が立ち去り、庭に残ったのはレオナルドとキャロル、住み着いているジャバウォックだけ。
ジャバウォックとキャロルが庭で戯れている中、レオナルドはフレンドチャットを眺める。
ルイスからの返事を見たり、つい最近フレンド登録したサクラから「さっさとしないと私が先に賢者になっちゃうもんね~」とメッセージが届ていた。
サクラを含めた、魔法使い系はラザールが見せた魔石関連の情報が出回ってから『賢者』に昇格したプレイヤーが続出。
昇格条件の一つが『第五魔法の魔石の作製』。
DEXが高いプレイヤーや現実の器用さが高いプレイヤーは余裕らしい。
レオナルドには分からないが、魔石作製も独特な仕様があるようで、コツを掴めないと難しいようだ。
ギルドで魔石作製に明け暮れていたサクラは、第四魔法の魔石を作製できるようになった。
本当にあと、もう一歩だろう。
レオナルドはチャットでサクラに伝えた。
『俺もメインクエストクリアすればジョブ3になるぞ』
『てか、何で夏のメインクエストクリアしてないの? 意味分かんない~!』
『春の方からクリアしたからなぁ』
『ふつー夏の方が先なの!』
『だよなぁ。あと、ホノカの方はどうだ?』
『武闘家の条件、難し過ぎるの! レオも運営に文句言って!!』
『そっか。調べた見たけど、かなり曖昧過ぎるよなぁ。あれ』
格闘家系のジョブ3『武闘家』。
ひっそりと昇格を果たした、あるギルドマスターの情報を聞くに『拳闘士』で習得する『諸行無常』と呼ばれるスキル。
スキル発動と共に流れるBGMで歌われる『長唄』の内容を理解し、演舞をすれば『武闘家』に昇格できたという。
ホノカ以外のプレイヤーも苦戦していると聞くので、いつか修正される筈だ。
レオナルドが『分かった』とサクラにメッセージを送ると。
次にムサシからメッセージが届く。
『今日中に茜をジョブ3にしろ』
茜が作製できるランクの武器では冬エリアの妖怪を相手にできず、攻略がストップ状態のムサシ。
わざわざ、レオナルドに対し釘を刺してくる。
ムサシがやる事なく退屈していると気づいたレオナルドはメッセージを送った。
『どんな武器作って貰おうとか考えてるか?』
『斬れれば何でもいい』
『うーん。取り合えず、素材集めに行こうぜ。カタナってスゲー素材必要だし』
『食材のついでに集めてある』
『じゃあ、詩織のレベル上げとかどうだ? 俺もキャロルのレベル上げしてる最中だ』
『暇つぶしにしてくる』
どうせなら一緒にと思ったが、ムサシにはムサシのペースがあると理解し。
レオナルドは『俺もキャロルと一緒に強くなるぞ~』と意気込みまがいのメッセージを残す。
将来的に『祓魔師』はペットが必須。
今日までも、キャロルのスキル獲得やレベル上げを地道に積み重ねていたレオナルド。
全て、夏季バトルロイヤルに向けた。
………否、カサブランカとの対決に向けた準備である。
すると、次はアルセーヌからメッセージが届く。
アルセーヌこと遠藤は、レオナルドが知る限りでは単位が危ういので大人しく講義に参加している筈。
『よう、相棒。ムサシの動画見て気になってさ。昨日、トラブルでもあった?』
恐らく彼は、生配信の方ではなく、ムサシが編集した動画を視聴したのだろう。
ワンダーラビットの宣伝終了後に、全季の剣士が介入してきた場面をムサシが全てカットした。
不自然な編集だから、アルセーヌはトラブルが合ったのかと心配している。
やれやれとレオナルドは、事の顛末を教えた。
事情を把握したアルセーヌは、このようなメッセージを送った。
『そいつ、また相棒ん所に来るかもな』
『え? なんで』
『都合のいい善人だからに決まってんじゃん。聡い奴なら適当な理由つけてフレンド登録してくるぜ』
『うーん。それって料理目的?』
『料理目的』
『ルイスの料理が美味い保証なんてねえだろ?』
『保証無くても知る必要はあるだろうな? なんたって、この界隈にプロは殆どいない。ソイツの舌を満足させる店が、ほんの一握りもないなら、必然的に戻ってくる』
自身で味を確かめていない店を偏見で不味いと判断しない姿勢は、褒められるべきだ。
しかし、変な輩に付きまとわれるのは、ルイスが忌み嫌う。
レオナルドも悩めるが『相棒なら何とかできるだろ?』とアルセーヌはメッセージを残した。
「ふぉんふぉんふぉん?」
ジャバウォックがサイレン音を真似ているのを聞いて、レオナルドは顔を上げる。
生垣越しの向こう側に、細目の剣士の姿があった。
初期装備に初期衣装のまま、目立ち過ぎる存在感を隠しきれない彼を、ジャバウォックとキャロルが生垣越しから監視する。
細目の剣士は、レオナルドに手を振り話しかけて来た。
「昨日はどうも。すんませんでした」
内心、警戒心を抱きながらレオナルドは申し訳ない態度で伝える。
「こちらこそ。あの、今日はルイスがいないので料理の件は……」
「あ~~~ちゃうちゃう。フツーに、ゲームの話しにきました。あれ。何から始めたらいいんです? マルチとメイン、どっち選べばいいんです??」
「えっと……剣士は確か」
レオナルドは剣士系のプレイヤー・マーティンから、剣士の長所短所を教えて貰ったので、彼にアドバイスしようと思案した。
「ちょっと待って下さい」とレオナルドが一旦、庭から春エリアの町に転移。
NPCの武器屋から適当に剣を複数本、砥石を数個購入。
庭に戻り、細目の剣士へそれをプレゼントで送った。
細目だが驚いた表情を作る男が、わざとらしい声色で話す。
「申し訳ないですわぁ。貰ってええんです?」
「むしろ、持ってないと大変です。俺、剣豪の知り合いから教えて貰ったんですけど、剣士系って武器が壊れやすいんですよ」
「あら。使いやすい聞いて選んだのに、そらまた……てか、武器壊れてしまう?」
「耐久度ってのがあって……剣士はとにかく敵に攻撃しまくらないと駄目で。攻撃したらしたで武器が摩耗するんです」
詳しくは剣士系の戦闘スタイルに関係するが、総合的に武器の摩耗が激しいのは剣士。
剣士は、武器を複数所有することから本番とまで言われているほど。
砥石の重要性も伝え、更に重要な事をレオナルドは教えた。
「あと鍛冶師です。お世話になる鍛冶師を見つけることが最優先って聞いてます。どのジョブも鍛冶師の世話になりますけど、剣士はほぼ毎日通うレベルらしいです」
「は~……成程」
「えっと、クエストはメインクエストから始めた方がいいです。敵が弱いので」
関心気味に細目の剣士が反応してくれるが、一方で不安そうにこんな事を漏らす。
「ああ、でも自分。バーチャルやるの初めてなんですわ。リアルな感覚で戦うのコワない?」
「………」
レオナルドの傍らで、キャロルが意味深に「う~」と音鳴らす。
間を開け、レオナルドは真顔で尋ねた。
「俺も一緒に行きましょうか」
細目の剣士はパァッと明るくなって上機嫌に喋る。
「ホンマ!? でも最初の方だけでええです! 自分、最初緊張してしまうんです。乗れたら勢いで行けるんで。それに、レオナルドさんもこの後、用ありますでしょ?」
「夜までなら暇です」
「ああ、そう? いや~ありがとうございますぅ」
胡散臭い細目の剣士――『光樹』は、わざとらしい笑顔を取り繕っていた。
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武器の耐久度的には盗賊系のナイフや魔法使い系の杖などが剣より低いのですが、どちらも直接敵に攻撃する機会が少ないです。(盗賊系はスキルや道具重視、魔法使い系は魔法で十分)
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