プロローグ
三度の飯より可愛い女の子が好き。
それが比喩でも何でもなく言葉通りな私が恋したのは、乙女ゲームのキャラクターだった。
「綺麗な顔だなぁ……」
正統派王子、クールな騎士団長、チャラい従者……そんな如何にも「女の子こういうの好きでしょ?」感満載なキャラがいる中で、一際私を惹きつける人がいたの。
雪のような肌に、月明かりに輝く白銀の髪。強い意志を秘めた緋色の瞳は見ているだけで吸い込まれてしまいそうで、憂いを帯びた表情も仄かに蒸気した頬も、胸の高鳴りを加速させるには充分だった。
「私……この人に会う為に生まれて来たんだ」
私がそんな考えに至ってしまうのも、要は一目惚れというもので、厄介なことにこれが初めての恋だった私は高校の入学式前夜まで夜更かししては、その子に会いにゲーム三昧の日々を送った。
だけど、ツケはいつかはその身に降りかかってくる。
入学式当日、私は例の如く寝坊して歩道橋の階段を二段飛ばしで駆け上がった。
初日から遅刻はまずいという思いと、運動神経だけは良いという自負があったからだと思う。だから私はそれが危ない事だってすっかり忘れて、猿の様になって階段を上がっていった。
「はぁ、は……っ…もーちょい…!」
流れる汗も無視して軽快な足音を立てながら、橋まで残るはあと数段……そう思ったのが間違いだった。
「……………え」
寝不足の私の体は階段を蹴った瞬間、ぐらりとバランスを崩して——そのまま真っ逆さまに落下した。
「え……えぇぇぇええええ!!?」
ゴ……ッ!!
視界が霞む。後頭部が熱を持った様に熱い。
ざわざわと次第に集まる野次馬がやけに耳障りで、遠くから聞こえるサイレンの音を聞きながら私は願った。
「…来世こそはあの子と一緒になれますように」
薄れゆく意識の中、まだクリアしていない初恋の人を思い浮かべながらその名を口にした。
「エルフリーデ・フィン・エストラル…」
乙女ゲームの主人公にして美少女。
私の想い人であり——来世の自分の名を。