終曲
残されたレオナルドとラザール(あと白兎)、戦闘中のオーエンやカサブランカとムサシにも、ルイスが発動させた『火炎瓶』の大爆発、その爆風が襲い掛かっていた。
地面に捨てた『火炎瓶』が全て連鎖的に爆発した結果。風圧だけで、レオナルドとラザールは吹き飛ばされそうになる。
ラザールが「ヤベェ!」と大声あげるのは仕方なかった。
レオナルドは『ソウルターゲット』を用いて、強引に留まろうと抵抗。ラザールは今、必死にレオナルドの体を掴む他ない。
一方、オーエンは体が吹き飛んだ矢先、カサブランカの糸が絡まる。
オーエンの体がカサブランカを引きずるような形となった。
オーエンが行動に移る寸前、爆風の吹き飛びを利用して急接近したムサシ。
「死を届けに来たぞ。印鑑を押せ」
ムサシがオーエンの首に振り下ろしたカタナの刃。
刹那。
カサブランカも体勢を整え、オーエンの拘束を解いた。単に解いたのではない。糸とオーエンの体がすれあうような形で、引っ張り、解いたのだ。
双方、ほぼ同時に首を裂いたよう。
ゆったりと消滅していくオーエンの体。一体、どちらがトドメを刺したのか。
風圧が収まったところで。
レオナルドは『ソウルサーチ』で周囲を確認してみる。
レオナルドとラザール、ムサシに、カサブランカ。ついでに白兎。
これらの魂だけが残されている。
幾度、待ってもオーエンらしい攻撃や魂も現れなければ。
空間の向こう側に、一筋の光が差し込む。もしかしなくても脱出口……ゴールだ。
釈然としない様子でラザールが尋ねた。
「……終わったぁ? ゲームクリア??」
あまりの呆気なさに拍子抜けているのだろう。レオナルドも「うん」と頷く。
臨戦態勢から気力を抜けたようで、白兎は浮遊状態から地面に降り立つ。それから顔を洗うような仕草をした。
カサブランカは、ドレスから元のシンプルな姿恰好に戻る。満足気に彼女は語った。
「無事、殺せたので良しとしましょうか。今の、貴方は寸前のところで間に合っていませんでしたよね」
カサブランカに尋ねられたムサシは「知らん」と素っ気ない返事。
ただ、一人。
レオナルドを除いては。
真っ直ぐな視線を向けながら、レオナルドは『ソウルターゲット』で急接近。
カサブランカを大鎌で斬った。
これには、ムサシも目を見開いた。ラザールも、白兎ごしに見ていたトムも。
『カサブランカ』は本気でレオナルドが攻撃をしてくるとは思わなかったのだろう。
振り返った表情が驚きを隠せないもので。
だけど、満更でもない、不気味に笑みを浮かべ。
姿が一変したら、本物のオーエンがニタニタ笑って本性を現す。
「ふっくっくっくっくっ! おやおや、どこで吾輩だと気づいたのかね。我ながら即興にしては上出来な演技だと自信あったのだがね?」
「イベント中に喋ったから」
「んん?」
「あー……じゃあ、別の視点から説明するよ。カサブランカは弱い奴には興味ないんだ。殺さない。ジャバウォックの時にも、言ってたんだ」
――ああ、やっぱり春の妖怪はそういう傾向ですか。特殊系統と言いますか、純粋な真っ向勝負をしないだろうとは『オーエン』で薄々感じていましたが
カサブランカは戦闘狂だが、単純に殺したいだけの殺人者ではない。
散々、オーエンに挑発したカサブランカが、オーエンを弱いと判断しながらも積極的に殺そうとしてたのに、レオナルドは違和感を覚えた。
無論、挑発に乗ったオーエンにも疑念を抱いていたが。一番の決め手は弱いオーエンをカサブランカが殺そうとした事。
オーエンが粒子化して消失する中、レオナルドが語り続ける。
「確証は最後までなかった。ほら『本物のお前』と偽物のカサブランカに魂があったり、ルイスの『火炎瓶』の爆風でカサブランカが吹き飛んだ事とか。でも落ち着いて考えたら、答えは分かった」
冷静を取り戻し、仏頂面でムサシが言う。
「そいつは元から魂が見えない。最初、私達と会った時がそうだ。あれは再現でも何でもない。本体だ。レオナルドの言葉に反応した」
ラザールも思い出し「あ!」を大声上げる。
思わず、レオナルドが口にした『ダウリス』の名に反応したアレは、紛れもなく本物のオーエンだったと。
オーエンに関しては、魂の有り無しの判別は無意味だったのだ。
レオナルドは最後の謎も解き明かす。
「最初、偽物のカサブランカは『本物のお前』じゃなかった。だから、ルイスの『火炎瓶』食らっても、ゲームクリアにならなかった。入れ替わったのは、さっき大爆発のどさくさ。ムサシの目も誤魔化すには、そこしかない」
真剣に語り終えたレオナルドを、ゲラゲラと嘲笑うオーエン。
体が消失し、ふと見渡せば周囲の空間も崩落していく。
頭部だけ残ったオーエンは、かつてないほど大爆笑しながらレオナルドに言い放った。
「それで惚れている女を斬れるかね! 本気か? ふっははははは!!!」
目と口だけ残しつつ、オーエンは言い残す。
「まるで、吾輩の父上のようだ。似た者同士で気が合った訳か! あっははははっは!!」
神隠しの妖怪が消え去った。
レオナルド達の周囲は、暖色系に染まった葉をつける森となっている。
彼らがいる気候は、肌寒さを感じる『秋』。
そう、神隠しから解放されて移動した場所は、レオナルドやルイスがまだ知らない『秋の層』だった。
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タイトル通り、イベントは終わり。エピローグ的な話をし、春エリアは終了となります。
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