変奏曲
「邪魔するんじゃねえ!」とラザールの怒声が響き渡るが。
カサブランカに意識を奪われたせいで、ホワイト・レディの荷車から生えた腕足による跳躍攻撃を回避できず、無様に荷車もろとも水面に叩き落される。
一方のカサブランカは、糸で捉えたバイクを、あえて自分の方に引き寄せ、バイクに乗るマングルを攻撃しようと鋭利な刃のあるルレットを手元に出現。
ルレットの歯車をチェインソーの如く回転させながら、彼女は言う。
「早い者勝ちですよ、こういうのは」
誰かに先を越されないよう、自分から積極的に殺す。
マングルを追撃するカサブランカの動向が見えたのを確認し、レオナルドは逆刃鎌の速度を上げた。
マングルは芯のある男声で舌打ちすると、バイクをバラバラに分裂させ、カサブランカの拘束から逃れる。
分裂したバイクのパーツにも銃口が幾つも備わっていて、マシンガンほどの弾数ではないが、カサブランカを撃つ。
僕とレオナルド、白兎に追いつく勢いでカサブランカとマングルは攻防で移動してきた。
常に僕らの足元で奴らは戦闘を繰り広げる。
僕は思わず、大声でトムに尋ねた。
「すみません! もう少し、兎の速度は上げられませんか!? 兎に『ソウルターゲット』は使えないですか!!?」
予想外の僕の提案に、トムも戸惑っていた。
『え、ええ!? 速度はこれが全力で……そ、ソウルターゲットですか!!?』
「無理ならいいです!」
上手くマングルの銃弾を躱しているから、問題はないが……
僕らの足元では、不思議なことにカサブランカは呆れた表情で細かい糸の塊を、銃口のあるパーツに投げ入れた。
「駄目ですね。簡単に止められますよ。バンダースナッチと同じ作りでしょう?」
「な、何!?」
マングルが驚愕したのは、糸が絡まった事で機械に火花が散っている光景。
先程、連射していたマシンガンも、糸の絡まりで上手く回転せず、妙な効果音を立てていた。
しかも、パーツそれぞれに糸が絡まって、再び元のバイクの形状に戻れない様子。
カサブランカが問答無用にマングルへ二つの刃に分けた大鋏を振りかざすべく、バイクの残骸から地面に転がり墜ちたマングルへ接近。
ホワイト・レディは、ラザールに衝突した反動で、直ぐに荷車を動かせないようだ。
万事休すの状況。
凄まじい風圧が僕らとカサブランカ達を襲う。
発光の一筋を靡いて現れたのは、バンダースナッチだった。
マングルとカサブランカを割って入る形で襲撃するバンダースナッチ。
彼の登場に、カサブランカは満更でもない表情で温存していたボビンやボタンを取り出し、宙に浮かせ、怒涛の連続攻撃を開始。
カサブランカは、バンダースナッチ相手に余裕で対応しているようだが、最早、僕達の視点では動きが捉えられない。
白兎を通してトムも震え声で『バンダースナッチだ……』と呟いていた。
バンダースナッチの性格から考えるに、あれはマングルを助けに入ったのだろう。
上手い具合にカサブランカがヘイト稼ぎしてくれたこともあり、バンダースナッチの増産兵器もカサブランカの方へ自然と移動を開始している。
あとは、ロンロンの遠距離攻撃だけ……と思いきや。
向かい側に空間の裂け目が現れ、そこから頭出したクックロビン隊による絶叫が響き渡った。
『ああ、不味い!』とトムが悲鳴をあげる。レオナルドが急加速し白兎に接近し、キャッチ。
クックロビン隊の絶叫で白兎が気絶した。
トムとの魂のリンクが途切れ、彼の声は聞こえなくなる。
ふと、気づけばレオナルドが『ソウルシールド』を展開している。僕も気絶の異常状態から逃れていた訳だ。
レオナルドは片腕で白兎を抱え、片腕で大鎌の柄を握る。
このままではレオナルドの負担が大きい。
僕も白兎の状態異常回復が出来るか試みたが、選択肢に白兎は表示されなかった。
幸いな事にクックロビン隊は僕らに遠距離攻撃はせず、すぐさま頭を引っ込める。
こまめにレオナルドのMPを回復するのを、僕は忘れなかった。
彼の薬品によるステータス強化が切れるのを見越し、タイミングよくレオナルドのSTRとVIT強化の薬品を使用。
ここまで来ると、いよいよ奴らが見えて来る。
僕らを差し置いて先陣きったアイドル連中。派手なカラーリングだから遠目でも分かる。赤髪はリーダーの心、金髪は竜司、深緑は翔太。
どうやら、結構な満身創痍状態。明らかな疲労が伺える。
僕らが奴らに追いついた要因は、やはりあの遠距離攻撃の猛襲。
あれを無傷で切り抜けられたのは、流石の運動神経と評価したいが、回避に手一杯でオーエンが待ち受ける最深部になかなか到達できなかったようだ。
奴らの会話も聞こえて来る。リーダーの心と思しき少年の声だ。
「機械人間が向こうへ行った! チャンスは今しかない!!」
次に聞こえた不機嫌そうな声色は、恐らく翔太だ。
「おい、だったら俺がやる。テメェらは戦闘得意じゃねーだろ」
「無断行動していて、なんだその態度は!? それに最後を決めるのはリーダーの僕、最悪でも竜司だ! お前は出しゃばるポジションじゃないとマネージャーにも注意されているだろう!!」
「バックでチマチマやってろってか!? 俺はテメェと違って金がいるんだよ!」
馬鹿らしい。こんな時に仲間割れ。
しかも、自分たちがボスを倒す前提の話……オーエンを前にしてから口論して欲しいものだ。
段々と僕らとアイドル連中の距離が無くなろうとした矢先。
レオナルドが「なんだあれ」と俄かに信じ難い反応で、後方を確認していた。
僕も柄をしっかり握ったまま、振り返る。
背後から、自棄に素早い動きをする金のなにか。泥や石灰による悪趣味な生命体らしい塊が、じわじわと近づこうとしていた。
金以外にも鉄や銀の人型が、各々の武器を手に唄をブツブツ唱えながら接近。
『金と銀で建てよう』
『鉄と木で建てよう』
『銀と鉄で建てよう』
『泥と石灰で建てよう』
あれはロンロンの呪いを受け、奴の支配下に置かれた人間……プレイヤー達か!
面倒な。
所持する武器の形状や、個体別で速度に変化もあることから、ステータスはプレイヤー基準になっている。これでは一種のバトルロイヤル状態だ。
スライムのような液状の塊と化したプレイヤー達は、ステータスの低い連中を固め合わせたものだろう。
「ルイス! ヤベェ!! 絶対に離すな!」
突如、レオナルドが大声を上げた瞬間。
いつの間にか、ぽっかり開いていた空間の壁にある穴。そこから黄金色の瞳が覗き込んでいる。
まさか。ブライド・スティンク――!!!
僕が大鎌の柄を握りしめると共に。重力の方向が狂う。
空間そのものが傾き出し、僕らは前のめりになった。
僕らの背後にあった水面の水が傾れ込む。
そう、背後でぐずっていたスライム状のプレイヤーの塊も、重力に従って、僕らがいる方向へ落ちていく。
レオナルドは余裕で僕と共に、プレイヤーの塊を回避。
だが、僕らの前方にいたアイドル連中は違う。急な重力方向の変化に戸惑っていて、プレイヤーの塊にぶつかりそうになる。
翔太は『ソウルターゲット』を駆使して切り抜け。
心が出遅れたのを察し、竜司が『ソウルターゲット』を思い切り、心を押し出す。
プレイヤーの塊に竜司が押しつぶされる形で衝突した。
他にもメリーの羊やリジー・ボーデン、他にも複数あったプレイヤーの塊が僕らに向かって降り注ぐ。
まだ、無事に切り抜けていたプレイヤーたちが色々と叫びながら、僕らの脇を通り過ぎる。
ブライド・スティンクは攻撃を止めず。
様々な方向へ空間を傾ける。
プレイヤーの塊はピンボールの玉のように、ゴロゴロと僕らの脇を通り抜ける。
これを回避しているレオナルドは、メリーの羊や生存するプレイヤーをも回避し、どうにかオーエンがいる最深部へ進もうと前進。
すれ違うプレイヤー達が、現状に対し叫んだ。
「クリアさせる気あんのか!? このクソイベェ!!!」
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