キャロル
カサブランカの表情と発言にレオナルドは戸惑った。
彼女から腹が立つ、なんて感情をぶつけられるのは予想外だったからだ。
つらつらとカサブランカは語る。
「イベント中も、私やムサシには技量があるから問題ないと常に判断していたのでしょう」
「それは……うん。そうだけど。俺が無理に出しゃばっても、出来ることが少ないから、邪魔になるだけだろ」
「全て理解してたうえで、何もしなかった」
不機嫌なカサブランカの態度に変化がないので、レオナルドの隣でラザールも「おい」と咎めて来る。
ラザールに抱えられている猫、ではなく幼い虎も不思議そうに様子を伺っていた。
言い方がまずかったか、レオナルドは頭をかきながら言う。
「カサブランカはさ。集中して敵倒すの、好きだろ? だから、邪魔したくなかったんだよ」
「人を不愉快にさせるのが上手なんですね」
「え、えと………ごめん」
カサブランカの返事にレオナルドが更に戸惑う結果に。
張り詰めた空気を解消しようと、白兎を抱えているトムが「あの!」と話を切り出す。
「祓魔師だけペットを最大五匹つれていけます! ペットも種類ごとに用途がありますので、将来的に祓魔師は沢山ペットを飼育することになるんです!! だから――」
必死な対応をしてくれるトムに「知ってます」と素っ気ない返事をするカサブランカ。
期待されていないのを感じ取った白兎は挑発的に「ぶ! ぶ!!」と音を鳴らす。
カサブランカは、耳につくような溜息をついて、間宮に尋ねる。
「すみません。楽に育てられる動物はいますか。世話や餌を与えるのは、好きではないんですよ」
「でしたらぁ。オススメのがいますよぉ、『不死鳥』ちゃんです♪」
間宮が虚空から手元にバスケットを出現させる。
バスケットには柔らかな毛布に包まれた状態の、結構大きいサイズの卵が。
概要画面を表示したカサブランカが、一通り目を通して納得した。
「ああ、これでいいです」
「はぁい。一応、『不死鳥』ちゃんの季節も全季にしておきました。頑張って孵化させてくださいね♪」
卵を受け取るなり、カサブランカは別れも告げず、そそくさと立ち去ってしまう。
嵐のように去った彼女を見届け、レオナルドは落ち込んでいる。
自然に、胸の内を口にしていた。
「やっぱり、俺のこと嫌いなのかなぁ」
バトルロイヤルの件があるまでは、的確なアドバイスをしてくれた彼女を思い出すレオナルド。
あれ以来、態度が一変してしまった。
カサブランカは言い方に問題あれど、どんな相手にも助言をする気遣いがある。
と、レオナルドは気づいていた。
ああいう会話がなくなったのは、自分が弱い人間と判断されているからだろうか。
すると、間宮がレオナルドに言葉をかけた。
「もぉ~~。乙女心がわかってなぁ~い」
ラザールは「カサブランカの心は分かりたくねぇよ」と突っ込みを入れる。
白兎が「う~!」と鳴いているのに我に返ったレオナルドは、改めて兎に関する概要画面を表示。
[ウサギ]
体力:ふつう
攻撃:にがて
防御:にがて
特殊:とくい
速度:とくい
嗅覚:とくい
聴覚:とくい
視力:にがて
サポート型。周囲の警戒心がとっても強い。
嗅覚で周囲の状況を把握するので悪臭が酷いと、上手く探索できなくなるかも……
接近攻撃が苦手。
なら、カサブランカが好き好まないのは当然か。レオナルドは再度唸った。
トムが兎に関する解説をした。
「兎は接近攻撃ができませんが、皆さんの前でも披露した特殊攻撃を覚えられます。あと、祓魔師は同行するペットが持つ補正を自身に得られるんです。兎ですと嗅覚や聴覚の補正が効くようになります」
それに反応したのはレオナルドではなく、ラザール。
「おい!? だったら、空飛ぶの早い動物ペットにすりゃ、飛ぶのも早くなんのかぁ!?」
トムが戸惑うのに、レオナルドは申し訳なさそうにラザールへ説明した。
「『ソウルオペレーション』は攻撃速度の補正で加速できるんだ」
「どっちにしろよぉ~! 速くなれるんだったら、速くなってから勝負付けた方がいい!!」
「えーと、悪い。祓魔師の条件が分からねぇから、それだと当分先になっちまうぞ?」
「あのよぉ~。速くなれる可能性あるってのに雑魚の段階で勝ったところで、意味あると思ってんのかぁ?」
ラザールの考えは理解できるが、魂食いから祓魔師になる方法が未だ、解明されていない。
次のバトルロイヤルまでに間に合うかどうか……
レオナルドが思案していると、ムサシが割り込む。
「イカレ女と同じだな」
思わぬ横槍にラザールが「はぁ!?」と過激に反応する。
レオナルドが不思議そうに顔をあげる。ムサシは淡々と話を続けた。
「あの女が祓魔師の性能を確認してたのは、それだ。レオナルド。お前が強くなったところで、殺したいんだろう」
「………そうか」
レオナルドはカサブランカの意図を理解し、改めて考え直していると、再びトムに抱えられている白兎が「うー」と音を鳴らす。
名残惜しく白兎を撫でるレオナルド。
「お前はトムのもんだから、俺は引き取れないよ」
白兎が連れて行って欲しいとアピールしているのは、レオナルドも薄々気づいた。
ルイスも可能性に挙げていたが。
この白兎はNPC用のペットであって報酬で受け取れないだろうと、判断している。
トムが様子を伺い、口を開く。
「……引き取って頂けるなら、どうぞ」
突然の提案にレオナルドもNPCが気遣ったのかと探ってしまう。
ただ、トムは深刻に告げた。
「レオナルドさんも祓魔師の道に向かうので、お伝えしますが……今回のような潜入任務などでペットが命を落とす事は、よくあるんです。『騎射』の方が得られる馬や『不死鳥』のような例外を除いて、ペットは死にます」
「……死ぬ」
所謂、ゲーム的に表現するならロスト。
話を聞いたレオナルドも、虎の子を抱えるラザールも無言になる。
トムは話を続けた。
「人によってはペットに感情移入してしまうので、ペット育成の祓魔師になる方も珍しくないです。僕も、極力愛着かけないようにしたり……この子にも名前は付けていません」
「え」
あまりのことにレオナルドは度肝抜いたが、今回のイベントでも白兎はレオナルドが守ったから生き残れただけで、他の兎たちはどれも死んでしまったのを思い出す。
アレが当たり前なら、仕方ない事なのか。
イベントじゃなくても。不注意で妖怪の攻撃を受ければ、小動物なんて容易く死ぬ。
鼻をヒクヒクさせながら、レオナルドを真っ直ぐ見つめる白兎。
互いに目を合わす。しばしの見つめ合いから、レオナルドは決断した。
「ああ、分かった。俺はこいつにするよ」
トムから白兎を受け取るレオナルド。
最後にトムが「よろしくお願いします」と渡してくれた。
白兎を入手し[『ペット』の項目が増えました!]なるメッセージが表示され、続けてこう表示される。
[ペットをセットする際、名前を付けられていないペットは選択できません]
ネーミングセンスには自信ないレオナルドが思いついたのは、ありきたりというか。
ルイスが聞いたら、なんと反応されるかと不安になる。
でも、真っ先に浮かんだ名前だ。
「『キャロル』。今日から、お前の名前は『キャロル』だ。よろしくな」
名前の記入を終えるレオナルド。
答えるように、白兎――キャロルは「うー!」と音を鳴らした。
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