ライオンとユニコーン
僕らがジャバウォックに案内されて、次の場所へ向かう途中。
またもやパーティ再結成のアナウンスが流れた。
しかし、僕らのパーティに追加はなかった。
恐らくだが、兎を失ったり、人数が減り過ぎたパーティが出るには出るが、少ない割合だろう。
下手にこれ以上人数が増えたら、レオナルドがまとめ切れるか怪しいギリギリかつ丁度いい現状。
ただでさえ、ムサシやカサブランカ、ラザールといった癖の強いメンバーばかりだ。
奇跡的にまとまっているだけ、十分過ぎる。
そんな僕らの前に立ちはだかるのは、闘技場。
白兎を抱えながらジャバウォックが立ち止まったのは、闘技場入り口にある看板。
ライオンとユニコーンが争う絵が描かれていた。
これはマザーグースの一つ『ライオンとユニコーン』の唄を引用した『鏡の国のアリス』に準えている。
そして、入る前から闘技場で待ち構える巨体のライオンとユニコーンの姿が。
並の妖怪どころか。
マルチエリアの最深部にいるレイドボスよりも巨体過ぎるあまり、ホノカも「でけぇな、ありゃ」と驚きを漏らしている。
獣たちの奥が七色の光沢のバリアで塞がれている。
あの二体を倒さなければ、先に進めない仕様なんだろう。
僕を観察し、察したのかレオナルドが尋ねた。
「ルイス。どうすればいい? 『鏡の国』だっけ? そっちの話は詳しくねーんだ」
「ああ。上手く誘導して、ライオンとユニコーン同士争わせるんだ。元ネタを知らなくても、この絵で大体勘付けるよう工夫されているね」
僕がそう語って、看板に触れると、その傍らにいたジャバウォックがじいっと僕を見上げる。
竜司は包み隠さず、正直に申し出た。
「誘導……とはどうすればいい? 俺の攻撃でも出来るなら、やってみるが」
すると、ホノカは即座に言う。
「駄目だ。慣れてねぇなら、無理にするんじゃねぇ」
「そうか、すまない。俺はルイスと共にジャバウォックを見張っていればいいだろうか」
僕は視線を向けて来るジャバウォックを眺め「そうですね」と同意しておく。
サポートに回る僕や竜司を除いて。
レオナルドとラザール、ホノカとムサシ、最後にカサブランカで二体を倒すべく誘導を行う。
一つ、レオナルドは確認した。
「ラザール。魔石の残りは大丈夫か?」
「ん? ……あー、やべぇ。残ってるっちゃ残ってるけどよぉ、こいつはラストスパート用の魔石だから使いたくねえ」
雑魚妖怪をラザールが片付けてくれたはいいものの。
さっきの『ホワイト・レディ』相手で使った魔石を除外しても、かなり消費していたのは僕も感じていた。
あの巨体を動かすには拳闘士のホノカの力が必須。魔法で動かすのが厳しいくらいなのが、幸いだった。
彼女も役割を理解して、切り出す。
「じゃあ、ラザールはいい。レオナルドが『挑発香水』使ってヘイト役。ウチとムサシ……それとカサブランカ。さっきみたいなの余裕で出来んだろ?」
皮肉込めた言葉と共に、ホノカはカサブランカを睨む。
当のカサブランカは悠長にメニュー画面を開き、手持ちを確認している。
彼女は、僕らに視線を合わせず告げた。
「普通に倒しますけど」
と、カサブランカは先程とは異なる七色の光沢を持つ大鋏に装備を変更。
あの感じ……『季節石』を使ったオリジナル武器だ。
本気でやるつもりなんだろう。
取りあえず、殺す前提で。倒せない仕様だったら止める。そんなところか。
カサブランカは、不自然な主張をしていないかのような振る舞いを見せつけて来た。
「そこの彼が仰っているのは、楽に倒せる方法だと解釈していますから。普通に殺せないかは、まだ分かりません」
我慢していたホノカも、傍若無人なカサブランカに吠える。
「あのなぁ! 少しは周りに合わせろ!!」
ムサシは分かり切っていたかのように、さっさと闘技場に足を踏み入れていた。
レオナルドも、カサブランカが平坦な足取りで進むのを見守る。
彼らが入った事で、待機していたライオンとユニコーンは起動する。
僕もパーティ全員に身体強化の薬品を使用してから、レオナルドに『挑発香水』を使用。
ユニコーンが額の角でレオナルドに突進してくる。
『ソウルオペレーション』で浮遊操作する逆刃鎌に乗ったレオナルドは、余裕で回避。
しかし、ユニコーンが闘技場の観客席に突っ込むと派手に破壊され、まだ闘技場内に入っていない僕達に建物の破片が降り注ぐ。これは予想外だった。
僕はジャバウォック(と白兎)を思い切り抱え、駆けだしていた。
上手い具合に、竜司も逆刃鎌の浮遊移動で僕らについて行きながら、回避。
ラザールが僕らより先へ箒で駆け抜け、即席の魔法で降り注ぐ破片を対処してくれる。
ライオンは吠え声を衝撃波にする攻撃を放つ。
衝撃波攻撃は、ユニコーンと同じく全体に影響を及ぼす。壁を貫通し、僕達に襲い掛かる。
僕は『火炎瓶』で貫通する衝撃波を相殺。
途端。
ユニコーンが派手に飛び上がった。正確には誰かに吹き飛ばされた。
その犯人は直ぐに判明する。
ユニコーンを追って、白い何かが地面から真っ直ぐ跳躍する。鳥のような自在な方向転換は、実に機敏。
白きものから、無数の透き通った糸が伸び、瞬く間にユニコーンを拘束。
遠目だから詳細ではないが……あれはカサブランカ?
勢いよく拘束されたユニコーンは、糸を手繰り寄せられて背負い投げされるような形で地面に叩きつけらた。
下では、ライオンの吠え声が響く。
かと思えば、凄まじい斬撃が飛び交う。ムサシの攻撃なのだろうが、やはり闘技場内に入らなければ状況は掴めない。
レオナルドに至っては……無事なんだろうか。
◆
一方。
実況生中継が行われている広場は、色々と騒ぎの波風が酷かった。
アイドルファン達を動揺させた一番の要因は『クインテット・ローズ』の動向。
翔太が勝手に先行してしまい。どうして勝手にとファンの中でも賛否あり、翔太のファンが複雑な心情の中。
睦や直人の脱落は、ファンにとってはショッキングな光景で非難怒声が飛び交った。
唯一、ブレがないというか。
巡り巡って安定している竜司に関しても、レオナルド達と親しくしている様子や穏やかな表情で兎を撫でている姿は、ファンが抱くイメージと異なり過ぎ。
一人逃げた心にも失望してしまったファンもいれば、参加してるメンバーは本物じゃないと暴論を述べるファンまで。
そして、プレイヤー達の動向を見守っていた中田とキャサリンも神妙な様子だった。
気まずい雰囲気でキャサリンが口を開く。
「い、いや~~それにしても、妖怪を使った……あれは何と言うんですかねぇ?」
中田も唸って答える。
「MPKと呼ばれているものですね。まさか妖怪を利用してパーティメンバーを脱落させようとは……協力型のイベントは、逆効果でしたかね?」
「普通に協力型の方が、いいに決まってるじゃないですか! い、いい筈なんですけどね~?」
「えー、こちらの措置は絶賛検討中ということでして。実況に戻りましょうか。おおっと、またこれは」
中田が思わず頭抱えてしまったのは、通常戦闘してしまうとレベル100クラスの強さに設定してある『ライオンとユニコーン』の二体が。
カサブランカとムサシの猛攻で薙ぎ払われ、遊ばれてる映像がモニターに映し出された。
啞然とするキャサリンを差し置いて、中田は苦笑いする。
「あのお二人はジョブ3獲得しているとは言え、うーん。普通に倒しにくい設定してあるはずなんですけどね?」
運営側が渾身の強敵として用意した『ライオンとユニコーン』が、普通に倒され。
レオナルド達が無事に次へ進む映像が流れる。
キャサリンは慌てて実況に戻った。
「こ、この次は、例のチェス盤のところです! さあ、どうクリアするのでしょうか!?」
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