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No Name Heroes!  作者: ジューマル
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第一戦「二つが刃」


 満月が照らす闇夜の下、人々が賑わう大都会がある。華やかな街並み、多様な人たち、そして大きく聳え立つビル群。この世界の代表ともいえるこの景観。人間の歩んだ道のりの結晶と言えるものである。

 そんな都会の中、一つ、目立つ存在がいる。街並みを往く人の波の中で頭一つ抜けた身長とカーキ色のコートを着てベレー帽をかぶった男性がいた。

 彼は人通りの少ない大通りの脇道にいた。右手を赤色にし、黄色い瞳で冷たい視線を地面に向けていた。

 そこには人がいた。無数の引き裂かれたような傷を持ち、倒れ伏している男がいた。そして地面を赤く染めていた。

 ベレー帽の男は赤く染まった右腕を振るい、血を払う。血がほぼとれたことを確認するとそのまま歩き去っていった。

 

「おい」

 ベレー帽の男は後ろから突然声をかけられた。男は一瞬止まった後、振り返った。

 そこには灰色のロングコートを着用し、垂直に切れ込みの入った黒い鞘(さや)に納められた赤い柄の刀を背負う、黒髪の男がいた。

「……一体何の用だ?」

 ベレー帽の男が帽子を深く被り直して問う。

「先ほど血塗れで倒れている男を発見した。何か心当たりはあるか?」

 ロングコートの男は近づきながら質問をする。

「……知らないな」

 ベレー帽の男がそばまで近づいたロングコートの男に対して答える。

「そうか……」

 ロングコートの男はそう呟いた。

 次の瞬間、ロングコートの男はベレー帽の男の右腕を掴み上げる。

「じゃあ、この爪(・)先(・)に(・)付(・)着(・)し(・)た(・)血(・)は、どう説明する?」

 ロングコートの男の問に対して、ベレー帽の男は空いていた左手を突き出すことで答える。

 それをロングコートの男は後ろに飛び退いて回避する。

「やっぱりな……その瞳、お前『人狼』だろ?」

 ロングコートの男を見据えるベレー帽の男の瞳は黄色く輝いていた。

「何故ばれた……血はほとんど振り払っておいたのだが……」

「慢心したな。俺たちの観察眼を甘く見すぎていたな」

 ベレー帽の男の呟きに対して、ロングコートの男は答える。

 ロングコートの男が右手を背中の刀の柄に近づける。

「お前たちを生かしておく訳にはいかない。ここで息の根を止めてもらう」

 背中の刀を抜刀し、ロングコートの男は宣言する。

 それに応答するようにベレー帽の男改め人狼は腰を落として、左手を前に、右手を腰の横に添えるように構える。

 一瞬の静寂。

 次の瞬間、人狼は仕掛けた。

 距離を詰め、爪を立てるように構えた右手を前に突き出す。

 ロングコートの男は左手でその突きを逸らし、刀を突き出し刺突を行う。

 それを人狼は右足を軸に半身ずらすことでかわす。

 半身をずらしたことによる流れに身を乗せ、人狼は左の拳で裏拳を叩き込む

 ロングコートの男は左腕で一瞬受け止め、歯車の噛み合いのように身体を回し、受け流す。

 再び向き合う瞬間に右手の刀を回転に合わせ振るう。

 人狼は後方へ上半身を逸らして躱す。そのまま後転し、最初の構えをとる。

 今度はロングコートの男が距離を詰める。右手に持った刀を地面に垂直になるように上から下へ振り下ろす。

 人狼はその攻撃を右腕で受け止める。刃が少し食い込むが、血は出ていない。

 右腕を振り上げ、刀を弾く。間を開けず左手を突き出す。

 刀を弾かれたロングコートの男はその勢いを殺さず、身体をひねり下から上へ刀を振り上げることで左手の突きを相殺する。

 刀によって左の突きを打ち消された人狼はすぐに体勢を整えると、彼らを挟む壁の内右側の壁へ跳び、壁を蹴ってロングコートの男を襲う。

 ロングコートの男は右腕を引いて左手を刀の柄に添える構えをとる。壁を使って襲い掛かってきた人狼に対して、刀を両手で持ち地面に水平になるように振るう。突撃してきた人狼は回避することが出来ずに刀を打ち付けられる。

 ロングコートの男はそのまま刀を振り切り、人狼を弾き飛ばす。地面にぶつかる瞬間、人狼は四肢を使って受け身を取る。服は切れていたが、肌に切り傷はない。

 人狼は受け身の体勢からロングコートの男に向かって飛び跳ねた。右の手を突き出して襲い掛かる。

 ロングコートの男は身体を横に倒しながら身体を捻ることで人狼の突貫を受け流す。

 人狼はその勢いのまま右側の壁に着き、すかさず左の壁に飛び移り壁を蹴って再び襲う。

 ロングコートの男は体勢を整えた後すぐに右足を軸に体を半身ずらすことで躱す。

 着地した人狼は立ち上がるとともに懐に潜り込み、アッパーカットを決めるように左手を突き出す。

 ロングコートの男は右手に持つ刀の柄を人狼の左腕に叩き込むことで軌道を彼から見て左側へとずらす。

 そして空いている左手で人狼のあごをしたから突き上げた。

 顔を打ち上げられよろめく人狼。これによってできた隙を逃さず、ロングコートの男は右手の刀で胴体を下から上へと切り付けた。

 しかし傷は浅い。大した出血にもならず皮膚だけを裂いたような結果だった。

 人狼は飛び退いて距離を置く。一度自身の傷を見て度合いを確認する。

 両者が再び相対すると、人狼は突然両側の壁を跳び蹴り続け上昇し、屋上を目指す。

「待て!」

 ロングコートの男は叫んだ。しかし人狼は静止することなく屋上へと駆け上がっていく。

 人狼は両壁の内の右側の屋上に上がった。

 男は周囲を見渡した。追いかけるための道のりを探していた。

 両の壁の所々には配管が張り巡らされていた。太さもまちまちだが、手足を引っ掛けることが可能なものもあった。

 男は刀を背中の鞘に納め、両手を地面に付けるように身を屈める。

 全身のバネを使って跳び、手ごろな配管に手足を乗せて足場にし、屋上へと昇っていく。

 

 屋上に上がったロングコートの男はカーキ色のコートを脱いだ人狼を見つけた。

「逃げても無駄だ」

 ロングコートの男は刀を抜き、構えながら宣言する。

 それに対して人狼は笑っていた。

「逃げる? 違うな……お前を倒す術を手に入れるための移動だよ……」

 人狼は夜空を見上げる。空には満月が輝いていた。

「……まさか!」

「ああ、そのまさかだ!」

 その言葉の後、人狼の上半身は一回り肥大化した。

 それだけではない。脚も先ほどよりも太くなり、ズボンがパンパンになるほど、強靭な脚となり、上に着用していたTシャツは所々破けていた。

 全身が黒色の体毛に覆われ、顔も毛に覆われるとともに狼の形に変形していく。

 両手の爪が伸び、牙が鋭くなり、大きな尾が姿を現す。

 まさに人狼と呼べる格好に変貌した。

「……もう、止められないぞ……!」

 月のように輝く黄色の瞳がロングコートの男を睨みつけた。


 変化した人狼がロングコートの男に突貫する。男は間合いを見計らい、刀を縦に振り下ろす。

 しかし、人狼は斬られる直前に急停止し、男の左側へと回り込む。そして右手で掌底を繰り出した。

 男は振り下ろした刀を振り向きながら上へと振り上げ、迎撃を行う。

 刀と拳がぶつかり拳の軌道がずれるものの、掌底が男の左頬を掠め、身体を吹き飛ばす。

「っ!」

 すぐに体勢を整えた男は両手で刀を持ちながら腰を落として警戒する。人狼は身体を一往復ほど左右に揺らした後、残像が見える速さで左に動いた。

 男はすぐに自身の右側を見た。人狼が爪を立て、左拳を下からすくい上げるように振るうのが見えた。

 後ろに飛び退く。直後風切り音が聞こえ、男の前髪を揺らした。

 次の瞬間、右手による裏拳が飛んできた。

 男は左手で攻撃を弾く。間髪入れずに右脚の上段回し蹴りが来る。左腕でそれを防ぐ。

 左脚による垂直な振り下ろしが放たれる。左足を軸とした半身ずらしで躱す。

 翻って放たれる右足のスタンプ。左回りに身体を捻り受け流す。

 前に突き出た右足で床に踏み込んでエルボー。身体を屈めて回避する。

 男は捻った時の回転を利用して屈んだ状態から右脚で足払いを行う。

 跳んで躱される。人狼は宙で前転し、左脚でかかと落としを繰り出す。足払いの勢いのまま素早く立ち上がり、回りながら左側へと足を運び、かかと落としをかわす。

 繰り出されたかかと落としは床を叩き、ヒビを入れる。

 男は刀を両手で構え、左斜め上から振り下ろす。後ろに下がって躱される。

 一歩踏み込み下から上へと刀を振り上げる。右腕で防がれる。

 人狼の左手の掌底が飛んでくる。右回りに回転していなし、そのまま水平に振るう。

 先ほどよりも食い込みながらも、それも右腕で防がれる。そして弾かれる。

 弾かれた勢いのまま男は後ろに下がる。人狼は右手を突き出して追撃する。

 男は上体を逸らし、拳を躱す。そして右足を回し蹴り気味に振り上げる。

 それは左腕に阻まれた。脚が下がったところを掴まれる。

 そして腕の筋力にモノを言わせ人狼は後方へと男を投げ飛ばした。

 男は床を転がっていきながら叩きつけられる。投げ飛ばされた時に刀を手放してしまった。

 人狼は近くに転がった男の刀を拾い上げる。ゆっくりと男に近付いていく。

 男は打ちどころが悪かったのか、すぐには立ち上がることが出来ていなかった。

 身体を起き上がられた男の目の前には人狼が立っていた。

「これで終わりだ」

 男に近付いた人狼は手にした刀を振り上げた。

 男は鞘の先に左手を伸ばす。


「お前がな」

 人狼が刀を振り下ろす瞬間、鞘の先を掴み、抜(・)刀(・)した。

 左手に黒い柄の鍔(つば)なしの刀を持ち、刀を持っていた人狼の右腕に斬り付けた。

 一瞬の引っ掛かりの後、人狼の右腕は切断された。

「あがぁあああ!?」

 今まで感じたことのない痛みを受けた人狼は思わず後ずさる。

 男は立ち上がり、切断されたと同時に放された刀を右手に持ち、構える。

 右手には赤い柄の刀を持ち、顔の高さまで持ち上げており、左手には黒い柄の鍔なしの刀を逆手に持ち、太ももの高さにくるように前に突き出した構えをとっていた。

 人狼は切断面を左手で抑えながら、睨む。

「貴様ぁあ!」

 人狼は急接近し左手を突き出した。男はそれを右の刀で受け、流す。同時に左の刀を人狼の顔面に叩きこむ。人狼は弾かれるように飛んだ。

 皮膚が切れただけで済んだ人狼はすぐに着地し、再び近づく。右足で突き出すように蹴る。

 しかし右の刀でまたも受けられ、流れるように切り裂きながら回転して躱される。さらに受け流した勢いに身を任せ、一回転して右脚にできた傷口を斬り付ける。

 二度も斬撃を受けた脚は血を流し、ズボンを汚す。

 痛みをこらえながら斬られた右腕を突き出して抵抗する。

 その攻撃を右の刀で受け流し、いなしきる前に右手を振るって切り傷を作る。間髪入れず左の刀で斬り上げて、さらに人狼の右腕を断つ。

「ぐおぉぉお!」

 右の前腕部がほぼなくなった人狼は苦痛を顔に表しながら左脚で男の顔を狙う。

 しかし、男はそれを屈み、かつ右手の刀でいなすように躱し、左脚が頭上を通り抜ける間に両手の刀で数回切り裂く。左脚から血が噴出した。

 男は刀を振るい血を払う。そして再び構えをとる。

 人狼は傷ついた脚を震わしながらも左腕を前に出した構えをとる。

 息を荒げる人狼、静かに呼吸する男。

「おおおぉぉ!」

 荒げた声を発し、人狼は男に接近する。血濡れの右脚を繰り出し、男の左の脇腹を狙う。

 それを左手の刀の刃の側面で受け、弾く。弾く動作と同時に右手の刀を振るい、人狼の首を狙う。

 人狼は顔を逸らして躱す。その後身体を捻り、後ろ回し蹴りの要領で右足を突き出す。

 男は刀を振るった勢いのまま一回転し、左の刀を人狼の蹴りに合わせて突き出す。

 人狼の右脚を左の刀が貫く。

 そしてそのまま刀を振り下ろし、右脚を裂く。

「ぁぁぁああああ!!」

 途方もない痛みに顔をゆがめ、二つに分かれかねないほどの切れ込みができた右脚を引きずりながら一歩一歩後退していく人狼。

 付いた血を払い、左右ともに順手で刀を持った男がゆっくりと進攻する。

 男は左の刀を振るい、人狼の胸板を切る。皮膚が切れただけだ。

 次いで右の刀を振るう。胸部切り裂き、血を流れさせる。

 また左の刀を振るう。人狼の左腕に弾かれる。

 右の刀を二度振るう。一撃目は左腕に遮られるが、二撃目は防がれず、胴を切る。

 右、左、右、右、左、右、左、左、左、右……絶えず放たれる斬撃が人狼を襲う。

 残っている左腕で防ぐが全てを防ぐことはできず、その身に傷を作られていき、紅く染まっていく。左腕も当然傷つき、紅くなる。

 右手の刀の一撃が人狼に迫る。左腕をもって逸らさんとするが、限界が訪れた。

 右手の斬撃が、人狼の左腕を切り離したのだ。

 声にならない声を上げる人狼。もう彼に攻撃を防ぐ手段はない。

 左の刀の斬撃が、心の臓への道を切り開く。

 右手の刀が心の臓を穿(うが)いた。

 震えていた両脚が折れ曲がり、人形のように脱力した。

 

 人狼は死んだ。

 男は突き刺した刀を引く。鮮血とともに抜けた。

 数回刀を振るい、血を払い状態を確かめる。特に目立った損傷は見られない。

 男は左手の刀を逆手に持ち、鞘の下側に持っていき、右手の刀を鞘の上側に運んでいく。

 刃を鞘に通し、納刀する。息を吐き、強張った身体を解く。

 すると、コツコツと足音が聞こえてきた

「終わったぞ」

 いつの間にか来ていた別のロングコートの男に対して灰色のロングコートの男は答えた。

「そうか」

 黒色のロングコートの男は静かに呟く。

「他の奴らはどうだった?」

「問題はない」

「そうか」

 灰色の男と黒色の男はお互いに答えながら残された死体を回収する。

 飛び散った血もふき取り、痕跡を消していく。

 回収し終えた男たちはその場を離れていった。


 これは世界の裏に潜む人に化ける狼とその狼を狩る戦士の世界の話。


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