準備
分量調節。本格的な薬剤師らしいものだ。
例えば『回復薬』。
使用する素材を増やす事で『回復薬(中)』『回復薬(大)』が作製できる。
あえて素材を減らし『回復薬(微)』なんてのも可能だ。
僕は『回復薬(中)』とを20個、『挑発香水』を3個を作製する。
現在ある素材だけでは、これが精一杯だ。
[挑発香水]
使用したプレイヤーに一定時間、挑発効果を付与する。
一方、ステータスにポイントを振り分けながら格闘家の少女が
「は~~やっと本調子になって来た。序盤だとステあがんねーから動き鈍いの、なんの」
と言う。
格闘家は攻撃が優秀で、僕が確認する限りポイントが入った数値じゃない。
極端なAGIの高さから回避専門のプレイヤーのようだ。
魔法使い・弓兵・盗賊の女性三人組は、固まって話し合っている。
「調子どう?」
「全然強くならなーい」
「あたしはアイテム大量♪ 後でうろ~っと」
中でも盗賊の女性は、スキルでモンスターからアイテムを盗むのに専念していたらしい。
肝心なアイテムを共有する気はゼロ。
彼女達は彼女達で好き勝手やるタイプだ。指摘するだけで厄介になる。放っておこう。
「ご、ごめんなさい! 上手く攻撃できなくて!!」
「私も武器で攻撃しているのに全然斬れないんです……もう、どうしたら………」
初心者の鍛冶師の少女と武士の女性は謝罪ばかりだ。
鍛冶師は重いハンマーが武器。STRに多く振っていないから初動が遅く、ダメージを受けてしまう。
武士のカタナは、日本刀と原理は同じ。引いて斬る。
剣の叩いて斬るとは明らかに違う。
……説明してもいいが、ああいう性格は僕に意見を乞い求め、依存する可能性が高い。
迷惑だ。
彼女達に色々アドバイスをしている剣士のリーダーに任せておこう。
黙々と武器の性能を確認している銃使いの女性を傍らに、上機嫌で盾兵の老人が口を開いた。
「剣士のにいちゃん、俺も中々の活躍したよな! 『挑発』で敵をひきつけてやったぜ」
「あ、ああ。ええと……」
剣士の彼が苦い表情で返答に躊躇するのも無理はない。
盾兵の老人は確かに敵をひきつけていたが、逆に前線で戦っていた彼らの邪魔になっていたからだ。
折角、敵にコンボがヒットし、連続で畳みかけられる場面で。
盾兵の『挑発』スキルにより怯んでいた敵は体勢を持ち直し、攻撃を受け続けながら盾兵の方へ移動してしまうのだ。
すると、格闘家の少女がムッとした表情で「あのさ」と割り込もうとする。
流石に僕が、少女より先に割り込んだ。
「かっこよかったですよ。ゲームとは言え、僕には怖くて出来ません」
「ははは! そうかそうか!!」
「是非、敵をひきつけてカウンター的なものも見てみたいです」
「かうんたー? おお、カウンターな! やってやろうじゃねえか」
威勢よく宣言した矢先、盾兵の老人は「どうやるんだ?」とリーダーの剣士に聞いた。
老人は悪気はないし、全てを善意で行っている。
協力戦の常識を知らないだけだ。邪魔になっている事すら想像していない。
格闘家の少女には悪いが、一面のボスを倒すまでは場の雰囲気を悪くさせたくなかった。
しかし、格闘家の少女は不満があったようで、別の指摘をする。
「アイテム係の銀髪はともかく、何もしてねー奴らはどういうつもりだよ」
彼女は協力の重要性を理解しているが故、戦闘に加わっていないレオナルドが気に食わないのだろうが。
レオナルドの武器・大鎌の特性を理解したうえで、言っているんだろうか?
恐らく言ってない。
僕は溜息を抑え、同じ調子で彼女の指摘に答えた。
「レオナルドさん達は僕の薬の素材集めを手伝ってくれていたんです。お陰で、回復薬も沢山作れました。僕も、ボス戦は皆さんのサポートに徹底します」
達、というのは刺繡師の女性を含めての表現だ。
彼女は僕の手伝いをしていないけど、そういう事にしておいた方が、場を乱す事にはならない。
格闘家の少女は「そうかよ」と釈然としないまま引き下がった。