炎上
これが普通のイベントだったら、粋な演出だ。
所謂、ボスラッシュが実現されている。加えて人気高い妖怪たちばかり。妖怪ファンがここにいれば相当な盛り上がりをした事だろう。
残念ながら、ここにいるのは妖怪ファンではなくアイドルファン。
開幕の合図と共にアイドルファンは一同に洗練された動きを見せる。
「私たちが足止めするから、早く行って!」
これが敵を前にした味方の台詞なら、どれほど感動的だったか。
仲間である僕らを足止めする為に、盾兵系のアイドルファンが防御スキルによる盾を展開させる。
僕らが完全に包囲されている以外にも、向こう側で幾つか同じような現象が起きていた。
アイドル以外の他プレイヤー達の足止めをしているのか。
怒声や歓声やら騒がしい中。
心と竜司、翔太が逆刃鎌で浮遊移動してオーエンの後を追跡しようとする姿が、上空で見られた。
ファンサービスで、振り返ってアイドルファンに手を振っている。
腹立たしい。
先程まで同じパーティだったなんてお構いなしだ。竜司だろうが、なんだろうが全員蹴散らしてやる。
僕の作戦通り、レオナルド達は被害を受けないように、僕より後ろに下がった。
薬剤師系のジョブの技能『薬品一式』。一度に十個の薬品を同時使用可能。
プレイヤーの強化薬品だけではない。
『火炎瓶』などの妨害系も一度に使用可能だ。
僕はプレイヤー待機中にセットしておいた『火炎瓶』で構成された『薬品一式』のセットを使用。
単純に『火炎瓶』といっても薬品同士を掛け合わせる技能『合成』で作製した威力あるもの。
『火炎瓶』に関しては敵味方関係なくダメージを与える爆弾めいたアイテム。
恐らく、向こうも僕が『火炎瓶』を使用するのは想定済みだ。
連続使用する『火炎瓶』で防御壁が破壊されれば、他プレイヤーが入れ替わって壁を貼り直す。
盾兵系のジョブ2『守護騎士』に関しては、更に上位互換の防御スキルがあるうえ。
本来、ジョブ3『守護神』で使用するのを想定されたスキル『カウンター・アイギス』を使用する者まで。
『カウンター・アイギス』は一定時間、盾が破壊されない限り攻撃を吸収し続け、相手に吸収した分のダメージを跳ね返すスキル。盾の耐久度は並ではないので、厄介極まりない。普通なら。
糞女共が培った努力や健気さは、無意味だ。
僕は『薬品一式』で『火炎瓶』のセットを使用しまくる。
ただ、使用し続ける。
延々と使用し続ける。
黙々と使用し続ける。
『薬品一式』にセットした最初の『火炎瓶』一式を使用し終えたら。
今度は二番目の『火炎瓶』一式を使用する。
次は三番目の。
その次は四番目の……
どれも調合内容を変えた威力高い『火炎瓶』のセットだ。
勿論、それを最大スタック数99まで所持している。
最早、僕自身が爆弾魔と化しているレベルで周囲一帯が炎の海と化していた。
どれだけ防御してようが、限度がある。
MP回復している暇など与えるものか。
お前らが呑気に僕らへ嫌がらせしている時間は、これほどの薬品を作製するほど価値があるものだと思い知れ!
「ちょ……ちょっと―――!?」
「キャアアアアッ!!!」
いよいよ、前列に崩壊の兆しが見られた。だが、僕は攻撃の手を止めない。
前列を蹴散らした後、その次は向こう側にいる女共だ。
黒煙と炎ばかりの周囲を僕はいよいよ前進した。
僕自身、残り香である炎にダメージを受けながら『火炎瓶』を使用しまくった。
「ど、どうなってんのよ!!? 幾つ持ってんのよ、アイツ!!」
勢いに押されて、他プレイヤーを妨害する女共の方へ逃げ惑う連中。
しかし、これは盾兵系の弱点で。
前方は強力な防御力を誇る故、背後はお粗末になりがちとなる。
つまり、他プレイヤーの前方を向いている盾兵共は、僕には背後を向いている。恰好な獲物だ。
それに気づいた連中が、逃げて来た奴らに吠えた。
「こっち来ないで! 私達が巻き添えになるんだけど!!」
「はぁ!? 状況分かってるなら、私達を助けなさいよ!」
馬鹿の一つ覚えでいがみ合う連中ごと、僕は『火炎瓶』で吹き飛ばす。
広範囲に、自棄糞気味に、盛大に『火炎瓶』を放つのは気分がいい。
連中は思っているだろう。
『火炎瓶』は消費アイテムだから数に限りがある。いづれ『火炎瓶』も尽きる事だろう、と。
そんなことはない。
『薬品一式』は最大で十セット作れる。当然『火炎瓶』一式のセットは十セット全て埋まっている。
一セットだけで最大スタック数込みで990個。
十セットで9900個。
「幾つあるかって? 『薬品一式』にセットしている以外に十二種類の『合成:火炎瓶』が最大スタック数ある。合計は11088個だよ」
僕の宣告を聞いた女共が顔面蒼白になっている。
たかが100個や500個だと思ったのか? そんなもので済む訳がないだろう。
まあ、これも全てレオナルドのお陰だ。
彼が幸か不幸か、座敷童子のジャバウォックを引き連れたお陰で少ない素材で上質な薬品を作製できるようになったのと。
アイドル騒動の一件で、レオナルドが膨大な素材を備蓄してくれたこと。
全てが噛み合った事で実現可能になっただけだ。
あとは、僕が地味な薬品作製をやり遂げられるか否か。
元より協力戦なんてしていないんだ。協力拒否したのは僕らじゃなく、向こうだ。
だったら、僕らが連中に協力する義理なんてない。
一面を黒煙と炎の海とする勢いで、僕は『火炎瓶』の連続使用をし続ける。
瞬間。僕の興奮を冷ますように、レオナルドの叫びが僕の耳に入った。
「あ! 不味い!!」
彼が注視していたのは、兎たちが入れられた檻。
その檻の足場になっている柱が『火炎瓶』の被害をうけてしまった。今にも崩落しそうだ。
僕がつい、レオナルドが逆刃鎌で浮遊移動するのを見届けていると。
脇に凄まじい速度で何かが吹き飛ぶ。
僕の猛攻を制止しようと攻撃をしかけてきたアイドルファンが、ムサシに蹴り出されて、大広間から水面の方へと落ちた。
遠方では、ロンロンの石橋がオルゴールを奏でて、奴が変化可能な素材で生み出した人型から四足歩行の獣型の兵器を産み落として。
メリーが放電する羊を大量に登場させながら横一列の陣形を取りつつ、僕らに接近してくる。
リジーとボーデンも、ダンジョンの足場を辿って、こちらへ駆けて来た。
僕の猛攻のお陰で身動きできるようになった他プレイヤー達も、一同に駆けていく光景が広がり。
けれども、アイドル連中たちが頭抜けて、オーエンに近い位置にいた。
ムサシは一瞥しないで、僕に告げる。
「私は先にいくぞ」
僕の返事も聞かず、凄まじいスピードを出す姿は、僕らと同行している内は全力じゃなかったと体現していた。
なんにせよ。
大広間は炎の海で女共の中でも、盾兵系のプレイヤーがいなくなった以上。
奴らも他プレイヤーの後を追って、大広間から離れて行く。
ラザールが僕らに対し、魔石のブースト準備を整えつつ宣言した。
「なにやってんだ! 俺は行くぞ!!」
レオナルドは「後で追いつくから!」とラザールに返事をする。
半信半疑のようだったが、ラザールもレオナルドの人格を理解しているだろう。
アイドルファンと他プレイヤーを押しのける勢いで、風と雷、夏の季節の力を組み合わせた魔石でブーストをかけた。
「行くぜ! 『エレクトリック・サマー・ボルト』!!」
あっという間にラザールの姿が消え、風圧だけが僕らを襲い掛かる。
レオナルドは手元の大鎌を上手く使い。兎たちの檻を降ろした。
残ってくれたホノカが、格闘家系特有の物体破壊スキルで檻を破壊してくれている。
兎たちは揃いも揃ってレオナルドに群がってくる。完全に囲われたレオナルドは「助けてくれー!?」と謎の悲鳴を上げていた。
なんだか、呪いレベルの好かれようだ。
すると、兎たちは続々とレオナルドから離れて行く。それぞれ、兎たちの装飾から人間の声が聞こえる。
『一体全体どういうこと!? 貴方達、状況が分かっているのかしら!』
『信じられない……そこの君! 何をやったか自覚はあるかね』
兎たちは僕に対し鼻をヒクつかせているので、多分僕に対する非難だろう。
仕方なく弁解する。
「ああする他なかったんです。勘違いしないで欲しいのは、僕個人以外にも恨まれている人間が多数いたことで、このような事態に発展してしまいました。処罰は後でどうとでも与えて下さい」
『はあ、まったく! 私怨に囚われるなど、冒険者にあるまじき行為だ!!』
『み、皆さん。今は一人でも多く、皆様を脱出させましょう』
一石投じたのは、僕らを案内してくれた白兎の主『トム』。
こうして兎を通して話しているのも全員『祓魔師』なんだろう。
改めて、『祓魔師』の一人が話を切り出した。
『まずは今この場にいる者達を先導する。各自、他の冒険者と合流し次第、先導せよ!』
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