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夢見る女子はこじらせてる 〜腐女子でプ女子で夢女子です〜

「はあ、かっこいい筋肉」


「エリ、また見てるの?」


「うん。佐伯さえき君、見て。スゴイでしょう!」


 そう言ってエリはバイト先の友人の佐伯君にスマホの画面を見せた。覆面プロレスラーの写真だ。


「エリはプ女子だねえ」


「どうして私が腐女子ふじょしだってわかったの? どうして? 誰にも言ってなかったのに! もしかして見た目でわかるの? 私、そんなに腐女子オーラ出てるの?」


「…………腐女子じゃなくて、プ女子って言ったんだよ。プロレス大好き女子の略だよ」


「あっ、なーんだあ……。ハハハ……」エリは自分が腐女子であることを聞かれてもいないのに言ってしまった。「えーと、佐伯君の筋肉もすごいよね!」


「ああ、ありがとう。鍛えてるんだ」


「今度一緒に試合観に行かない? 私はねえ、前は『プロレスだなんて野蛮なもの』って思ってたんだけど、行ってみたら楽しかったよ! かっこいい選手も多いしねえ、ただ戦うだけじゃなくて笑わせてくれるし、サーカスみたいに選手がクルクル跳んだりするの。すごいよ!」


「へえ」


「宣伝のためにSNSやってる選手も多くてね、ブログ書いたりツイッターやってる選手もいるし、インスタグラムやってる選手もいるんだよ」


「ほお」


「私もね、好きな選手のツイッター、フォローしてるんだ。選手がツイートするたんびにコメント書いてるの!」


「そうなんだ」


「誰よりも先にコメント書けた時は『よっしゃあ、一番乗りっ!』って思うの!」


「ふむふむ」


「たまに出遅れちゃうときもあるんだけどね。そういう時は他の人のコメント見て、誰も書いていないことを書くの。印象に残したいからね」


「ほお。それで向こうから返事は来るの?」


「来ないよ。その選手はファンの人を誰もフォローしてないし、誰にも返事してないみたい」


「ふーん。」


「今日の夜も試合があるから、がんばってくださいって書いたんだあ」


「そーなんだ。マメだね」


「なんかバカにしてない?」


「そんなことないよ。何かに夢中になることは良いことだよ。もしかしてプロレスも腐女子目線で見てるの?」


「そ、そそ、そそそそんなことないよぉ……」エリは顔を真っ赤にしている。


「図星だったみたいだね」


「い、いつもじゃないよ。感動的な試合が終わった後、裸で抱き合ってるからドキッとしちゃっただけだよ……」


「プ女子に隠れ腐女子発見。プロレス観戦は俺はいいや、ごめんね。でも話を聞くのはおもしろいから、また聞かせてよ」


「うん。ありがとう」



 次の日、バイトの休憩中。エリがうつむいている。


「どうしたの? 落ち込んでるの?」


「…………好きな選手がね、昨日の夜からツイートしてないの。私がいつもコメントするからウザいって思ったのかな」


「昨日の試合はどうだったの?」


「負けちゃったみたい。試合観に行った人がツイートしてた」


「じゃあ、試合に負けてショックだったんだよ。エリがウザいからじゃないよ」


「そっかあ。よかったあ」


「まるで恋する乙女だね」


「だって筋肉かっこいいんだもん。ツイッターもね、いつもかっこいい筋肉写真載せてるし、おもしろいんだよー。いいなあ、あんな彼氏がほしいなあ」


「プ女子というより、夢女子ゆめじょしだね」


「夢女子って何?」


「その芸能人やキャラクターと付き合いたい、結婚したいって思ってる夢見る女子ファンのことだよ」


「えっ、そう思ってるよ。ファンってみんなそうじゃないの?」


「みんなじゃないと思う。プロレスラーとして好きって思う人も多いんじゃないかな」


「そっか、私はプ女子であると同時に夢女子だったんだ!」


「認めるの早いな」


「夢女子エリでっす」


「あんまり、自分で言わないほうがいいと思う」


「なんで?」


「『あいつ、夢女子じゃん。キモ。』って言う人もいるから」


「ふうん、そっかあ……。私の好きな選手も、私のことキモイって思ってるのかなあ……」


「どうだろうね。まあ、付き合うのは難しいだろうけど、自分のファンになってくれてるのは嬉しいんじゃない?」


「私のことキモイですか? って聞いてみようかな」


「その質問がキモイし、もしキモイと思っても言えないでしょ。人気商売なんだから」


「あっ、やっぱり私キモイんだ……」


「大丈夫。恋してる人なんてみんなキモイよ」


「あれ? 佐伯君、腕ケガしてない? 大丈夫?」


「ああ、これは……猫に引っかかれちゃって……」



 一週間後。エリはやせてゲッソリしていた。


「エリ、ちゃんとご飯食べてる?」


「食欲なくて……」


「なんかあった?」


「好きな選手がね、一週間ツイッターやってないの」


「そうなんだ」


「きっと私が腐女子だから」


「そんなBL目線のコメントしてるの?」


「してないよっ。でもバレてたらどうしよう」


「分からないでしょ」


「それか私がウザいから」


「そんなにウザいコメントしてるの? なんて名前で登録してる? チェックしようか?」


「佐伯君にまでウザいと思われたくない」


「んー。じゃあ好きな選手の名前おしえて。その人に送られてるコメント見てみるよ。変なコメント見たら読み上げる」


 エリは佐伯君に好きな選手の名前をおしえた。


「別に変なコメント寄せてる人いないけど。みんな試合の応援コメントだよね」


「ホントに、ホントに変なコメントない? キモイコメントない?」


「ないよ」


「よかった………」



 一週間後。


「エリ、ツイッターどんな感じ?」


「好きな選手はツイッターを再開したよ。忙しかったんだって」


「そっか。またコメント送れるね。よかったじゃん」


「…………私ね、好きな選手をブロックしたの」


「えっ? なんで? なにかあったの?」


「毎日、彼のツイッターをチェックしてる自分がキモイから」


「そ、そうなんだ。それでいいの? 大好きなんじゃないの?」


「…………大好きだよ。ブロックしてもね、結局大好きな彼のことが気になって、彼の名前検索しちゃうの………」


「こじらせてるね。そんなに気になるなら、もうブロック解除しなよ。向こうだってツイッター公開してるんだから、誰に見られてても気にしてないよ」


「うん……」エリはブロックを解除した。「コメント送ろ」スマホを入力する。


「今日はなんて送ったの?」


「『大好きです。寝ても覚めてもあなたのことばかり考えてます。』って送ったよ」


「ははは、唐突に愛の告白を送るんだね。見てみよー」佐伯君は選手のツイッターをチェックした。「ん? そんなコメントないよ。」


「えっ?」


「ちょっとスマホ見せてくれる?」佐伯君はエリのスマホをのぞいた。「非公開にしてんじゃん。」


「そうだよ」


「これだと相手はエリのコメント見れないよ」


「そうなの?」


「うん。非公開にしてると自分と自分のフォロワーしか見れないんだよ」


「そんな〜! いっつもコメント送ってたのに〜!」


「よかったじゃん。向こうはエリのコメント見えないから、キモイとも思ってないよ」


「ショック。私の応援メッセージ全部届いてなかったんだ……」


「ファンレターでも書いて送ったら?」


「手紙?」


「うん。あんまり書く人いないだろうから、印象に残るかもよ」


「じゃあ佐伯君、書き終わったら読んでみてくれる? キモくないかどうか確認してほしいの」


「いいよ」



 次の日。エリは目の下にクマを作っていた。


「エリ、寝てないの?」


「ファンレター書き始めたら夢中になっちゃって。これ、読んでみてくれる? キモくないかな?」エリは封筒を渡した。


「分厚いねえ」


「キモイかな?」


「便箋2枚くらいのほうがいいと思うよ。読むの大変だよ。あとこれ送料いくらかかるんだろうね」


 封筒は本でも入ってるかのような分厚さである。


「そっか……」


「んー。でももしかしたら喜んでくれるかもよ。どんな内容なの?」


「あれ? 読んでくれないの?」


「時間かかるよ。」


「ファンになったきっかけや、その選手の好きな技、その選手を応援してるときが一番楽しいって書いたよ。あんまり強くないんだけどね、たまに勝つとすごくうれしいの」


「婚姻届とか入れてないよね?」


「それはさすがにやらないよ! でも送らないけど書いてみたいかも。」


「この手紙、このまま送っていいんじゃないかな。きっと喜んでくれるよ」


「何で半笑いなの?」


「いやあ、読むの大変だろうなってのと、内容大丈夫かなって思って」


「確認してくれるんじゃなかったの?」


「こんな熱い想いは本人じゃないと読めないって。このまま送るといいよ」


「大丈夫かなあ」


「喜んでくれるよ。きっと」



 エリの大好きな覆面レスラーの正体が佐伯君だってわかるのは、これから何年も先の話。



 おわり




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