再結成
僕らは『ハートの女王の庭』を通り抜け、グリフォンとウミガメのボスを倒し終えると、『アリス』の物語最後のシーンになる裁判所に到着。
内部は不思議に歪んだ証人台や傍聴席があり。
人並みに大きいトランプ兵と、ハートの女王を形取った巨大な人形が座していた。
ハートの女王が奥に続く扉の前を陣取っていて、あれを倒さなければ進めないのは明白。
無数にトランプ兵が飛び交う中。
トランプ兵が執拗に白兎を狙ってくるので、レオナルドがまず兎を確保。『ソウルオペレーション』による浮遊操作した逆刃鎌に足をかけ、片腕は柄を掴み、もう片方は兎を抱える。
ハートの女王が持つ猟奇的な大鎌も、盛大にレオナルドを追い回す。
どうやら、コイツらは白兎だけを狙っているらしい。
レオナルドが回避に徹底すればいいが……僕はまずレオナルドにSTR強化の薬品を使用。
僕の傍らでラザールが魔石を取り出し、ホノカやムサシも臨戦態勢を取るが。
咄嗟に、僕は彼らを制した。
「すみません。ちょっと待ってもらえますか」
ホノカが「なんだよ!?」と邪魔されたのに気分を害している。
僕が再度、トランプ兵の動きを観察した。
クローバーのトランプ兵だけが連携を取って長方形の壁を形成。
ダイヤのトランプ兵は、横一列に隊列を組み進路妨害。
スペードのトランプ兵は、どこにいようがレオナルドの周りを取り囲むように追跡し続け。
最後にハートのトランプ兵は、ハートの女王の周囲に浮遊し。接近しようものなら手裏剣の如く体を回転させながら接近攻撃……
パッと見、クローバーとハートのトランプ兵で違和感を覚える。
ラザールも回避し続けるレオナルドを見かねたのか、苛立って僕に訴えた。
「俺が全部ぶっ飛ばせば終わるだろうが! 何、ビビってんだよ!!」
「いえ。トランプ兵が一種類ごとに一枚欠けているみたいなんです」
「欠けぇ?」
「はい。クローバーのトランプ兵が長方形に壁を作っていますが、妙ですよね。トランプは各種13枚のはず。一種類だけで長方形は形成できません。奇数ですから」
「ん……?」
「ハートのトランプ兵は、女王を除けばハートのAがありません」
そう、不自然だ。
念の為、欠けていると思しきカードがどこかに隠れてないか周囲を確認してもない。
ラザールは顔をしかめ、ホノカも察して観察してくれる。
レオナルドが、欠けているスペードのカードを教えてくれれば……
「クローバーは8」
だが、真っ先に対応したのはムサシだった。奴は最初から分かっていたように、スラスラと喋る。
「ダイヤは6。スペードは10。もういいな。雑魚掃除をしろ」
あまりの速さにホノカが「おい!?」と驚くしかない。
彼女も反射神経は良い方だが、カードの柄を全て把握しきれなかったようだった。
ラザールは鼻鳴らし、魔石を数個放り投げれば、魔石から魔力の線らしいものが伸びて魔石同士を空中で繋ぎとめる。まるで星座の形だ。
形取った魔石が旋回しながら魔法を解放。花火に似たエフェクトをした火魔法の広範囲攻撃を展開。
レオナルドは周囲を巡るトランプ兵の一部に割り込んで、薙ぎ払い、脱出。
『ソウルターゲット』を活用し、ラザールの魔石攻撃の巻き込みを回避していた。
トランプ兵が片付けられる中、魔石攻撃の合間を縫うようにすり抜けていく、気持ち悪い動きをするムサシ。
ホノカも自棄になって、ムサシの後に続いた。
ラザールの魔石攻撃を受けても倒れない、最後に残ったハートの女王にムサシとホノカの攻撃が入れば。女王は消滅。
扉が開かれると同時に、イベント開始時に聞こえた女性的な機械音声のアナウンスが流れる。
『このエリアの敵は一定時間経過すると復活します。なるべくお早めに進んでください。繰り返します……』
復活……やはりか。
僕の考え通りなら、何等かの意味合いがあるトランプ兵の欠けた数字。暗号だろうと予想する。
暗号のヒントとして復活する仕様な筈。
案の定、僕らが扉を開けた先は最初の集合場所・川辺の土手。
裁判所に通ずる扉は残されたまま。最悪、戻れる仕様になっている。
そして……もう一つ、別の扉があった。扉にはトランプのマークと共に数字を合わせる装置が。
白兎を抱えているレオナルドが「おお」と感心した。
「ルイス! やっぱりパスワードが必要だってさ」
「よし、入力しよう」
ムサシが見切った数字だが……大丈夫だろう。僕は意を決して入力。
カチリと音が鳴ると共に、扉が勝手に開かれる……が、中はこれまた暖炉がある西洋の一室となっていて。どうやらゴールではない。
この内装……僕が念の為、目を通した『不思議の国のアリス』の続編にあたる『鏡の国のアリス』の世界じゃないだろうか。
ラザールもそれを目にし「まだ続くのかよ!」疲れを露わにする。
その時だった。
突如、僕たち全員の動きが止まる。
レオナルドも抱えていた白兎を落としてしまい。兎も驚いたように立ち上がり、鼻をヒクヒクしながら周囲を見渡す。
喋ろうと思っても喋れない。
イベントが発生するのかと思えば、再び機械音声のアナウンスが入った。
『イベントをお楽しみの皆様にお知らせします』
『現在、脱落者及び、兎の追跡に遅れたプレイヤーが多数発生しております』
『その為、パーティを再結成させていただきます』
『パーティ人数が既に12人のチームは、再結成から除外されます』
……また余計な真似を。完全に水差すようなものだ。
ホノカやラザールとパーティ結成は想定外だが、まだ許容範囲内だった。
だが、ここに他のプレイヤーが加入してくる。
高確率でアイドルファン連中しかいない状況。最悪極まりない。どうしてこうも人の楽しみを邪魔するんだ……!
アナウンスが終わり、身動きできるようになる僕ら。
ムサシやレオナルドは何も言わないが、ホノカは不愉快そうな表情でぼやいた。
「ここに知らねー奴が来るって事かよ」
ラザールも「調子狂うな」と不満を述べている。
運営側は下手にプレイヤーが詰まないように工夫したつもりなんだろうが、完全に蛇足過ぎる。
恐らく、ダンジョンが残り半分差し掛かったところ。誰が来ても場違い極まりない。
悪寒は嫌でも的中するようで、僕らの元に現れた青年は。
白を基調とした制服に、金髪の二枚目、よりにもよって敵対関係にある『クインテット・ローズ』の白崎竜司だった。
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