役割
僕がラザールと話を合わせる事ができたのは、皮肉にも父親の趣味のお陰だった。
人生何が役立つか分からないものだとつくづく実感する。
先導する白兎をレオナルドが見守っていると。
道中、異形な肉体形状をしたネズミや鳥類の妖怪が、雑魚敵として登場。
レオナルドが白兎を守る形で『ソウルオペレーション』で鎌の浮遊操作を行う。
雑魚相手には、ラザールが戦ってくれた。
最初の部屋で行ったように、ラザールが魔石を雑魚妖怪の群れに放り投げると。
複数重なりあった魔法陣が展開し、広範囲の新緑が混じった竜巻が発生。
瞬殺に終わった。
ムサシはラザールの攻撃に興味なくレオナルドに視線を送る。
彼はそれに応えて保護していた白兎を解放、先導させてやった。
だが、ホノカはラザールに問いただす。
「さっきから魔石で攻撃してるけどよ――」
「あぁ? 卑怯だとか言いてえのかぁ? 魔石だって地道に作る必要があるんだよ。俺の場合は箒の加速用に水とか火とか、風の魔法に夏の季節加えて~奴! 殴るだけの餓鬼には作る苦労なんざ、わかるか!」
「お、おい!? そうじゃね……おまっ、お前! もしかして、ジョブ3!!?」
「ジョブ?」
ラザールはそれがどうしたと言わんばかりの、淡白な表情だった。
いや、僕の情報網では魔法使い系のジョブ3『賢者』に到達したプレイヤーはいなかった筈。
パーティ一覧で確認すれば、本当に『賢者』の表記がある。
……ちょっと待て。コイツのステータス、おかしいにもほどがあるぞ。
僕は試しに尋ねた。
「あの……DEXを高く取っている理由は?」
普通、絶対に、魔法使い系がDEXを取るなんてことは無い。
攻撃威力を上げる為にも、INT極振りでいいくらいだ。というかDEXは生産職向けのもの。
ラザールは不快感なく、上機嫌に僕の問いを答えてくれる。
「そりゃ、箒のパーツとか自分で作るもんだと思ってよ。ゲーマーの奴に聞いたら、物作る時はDEXに振れって言われたからな。お陰でクッソ速い箒に改造できたぜ」
発想が違う、というより。
コイツの趣味趣向が、魔法使い系の隠し要素を暴いた奇跡か。
ラザールが虚空に魔法陣を無数に展開させる。
それはバトルロイヤルで散々目にした複数の魔法を組み合わせるエフェクト。
通常なら、このまま魔法を発動させる所。
ラザールが繊細に魔力操作的なことをしたのか、魔法陣の中心に魔力が凝縮した魔石が一個、完成した。
ああ、そういう奴だったのか。
陣に魔力を流して、その中心に魔力を集中させることで魔石が精製される……原理は通常の魔石作りと同じ。
僕は納得し、言葉にする。
「魔法使い系は火力重視か、下準備に手間暇かけ臨機応変に対応するか……魔石を活用する事で、更なる魔法を極められる。そんなところでしょうか」
ラザールは意気揚々と頷く。
「わかってんなぁ、ルイス! 俺は箒の馬力あげるのに使ってるけどな」
「魔法使い系がDEX振り推奨となると、また各界が荒れそうな予感しますね」
話を聞いたホノカは頭かかえる。
「攻撃時のモーションで魔石作れるって……分かる訳ねーだろ!」
突っ込みたくなる気持ちは分かるが、ジョブ武器といい随分と捻くれている部分が多いゲームだ。
何を今更、と言うべきか。
そして、無難に考えて複数の魔法を組み合わせて魔石を精製するなどが『賢者』への昇格条件に入るんだろう。詳細はラザールに聞いた方がいいな。
先導していた白兎が飛びあがるように止まって、レオナルドの方へ避難する。
森に入ったところで中間ボスらしき不気味な芋虫が、僕らの前に立ち塞がった。
無言かつ仏頂面で、ムサシが芋虫を叩き切る。
だが、芋虫の不気味な模様の胴体は、バラバラに動けるようで、運悪くムサシが切った部分から分かれて動き出す。
ムサシは躊躇なく、次々と胴体を斬り終えて。カタナを収めてしまう。
「お前が壊せ」
奴がそう告げた相手はホノカ。
乱雑なムサシの態度に苛立ちながらも、彼女は自分の役割を理解していた。
胴体の破壊。
小回りの利く拳闘士のステータスを活かして、バラバラ状態の胴体に次々技を叩き込むホノカ。
「『柘榴裂け』!」
ホノカの拳が入ると、紅の裂け割れるエフェクトが発生した後、芋虫の胴体は消失。
通常なら、複数のプレイヤーがそれぞれ胴体を攻撃していく展開なのだろう。
序盤のボスだけあって、体力は高くない。
瞬く間に彼女とムサシの活躍で、ボスは倒された。
僕は念の為に、パーティ全員に全ての強化を付与する『薬品一式』のセットを使用。
ラザールが「さっさと行こうぜ」と促す。
ここでホノカは指摘した。
「おい、レオナルド! お前、戦えるんだから戦え!!」
「あ、悪い……」
戦闘中、抱えていた白兎を解放するレオナルドが謝る。
僕は反論しようとしたが、僕より先にムサシが珍しい位に喋った。
「全員役割分担している」
「はぁ?」
納得いかない様子のホノカにムサシが指さす。
「私とお前は厄介なのを倒す」
次に、ラザールを指さす。
「コイツは雑魚掃除」
次に僕を指さして。
「コイツは回復」
最後にレオナルドを指さして。
「レオナルドは兎」
無事に済んでいる白兎は、相変わらずのすました顔で鼻をヒクヒクさせている。
ホノカも困惑し「兎ぃ?」と呟いていた。
僕が咳払いをして、言葉足らずのムサシの代わりに話す。
「恐らく、ジョブの関係上、レオナルドが兎をコントロールできるのは間違いないと思います。兎が勝手に先行したり、戦闘に巻き込まれるのを回避する役割を担っています」
「ジョブって………『祓魔師』かぁ? ペット使役系のジョブっぽくねぇだろ」
「印象で決めつけるのは早いです。もしくは、白兎の飼い主が『祓魔師』だからかもしれません」
レオナルドが状況を把握し、可能性を挙げた。
「協力型のイベントだから、全員役立つポイントがあるんじゃねーか?」
ラザールも察したようで皮肉りながらも、レオナルドに同意する。
「そうみてぇだな? 今んとこ、問題ねぇ。問題あるとしたら、なんだ? 例えばよ~ここにいねぇジョブにしか出来ねぇ事とかよぉ」
ここにいないジョブ……鍛冶師と刺繡師のような生産職は分からない。
剣士、盾兵、弓兵、銃使い……遠距離攻撃に関しては、ラザールが補ってくれるだろう。
なら一つ。
僕は自然とそれを口にする。
「盗賊系の『鑑定』かな」
皆様、感想・誤字報告・評価・ブクマありがとうございます。
なんやかんか、100話まで到達してしまいました。
春エリア編は100話以内に収めたかったのですが、上手くいきませんね…
これからもよろしくお願いします。