カサブランカ
カサブランカ。
髪色は僕と同じ銀ではなく白に近いロングウェーブ。
外国人のように鼻高い顔立ちも合わせ、名を体現した高貴さがある。
そんな容姿の彼女が、穏やかな口調で前線に出ると申し出たのだ。
リーダーの剣士も驚きを隠せず、控えめな返事をした。
「あ、ああ。わかった。でも、不味いと思ったら直ぐに退いてくれ。無理はよくない」
盾兵の老人が女性を気使ってか、自信満々に言う。
「いざとなったら俺の後ろに隠れりゃいい! さっき剣士のにいちゃんのアドバイス聞いて防御と体力を上げておいたからな! ちょっとやそっとじゃ倒れねえぞ」
カサブランカは不自然な間の後に「ありがとうございます」とほほ笑んだ。
僕には分かる。
これっぽっちも頼る意思がない。文字通り『盾役』になるなら良い程度の認識だ。
しかし……彼女は何だ?
僕はレオナルドとの交流に忙しく、彼女の様子はほとんど見ていない。
だが、彼女は違和感あるほどに自信ありげだ。格闘家の少女や姦しい女性三人組も不愉快な視線を送っていた。
不穏な動きをする彼女を他所に、レオナルドはステータスの振り分けをしていた。
ステータス……
僕はカサブランカのステータスに再度表示する。
カサブランカ <刺繡師>
Lv9
HP:340/340
MP:140/140
【ATK】29
【DEF】29
【INT】21
【STR】90
【VIT】34
【DEX】76
【AGI】50
………?
いや、なんだこのステータスは。一体どうしたら、こんな振り分けをするのか理解に苦しむ。
刺繡師はレオナルドの墓守と同じく平均型。
基礎の数値が、ATKとDEF、INTが5。それ以外は全て10。INT以外は常に3上昇する。
AGIは分からなくない。回避性能は求めたくなる。衣服を自在に加工する刺繡師のDEXは必要。
異常極まりないのはSTRだ。
どの能力値よりも飛び抜けて高め。能力の意味が分かっていないよう……ではない。
だったらDEXに振ったりせず、ATKなど分かるものを高めるだろう。
まさか……
僕が悪寒を覚えた矢先、レオナルドが小さく声を漏らす。
ちょっとした発見のようなリアクションだった。
僕と視線が合ったレオナルドは、しばし迷う素振りをしてから、表示された内容を見せてくれた。
[ソウルターゲット]
自身の魂の一部を分ける。分裂させた魂を自在に操作する。
分裂した魂の軌道に合わせて自身を移動させる。
使用し続けるとMP消費。
墓守のスキルだ。
僕を真似てINTに振ってみたのだろう。成程これは……
ジョブごとに主軸となる戦法が確立されていくが、墓守の型の一つはMP消費型がありえそうだ。
「どう思う? これ」
レオナルドは、ゲーム経験者の僕の見解を知りたいのだろう。
僕は彼の期待に応えて述べる。
「どうやら墓守はプレイヤー自身のスキルが試されるジョブだね」
「んん? 意味わかんね。つーか、俺が聞きたいのはコレ強い? 使えるか? っていう」
「使い方次第さ。次のボス戦で使う機会があるかもしれない。その時は僕が教えてあげるよ」