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009:誰にも言えないけどな?

良いですね。

悪口としての「無属性の悪魔」。

設定に齟齬が出ない程度の備忘録というか、殴り書きというか、そういう物に記述があったので、使いました。

 「認識の違いをすり合わせる目的で話すが、お前ら、俺達が戦ったら、その時、報酬に何を出すつもりだった?」


 「報酬が必要なのですか?冒険者の方々は”素材と討伐部位を全部”で引き受けてくれますが?」


 「馬鹿だろ、お前?

 俺達は”神様によって使わされた無償労働に慶びを見いだす人”じゃないぞ?

 労働には対価、契約には利益が無ければ動かない。

 ”素材や討伐部位”ってのは労働の対価で、”依頼の報酬”は契約扱いで別枠だ。」


ジーンの顔に、”そんな馬鹿な”という驚きの表情が見て取れた。


 「そもそも”この国の武力の底上げ”ってのは、つまりは”冒険者の増員”じゃなくて”傭兵の雇用”だろうが?

 お前らが俺達に”力をかして欲しい”なら、毎回”依頼の報酬”は必須だ。

 報酬無しの場合、少なくとも俺だけなら断る。」


俺の方は、多分この国では一般的では無い、それも原始的な”経済”を語る。


 「それとも、お前の国の傭兵は、喜んでただ働きをする馬鹿しか居ないのか?

 傭兵に限らず、国が常備している軍事力、つまり国軍の兵士には給料を払っているだろう?

 この国は”巫女”も”王”も含めて、神への依存度が高すぎる。

 よく考えろ。

 お前達と俺達は”都度報酬を準備してお願いする側”と”断る自由を持った上で、自分の判断で力を貸す側”という関係だ。」


ジーンの表情は、見ていられないレベルで歪む。

俺の言い草が気に入らないのか、この世界の常識ではあり得ないのか、とりあえず予想外の指摘を食らった人の顔だ。


 「ちょっと考えてみろ?

 三ヶ月間の出立というか独立というか、この場から叩き出される訳だが、

 それは単に、この世界では”召喚”と呼んでいる相手に”3ヶ月も”施しているつもりかもしれない。」


お?

なんかちょっと偉そうな雰囲気が復活したな。

だが、たたき折ってやる。


 「しかし”召喚”された”召喚者”側から見れば、自分の意志とは全く無関係な”期間不明の誘拐被害者”な俺達に対して、”僅かに出来る償い”程度の価値だ。

 そもそもの認識違いが原因とは言え、バランスがおかしいんだよ。

 お前自身が、突然、見ず知らずの世界に”召喚”されて、”世界の為に無償で命がけで戦え”とか”この世界にお前が祀る神は存在しない”と言われて、理不尽さを感じないか?

 本当なら、戦闘も訓練も何も無しで、惰眠を貪られて、それでもお前らが俺達を”帰還”まで保護しても良い位の話だと覚えておけ。」


流れで、”お互いの認識の違い”を指摘する。

”この世界にお前の祀る神は存在しない”辺りで、魂が抜けたような顔をしやがったよ。

俺は典型的日本人なので、神が八百万居ても、逆に居なくても驚かん。


 「俺達が居た世界では、”働かざる者食うべからず”という言葉はあっても、”戦わざる者食うべからず”という言葉は無い。

 つまり、”商人になる”でも”飲食店を開く”でも”運び屋をやる”でも、働いて金さえ稼げれば批難されない。

 そして、国家が行う個人に対する自由の制限は罪が重い。

 個人の自由を対価も無く制限するという事は、”1人に対して国家予算の1/1000の金品を支払うレベルの犯罪”だと記憶しておけ。

 俺達からすれば、王も含めたお前ら全員、俺達の自由を制限している加害者なんだよ。」


金額辺りでちょっと顔が引きつった。そりゃ100人も居たら国家予算の1割持って行かれるのには驚くだろう。

まあ、”人の命が安い世界”じゃ納得いかないだろうが、こちらにはこちらの価値観が有る。

お前らが”お前らの事情”に巻き込むなら、”俺達の常識”も織り込むべきだろう。


 「さて、この前提で、”召喚”後、三ヶ月でここを出る事は確定だとして、出た後の俺が”無償”で魔獣と戦うと思うか?」


ジーンの顔からは、絶望が感じられ始めた。


 「先に言っておくが、どんな招集を掛けても、”報酬の先払いか、誰か信用出来る相手の手形”でも無い限り、

 この国の人間が何人死のうが放置するぞ。守ったところで、俺個人には何の得にもならないからな。」


ジーンは、自分の驕りに気付いた。

尋問官の頭を躊躇無く破壊したタクトにとっては、”この国の人間の命は軽い”のだと、嫌でも気付くだろうが。


 「・・・私は、いや、私達は間違っていたのでしょうか?」


 「そもそも俺の不満の原因は、”お前らが俺に礼を尽くしていない事”なんだよ。

 この場合の”礼”ってのは、少なくとも貴族、最高なら王と同等として接する事だ。

 名前には敬称を付けるのは当然。

 ”他の世界からの誘拐被害者”に対して、対価が”衣食住3ヶ月”で”呼び捨てという失礼”が通じる分けねえだろ?」


 「報酬は”召喚者”全員にですか?」


 「報酬は俺達のパーティ以外も、自力で俺と同じように”交渉”して勝ち取るべきだろう?

 だから”俺のパーティ以外”は対象外で構わない。進んで無償で死にたい奴は、勝手に死ねばいい。

 ただし、”交渉”と銘打って”今回みたいな不始末”や”人質”とか色々やってみろ?

 俺の耳に入ったら、主犯以下、関係者全員と一族郎党皆殺しだ。

 ”回復”も”蘇生”も出来ないように、死体を残さない方法で、必ず殺す。

 貴族なら、”家名が途絶えるまで”殺す。」


 「調整は必要ですが、私の権限で、”敬称付けの徹底”は可能です。」


 「それは良かったな?

 それから、今回の”俺に一服盛って誘拐した”件の罰として、俺のパーティの各個人全員に、必ず1人以上の護衛を付けろ。

 方法は問わん。”制約”で縛っても構わんが、俺にはこの尋問官、トシには後ろの護衛の強い方。

 逆らったら、今度は意識があるまま解体してから”回復”を、何回かやれば懲りるか狂うだろう。

 残りの女性陣には女性の腕利きを、同じ条件で付けろ。

 実際は護衛業務じゃ無く、見せしめと下働き、噂の拡散が目的だ。

 ”俺達のパーティに手を出すと物理的に地獄を見る”という噂が広がれば完璧だ。」


 「タクト様のパーティは男性三人と女性二人を聞いていますが?」


 「ああ、マサミちゃんは”心は女性”だから、護衛は女性で決定。質問は一切受け付けない。」


性同一性障害の説明とか、俺には出来ない。

ゴメン。マサミちゃん。

おじさん、自分がよく知らない事で、強く出るのはこの辺で限界だ。


 「次に活動内容なんだが、多少の情報は流してやる。」


 「一気に寛大になりましたね。」


・・・さて”誓約”を試すとするか。


 「今ここに、俺”高柳拓人”が、汝”ジーン・オーブ”に対し、”誓約”の元に命令を与える。

 ”俺達のパーティ固有情報の開示の一切を禁じ、何らかの方法で漏洩が発覚した場合、罰則を与える”。」


俺とジーンの頭が、数秒発光した。

”誓約”による”絶対服従”が発動したのだろう。


 「俺は別に寛大な訳じゃ無い。情報漏洩の元栓を閉める算段が付いたから、元栓を閉めただけだ。

 これ以降、ジーンは俺達の共犯者で部下、つまり”準パーティメンバー”として扱う。

 だから、情報は開示するが、他言は無用だ。解ったな?」


 「・・・悪魔が居たようです。」


 「そうか?当然の手段だろう?」


 「私は今、”パーティの奴隷になれ”と言われた気分です。」


 「その憎まれ口を禁止していない時点で、俺には最低限度しか”誓約”を使う意志は無い、と気付けよ。」


 「・・・確かに、その点は納得出来ます・・・が、それは何故ですか?」


 「第一の理由は”面倒だから”だ。

 俺の国には”ポジティブリスト”と”ネガティブリスト”という考え方がある。

 ザックリ説明すると、”ポジティブリスト”ってのは、”全てを禁止して”から”実行して良い事だけをリスト化する”事を言う。

 逆に”ネガティブリスト”ってのは、”全てを自由にして”から”禁止事項だけをリスト化する”事を言う。

 この場合の”リスト”ってのは”項目”そのものだな。」


主旨の前提説明はこんな物だろう。


 「俺は今回の”誓約”でネガティブリストを採用する事にした。

 ポジティブリストは面倒だ。強力に掛けると、食事、睡眠、立つ、座る、排泄まで命令無しでは不可能だ。但し、俺の安全は安定する。

 逆にネガティブリストは、禁止事項にさえ触れなければ、ジーンは以前と変わらない生活が出来る。但し、俺の安全は不安定だが、放置出来る分、楽だ。

 どうだ、俺が楽だし、ジーンの都合も良いだろう?」


 「そうですね。”明確に出来ない事”以外は”全て出来る”方が良いと私も思います。」


そりゃ、自由の範疇が広い方が良かろうよ。

論理だけなら”制限されない”という、手っ取り早く”俺を始末する”選択も出来るが、俺が行った躊躇のない暴力が、”俺に向かう暴力”に対する抑止力になっている。

これが本来の”抑止力”だ。

俺は既に、二度の誘拐被害者という大義名分を得ている。ならば、実力行使を躊躇しない。

何故なら、大義名分が有る以上、ここで振るう暴力は”言い訳出来る暴力”だからだし、ここで行使しなければ”何をやっても大丈夫”という誤ったメッセージを、相手が勝手に受け取る。

だからこそ、俺は躊躇しなかった。

ここは”俺から見てこの世界の人間の命は軽い”と、正しく認識してもらうしかない。


この後、騎士団辺りから難癖を付けられようと、俺自信とジーンがタッグを組んで阻む予定だ。

異世界転移物で、”奴隷を入手する流れ”が出てくる理由がよく解る。

今回の”誓約”は、”奴隷契約”じゃないからな?

中身は”奴隷の方がマシ”かも知れんが、墓穴を掘った方が悪い。


 「第二の理由は”バレにくい”からだ。

 明日から、突然、俺達のパーティに全面的に従いだしたら、第三者からは怪しすぎる。

 だから、明日からも第三者から疑われない状態で生活しろ。」


 「承りました。ところで呼び方はどうしましょう?」


 「当面タクトさんで構わんが、なんか適当な理由を付けて、”召喚者”全員に”さん付け”で呼ぶように誘導しろ。

 理由は単純だ。

 俺が言った通り、”召喚者”はこの世界に対する責任が無い以上、”戦わない事”を選択するかも知れない。

 そうならないように、最低限の敬意を払う意味で、”さん付け”を広めろ。

 言っておくが、俺程極端じゃ無いにせよ、同じ系統の考えを持つ者は居ると思うぞ?」


 「そこなのですが、実は初日の説明の時、強力な物ではありませんが”魅了”が使用されていました。

 つまり、タクトさん以外の方々は、私に”魅了”されているはずです。」


 「あー。それ、俺のパーティ除外で。」


 「やはり?」


 「そりゃ、自分のパーティメンバー全員に、当時は正体不明の、常駐型魔法が掛かってたら解除するだろ?

 俺はてっきり、俺達を疎んじている他のパーティの嫌がらせで、”デバフ系”だと思ってだんだが、

 あれは、”ジーンに魅了されている”という”状態異常”だったのか。」


 「申し訳ありません。あの場で問題が発生しないようにする事が目的だったのですが、解除していませんでした。」


 「まあ、特に俺達に不利益は無いし、それはそのままでも構わんが・・・責任は取れよ?

 逆に責任を取りたくないなら、コッソリで良いから解除しろ、全員。」


 「申し訳ありません。どちらとも、この場で断言は出来ません。

 ・・・確かに、タクトさんとタクトさんのパーティに不利益が無いなら、自分の意見が通せるようですね。」


なんか”誓約”の隙間を見つけて喜んでるな?

ニヤついた顔にイラッとしたので、ちょっと地雷の裏に罠貼って放り込んでやる。

基本的にコイツ、無防備というか、真っ直ぐ馬鹿だから掛かる気がする。


 「ところで、何で俺には”魅了”が掛からなかったんだよ?」


 「タクトさんはあの時、”ギフト”すら自由に出来ないくらい”世界から外れていた”為だと思います。

 道端の石ころに”魅了”が効かない感じで。」


一言多い。そこが罠だ馬鹿者。


 「ナチュラルに失礼な奴だな。

 ”排泄の間隔は最短4時間”とかネガティブリストに放り込むぞ?

 ちなみに排泄その物を禁じた場合、”漏らす”事すら出来ずに、内臓が破裂するからな?」


 「タクトさんの中の人は、絶対に悪魔ですよね?」


 「”中の人”とかモロに以前の”召喚者”が文化侵略してるな!

 元はジーンが”俺を石ころ扱い”するからだろうが!」


 「”翻訳”の不具合じゃないですか?」


 「あー、もういい。次の話に行くぞ。

 ”魅了”と”誓約”が使える事は解った。

 それじゃ、”回復”と”蘇生”は、どの程度まで使える?」


 「魔力が許す限り、重要器官の部位欠損まで”回復”出来ます。

 ”蘇生”も使えますが、部位欠損を含めると膨大な魔力量が必要です。

 ”重要部位欠損者の蘇生”となると、蘇生は明日以降か、ポーションによる魔力回復が必須だと思います。」


 「よし、それじゃ、まず、あそこで死んでる審問官を”回復”しろ。

 その後に”蘇生”だ。」


 「何故そのような二度手間を?」


 「・・・面白い者を見せてやる。”ウェイクアップ”」


俺の目の前に、半透明の”疑似PC”一式が現れる。


 「これは、タクト様の”ギフト”ですか?」


まあ、これも含めて、”俺の謎能力を知る事がジーンの目的”だったのだから、興味が向くのも無理は無い。


 「正確には”ギフト”を活用して作った”ギフトもどき”だ。

 俺は、他人が行使した”属性ライブラリ”の魔法を記録し、解析し、制限はあるが”無属性ライブラリ”として作り直す事が出来る。

 これは、俺が自由に使えない”ギフト”や”魔法”を使用出来るようにする為の道具だ。

 道具その物は、”タブレット”と”ヴィルト式”のハイブリッドで、作った魔法は”ギフト”として扱える。」


 「魔法が全て”ギフト”扱い・・・これが、タクトさんの持つ秘密。

 この”属性ライブラリ遮断フィールド”が効かない理由はこれだったのですね?」


 「他の人より不自由過ぎたから、足りない分を補う方法を模索した結果だ。

 便利なように見えるかも知れないが、再現した魔法は、大体、元にした魔法に劣る。

 それに、まず誰かが”属性ライブラリ”の魔法を使っているところを解析してから、自分が使えるように改造する手間がかかる。

 さらに、魔法によっては動作試験で”死んだ方がマシ”と思えるようなダメージを引き起こす可能性も有る。

 間違っても万能じゃ無い。

 やっぱりこの変なトシの”壁”っぽい奴、”属性ライブラリ”へのアクセスを遮断する物だったか。

 ”誓約”が発動するのは”紙”に”属性ライブラリ”が記述済みだったからだろう?」


”物理的な動作”も再現出来る事は、とりあえず”嘘は言っていないが事実が足りない”という方向で隠しておこう。

もうちょっと、動作パターンと自由度を増やしてからでも、多分、誰も困らない。


 「今、起動された理由は?」


 「ジーンの”部位欠損”を治せる”回復”と、”蘇生”を解析しようと思ったからだ。

 ああ、流派は何でも構わんぞ。

 少なくとも、俺のパーティのメンバーが使う”属性ライブラリ”は、何かしらで解析した実績が有る。

 同じ流派でも結果に個人差があるなら、その解析情報も有れば意味が有る。

 確か、残りは”ヘルスバーグ式”と”バッカス式”と”ダイクストラ式”だな。」

 

 「私は”ヘルスバーグ式”なのですが、大丈夫ですか?」


 「”解析”に時間がかかるだけだ。気にするな。」


 「それで、始めの質問に戻りますが、何故”回復”の後に”蘇生”を行うのでしょうか?」


 「理由は二つ。

 一つ目は、部位欠損した人間を直接”蘇生”するのは、”回復”してから”蘇生”するよりも魔力の消費が大きくなるからだ。失敗の確率も上がる。

 結論として、”回復”してから”蘇生”する方が、魔力の効率が良い。

 二つ目は、蘇生された側の問題なんだが、先に”蘇生”してから部位欠損を”回復”すると、欠損していた部位がしばらく動かせなくなる。

 多分、”蘇生”された事で、”部位欠損”状態が一回固定され、重ねた”回復”では上手く神経が繋がらなくなるからだと思う。

 要は欠損した部位の再生に慣れるまで時間がかかる。」


 「そこまで詳しく”解析”されているのですか?」


 「いや、”疑似PC”の中にシミュレータという機能があって、本来は”合体魔法”っぽい物を作ろうと思ったんだけど、

 ”どちらの魔法を先にした方が効果が大きくなるか?”という条件でシミュレートした時に、

 ”回復”と”蘇生”では、少なくとも”カーニハン式”でも”ストロヴストルップ式”でも”ヴィルト式”でも、

 同じ傾向が数値的に確認出来た。そういう実験結果が既に有る。

 ついでに、俺が知る限り、”ヘルスバーグ式”の原型の多くは”カーニハン式”だ。」


この時ジーンは、タクトの発想力と実行力に恐怖を感じた。


他人を参考にするとはいえ、”自分用に魔法を作る?”

さりげなく出てきた”合体魔法?”

しかもそれを、実際に行使するのでは無く、”ギフト”の中である程度”試す事が出来る?”

非常識にも程がある。

タクトの奇妙な程の自信と、”毎日百人殺し宣言”の根拠はこれだ。

だが、恐怖する前に、すべき事が有る。

ジーンは尋問官の胴体部を中心に、右腕、右脚、左脚を接合面に注意しながら配置する。


 「それじゃ始めます。”回復”」


タクトは死体を直接見ず、”疑似PC”の”解析”の”記録動画”を見ている。

尋問官の消滅した首、同じく消滅した左腕が、胴体から生えつつ、切断された四肢が結合していく。

当然だが、まだこれは”五体満足”だが”死体”である。


 「ちょっと待った。この腕輪をジーンが付けろ。左右どちらでも構わんが、

 なるべく肩の近く、腕の付け根に近い位置まで持っていけ。

 それから”蘇生”を頼む。」


タクトの意はよく解らないが、相手は絶対服従対象。否は無い。


 「付けました。それじゃ行きます。”蘇生”」


ジーンの身に、得体が知れない現象が発生した。

”蘇生”は、現在のジーンの魔力残量でギリギリの筈だ。

”蘇生”は発動している。

しかし、魔力の消費量が”回復”と変わらないくらいに小さい。


 「変な顔するな。

 その腕輪の、”魔力消費量軽減”と”俺からの魔力供給”が違和感の正体だ。

 永続エンチャント状態の”魔力消費量軽減”は、魔法構築時の魔力消費が無くなる為、素で使うよりも魔力消費量が小さくなる。

 全力で”蘇生”しても、何も問題は無い。」


問題なら有る。

まず、タクトには”エンチャント”も使えるらしい。これだけアレコレ手を出して、あの強さはバランスがおかしい。

しかも”魔力消費量低減”は、”バッカス式”が有名で、他の流派にも存在はするが、あまり使用されない。

何故なら”魔力消費量低減”自体で魔力を消費するので、中規模以上の魔法を少人数で分担して行使する場合を除いて、

”魔力消費量低減”を行わず、そのまま魔法を行使した方が総消費魔力量は小さくなる傾向があるからだ。

”バッカス式”が”魔力消費量低減”で有名な理由は、”バッカス式”自体が、多人数で中規模以上の魔法を使用する事が設計思想だからに過ぎない。


”蘇生”は確かに大魔法に分類されるが、”魔力消費量低減”と釣り合うかは不明だ。

一応、”巫女”のような神職系では、一般人よりも消費量が小さくなるが、それでも釣り合いがどうなっているのか解らない。

さらに”俺からの魔力供給”とは何事か?

それに、この”汲めども尽きない感じの、膨大な魔力量”の感覚はおかしい。


 「”解析”以前に、自分自身を色々調べた時に見えたんだが、

 俺の”疑似PC”で数値化すると、普通は4桁位が魔力の保持力というか、所謂”魔力量”なんだが、

 俺には3000桁位の魔力量があるみたいなんだよ。」


タクトは、自慢話な流れに、ちょっと恥ずかしげに話す。


 「試験名目で、1日に数十回、いろんな魔法を使っていたら、

 パーティ内でも”あの魔力量は何だ?”って事になって調べたら、俺には”一人で城下町に住む人々全員分より多い魔力量がある”らしい。

 でも、”一度に行使出来る魔力の出力はパーティ内で最低”なんだよな。

 正確な数字は面倒なんで知らん。」


異常だ。

例えば、火属性の最低レベル攻撃魔法、所謂「ファイヤーボール」を、「パーティ内で最低」の威力で放つとする。ここまでなら正常の範疇だ。

しかし、タクトの動作や魔法行使の速度は速いし、エンチャントで予め構築式が準備されていた場合も考えると、彼はその”パーティ内で最低威力のファイヤーボール”を”連続”もしくは”同時”に行使出来る可能性がある。

”威力が1/10なら、もの凄く速い10連射か同時に10発撃てば良い”という酒場の冗談のような行為が可能なら、”ファイヤーストームを操る魔法使い”を、”100発以上のファイヤーボールで撃破可能な無属性魔法使い”という、”一人で行う数の暴力”が成立してしまう。

バランスという点で、世界が崩れる。


 「終わったみたいだぞ?」


タクトの指摘にジーンが気付くと、”蘇生”は成功し、尋問官は息を吹き返していた。


 「聴いても良いですか?」


 「今は駄目だな。他の連中も気付きそうだ。

 そうだ、顔面にダメージがあるから、回復してやってくれ。

 今日のところは、俺はこのまま部屋に戻って寝る。

 明日の夜、というか、もう日を跨いでそうだから次の夜、

 晩飯が終わって、パーティ毎に時間を使えるタイミングで、

 今度は誰も連れずに、俺達のパーティが集まる個室、

 まあ、俺の部屋なんだが、そこに来い。

 この件をパーティ内で共有し、パーティメンバー全員一人ずつに、

 ジーンへの命令権の貸与と、各自が希望する禁止事項を”絶対服従”に盛り込む。」


 「行くのは、ちょっと無理かも・・・」


 「ならば今から”絶対服従”を叩き込むが、どうだ?

 自分の意志なら、他人に対して何とが誤魔化せるかも知れないが、

 ”絶対服従”だと”強引に万難を排して俺の部屋に来る”事になるんじゃないか?」


 「自力で、全力でお伺い致します。」


 「解った。それじゃ、俺は戻る。俺が居る方がやっかいだろうから、後始末は頼んだ。」


 「・・・承りました。この悪魔。」


 「美人に褒められると心がウキウキするな。

 嬉しさが頂点まで来たら”絶対服従”の拡張方法を思いついた。

 明日、絶対に行使してやる。覚悟を決めてから部屋に来い。」


 「・・・もう、どうにでもしてください。」


 「それじゃ!」


 悪魔はコソコソと去って行った。

今日の件は、「タクトの秘密を知る」という戦術的目標は達成された。その意味では成功と言えるだろう。

しかし、失った物が多すぎて、天秤ばかりで量ったなら、確実に”失った方”に傾く。

1を得る為に行動して1を得た、しかし別の10を失った。そんな気分。


一体何を間違ったのだろう?

思い返すと、そもそも手を出してはならない相手の秘密を知ろうとした事。

つまり、今回は、行動全てが間違っていたのではないだろうか?


放置しておけば良かったのだ。

”召喚者”の言に”好奇心は猫を殺す”という、”世の中には知らない方が良い事もある”とか”過剰な好奇心は身を滅ぼす”という意味の諺が有る。

あの言葉はこういう意味だったのかと、苦く納得する。


実は、友好的に1人で”パーティに対して”近づけば良かったのだが、”巫女”という外面が前提に有る以上、選択肢に上らなかった。

ジーンは心の中で、しかし本人は無意識に実際に口に出して、何度も”無属性の悪魔”と繰り返し、自分を慰めながら、自分の不始末の後片付けを始めた。


まあ、ようは「書き出す前のメモ書き」からの復活です。

力ずくでも話を進めないと、設定として「必要な部分」と「不必要な部分」の選り分けも出来ません。

この「小説の体を成してない文書」は、その辺の「自分の限界」」の切り分けにも利用されています。

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