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004:テンプレだが、俺はまだ弱い

完全な悪人じゃないけど、少々卑怯で品が無い人物を書くと、そっちに引っ張られて文書から品が失せますね。

「カマとボッチが”掘り合う相談”か?

 止めとけ、止めとけ。今は生き残る方が重要だぞ?」


イラッとした。

俺が馬鹿にされるのは、現在能力にハンデがある以上、それなりの覚悟があったが、マサミちゃんに罪は無い。

ついでに、後半は確かに正論で、それゆえ余計に”お前達の為を思って”という逃げ道を準備している分、上乗せでイラッとした。

後半を言い訳に出来るが、コイツの本意はむしろ前半に有るだろう。


「酒の力を借りて正論のオブラートに包んだ嫌がらせを吐くってのは、

 どれだけ”ケツの穴が小さい”と出来る事なのか、ちょと教えて貰えませんかね?

 それとも、得意なのは”舌技の方”だけですか?」


反射的に挑発していた。

安い挑発だし、俺は魔法も物理もハンデを抱え、全く勝ち目は無いだろう。

それでも、「言って良い事と悪い事が有る」と思うし、他人を下げる事で、相対的に自分を上げる、所謂”マウンティング”は、本来慎むべきだろう。

だが、そんな事は建前だ。俺が怒らない理由にはならない。

”世界に対して自重しない”のと同じ程度に、”コイツに対して自重しない”事を決め、負ける事を織り込んだ上で立ち上がり、ワザと上から見下ろしてやった。


まずは気弱な感じ、しかし少々馬鹿にした感じで、

「俺を馬鹿にするのは構わない。今の俺はハンデ持ちだからな。」

と前置きをしてから、


「だが、自分では解決出来ない問題を揶揄するのは人としてどうなんだ?

 お前が、誰にも言い負かせない完全な正義だとでも言うつもりか、この下種野郎。

 お前みたいに”ケツの穴が小さい奴”は、こちらも願い下げだ。」

と言いながら、下種野郎の飲みかけのエールを頭にかけてやった。


この瞬間、俺は座っていた相手からの、”立ち上がりアッパー”をモロに食らって吹き飛ぶ。

気絶しなかった自分を褒めてやりたいが、酒なのかダメージなのか、頭が縦に揺らされたからなのか、原因は全部のような気がするが、立ち上がる事すらままならない。

中腰でふらつく頭を振っているところに、今度は正面からのケリが顔面に炸裂した。後ろは壁だ。

ここで俺の意識は途切れた・・・



----------


 何かザワザワしてんな。

俺は今どうなっているんだ?


「メディーック!メディーック!!」

「”回復”」


「おい、今のはお前が悪いと思うぞ?」

「何だ、お前はカマとボッチの味方か?エールをかけられたのは俺の方だぞ!」

「カマだのボッチだの関係ねぇ。俺は、まともな倫理観の話をしている!」

「俺は”命の心配”をしただけだろうが!」

「”命の心配”ってのは、挑発と同時にやるもんじゃねぇよ!お前本当に下種だな!!」

「ふざけんんじゃねぇ!被害者は俺で正当防衛だろうが”身体強化”!」

「こっちの台詞だ!挑発した側が被害者ヅラすんな”シールド”!!」


・・・おっかねぇから、酔っ払いの喧嘩で魔法を使うなよ。


 どうやら”回復”で外傷は治ったみたいで、殴られたり蹴られたりした方の痛みは無いが、脳が揺らされた三半規管のダメージは抜けきってないらしく、視点が定まらない。

30前のオッサンの、素の耐久力なんてこんなもんだ。”回復”してくれた人だって1週間程度の経験しか無い素人だし、”回復”が”三半規管の不調”に効くかどうかなんか知らない。


 しばらく天井を見上げていた後、やっと定まった視点で俺が見たのは、”シールド”と思われるバリアっぽい何かで、俺に背中を向けた位置で仁王立ちで、俺と”回復”してくれた人を守るように右手を掲げた人と、”シールド”を素手で何度も殴る下種野郎の姿だった。


「大丈夫?」

マサミちゃんの声が脇から聞こえる。左横に目を向けると、心配顔のマサミちゃんも”シールド”の内側に居る。

「まず自分のダメージを確認してください。何処か違和感が有るなら教えて。」

反対側に目を向けると、多分俺に”回復”をかけてくれた人が、心配そうに声をかけてきた。


「痛みはありません。多少ふらふらするけど、原因は三半規管じゃないかと思うので、多分大丈夫です。」


「五月蠅い。”加重”」

「がっ!」

「食堂で魔法を使った喧嘩とか、やり過ぎ。」


”シールド”の内側で俺達がダメージの確認をしている歳中に、下種野郎が誰かに攻撃を受けて気を失った模様。

物凄く冷ややかな女性の声が聞こえたが、自分が”加重”を使うのは良いのか?


「大丈夫かい?」

”シールド”の人が、”シールド”を解除してから、爽やかな笑顔でこちらに近づきながら確認してきた。


「大丈夫そうです。」

この騒ぎの中、俺は序盤にエールをぶっかけた以外には、能動的には何もしていないので、何処か他人事のような気分で返事をする。


「そうか。それなら俺からの苦言を一つ聞いてくれ。

 君の怒りは正当だと思うし、アイツは下衆野郎で間違い無い。

 最後まで自己正当化の台詞しか出てこなかったから、ここまでは確定で良いと思う。

 しかし”エールをかけた”のは、あの段階ではやり過ぎだ。

 そこは重々自重して貰えるとありがたい。」


・・・凄く真っ当な注意を受けてしまった。返す言葉も無いとはこの事だ。

「申し訳ありません。ご迷惑をおかけしました。」

他に言い様もない。


「今回くらいの怪我なら”回復”出来るけど、欠損とかはまだ無理だから、目とか、気をつけてくださいね?」

おっと、”回復”の人からも注意をいただいた。


「”回復”ありがとうございます。これで”回復”の体感と効果を確認出来ました。」

ポロッと本音が出た。

マズイ。

俺が「”回復”の効果確認をした」事は、純粋に”自分で実装出来そうだから知っておきたかった”事柄で、今回の件の根幹じゃ無い。

とりあえず”顧客向けの笑顔”で誤魔化す。


「でも、”無属性”で勝ち目が無いのに、あそこで出て行ける義侠心は好ましいと思う。」

多分、あの下衆野郎を”鞘に入れたままの剣”に”加重”をかけて、ぶん殴って黙らせたと思われる、少々小柄で平らな人が、近づいてくる。


「幕引き、ありがとうございます。」

「でも、無謀な事は間違い無い。貴方はちょっと自重しないとすぐに死にそう。」

ごもっともな意見、ありがとうございます。


「あの下衆野郎が起きないうちに場所を変えたいんだが、君の部屋は何か問題あるかい?」

「いや、何も問題ありません。何かお礼が出来る訳でもありませんが、お話しする分には何も。」

「それは助かる。多分、俺達も、今はこの場に居ない方が良いと思うから。」

「それじゃ、えーっと・・・”無属性の人”、初日以来ですが、お邪魔しますね?」


・・・ああ、この人、初日に俺に色々説明してくれた”親切な人”じゃないか!


「あ、今思い出しました。先日はお世話になりました。」

「・・・さっさと移動した方が良いと思う。」


”加重”でぶん殴った”物理の人”に突っ込まれた。

俺達は顔を見合わせ、そそくさと俺の部屋へ移動する事になった。

会話には加わっていなかったが、マサミちゃんも一緒である。

俺に否は無い。

何故なら寂しくて人恋しかったから。

俺は”羞恥心”と”人恋しさ”も自重しない事に、今決めた。



----------


 「さて。バタバタと移動したから適当な感じになっちまったが、まずは俺が仕切らせて貰う。

 多分、この中じゃ年長だしな。」


この爽やかイケメン、俺より年上だったよ。

心の中で”壁の人”とか失礼な呼び方しちまったよ。

自己紹介を始めてくれなきゃ、俺はしばらく”壁の人”と呼んでいた事は間違い無い。



 「自己紹介が前後しちまったな。

 俺は”立花俊樹”という。呼び方は”トシキ”でも”トシ”でも構わん。

 属性ライブラリは”ゴスリン式”で、多分”壁”が得意だと思う。

 ”壁”ってのは”物理障壁”と”魔法障壁”、両方を指すと思ってくれ。」


若く見えるから、”運動部の部長経験者”かと思ったら、単に俺より人生経験が豊富な人でした。

”壁の人”が失礼なら”アニキ”で、多分周りは納得する。

”腐った人”以外は大丈夫、大丈夫・・・



 「私は”藤原咲耶”です。呼び方は”サクヤ”でお願いします。

 属性ライブラリは”カーニハン式”で、回復系が得意です。

 回復系以外も出来なくは無いのですが、すぐに”ループ”に落ちたりするので、あまり期待しないでください。」


”親切な人”、”サクヤ”さんと言うのか。

このタイミングで名前を認識したのは、多分失礼になるので黙っておく事にする。

相手が俺の名前を知らないのは、俺の行動から自己責任だと割り切って飲み込む。

多分これが、一番誰も傷つかない、”人生の処方箋”って奴だ。



 「私は”大黒結衣”。呼び方は”ユイ”でお願い。

 属性ライブラリは”ヴィルト式”で、”自己強化”と”物理系”が得意。

 自分以外に魔法をかける時の詠唱が苦手。」


ああ、謎だった”物理の人”ってのはこの系統の人なのか。

さっきの”加重”は”物理系”なんだな。

何処かで目にした「”魔法で強化”して”物理で殴る”」ってのはこの事か。

実例を目にして、記憶の底から出てきたよ。



 「それじゃ、私の番ね。

 私は”古森昌美”で、呼び名は”マサミちゃん”でお願いね。

 属性ライブラリは”ストロヴストルップ式”で、多分、斥候系だと思うわ。

 投擲系の武器や弓なら、”当てる”事が得意よ。

 分類するなら、戦闘時には”遠隔物理”かしら。

 逆に”隠蔽系”や”隠蔽看破系”の持ち札も有るから、移動中は間違い無く斥候ね。」


おおう。

極端な近接と、極端な遠隔持ちとは。

振り幅が広すぎてビックリだ。

なんてピーキーな人だ。人格を含めて一癖も二癖も有るな。



 「最後に俺ですね。

 俺は”高柳拓人”と申します。呼び名は”タクト”で問題ありません。

 ご存じかとは思いますが一応。

 ”属性ライブラリ”は使えません。

 ”無属性ライブラリ”も”タブレット”経由でしか使えません。」


魔法使いの集団の筈なのに、何故か”魔法による遠隔ダメージディーラーが居ない”という不思議状態。

この「全員自己紹介を済ませた事が原因の、何とも言えない重い空気」はどうしよう。



 「うん。”魔法砲台”が居ないな。」


アニキ、物凄く唐竹割りな分析は、心が痛いぞ。


 「でも、実は、こんな事は珍しくないと、俺は分析している。

 何故なら、”魔法使いになって一週間で大火力”とか、普通はあり得ないだろ?」


・・・そうか、そういえば、確かに。元々魔法系は”育ってナンボ”の筈。

多分、”始めから魔法砲台な人”は”序盤じゃ出番が少ない人”になる。


 「そこで、提案だ。

 俺達は一週間の準備期間で属性ライブラリの使い方レクチャー期間を終了した。

 ここからは、パーティーを組んでの訓練になる事は知っているな?」


申し訳ない。知りません。

というか、聞いてたのかも知れないけど、覚えてない。記憶に無い。

俺が記憶しているのは「3ヶ月後に放逐される」という恐怖だけだ。


 「さっきの喧嘩。

 長い目で見た場合、俺は”良かった”と思っている。

 何故なら、”背中を預けても良い”と思えるメンツが集まったと思ったからだ。

 ”壁”、”近接物理火力”、”遠隔物理火力”、”回復役”、そして、理不尽に物申せる奴。」


おいおい。

この人自分で”壁”とか言っちゃったよ・・・


 「”生き残る事”を最重要として考えた場合、いくら火力があろうが、信用出来ない奴に背中を預ければ詰む。

 これは生き残る為に、この一週間、俺が密かに考えていた事だった。」


 「無鉄砲に見えるが、理不尽に対して正しく怒れる奴、

 怪我人に対して、訓練後の残り少ない魔力を迷わず使える奴、

 膠着状態を確認するや、迷い無く物理を行使出来る奴、

 そして目立たないが、俺に気付かれずに壁を避けて回り込める斥候。」


 「確かに、現状では火力不足は間違い無い。

 しかし、それは他の組合せでも発生する問題であり、

 経験を積む事で解決出来る可能性が高い問題だと思う。」


・・・俺、要らなくね?


 「さて、ここまで話せば、後は判るな?

 俺はこのメンバーでパーティを組む事を提案する。」


 「皆、よく考えてくれ。

 例えば、あの下衆野郎とパーティを組みたいか?

 あの下衆野郎と仲が良い奴とパーティを組みたいか?」


絶対に御免被る。

しかし、それ故に、俺は自分から言い出さなければならない。


 「発言宜しいですか?」


 「ああ、自己紹介も終わった事だし、俺の提案も終わった。

 口調も崩して構わんだろう。

 言いたい事、聞きたい事、色々有るだろうから、まずはタクト、話してくれ。」


 「それじゃ、口調を崩す方向から。

 俺、要らなくないですか?

 現状、俺が一番使えないですよ?」


 「それは織り込み済みだ。

 これは核心が有る訳じゃ無いんだが、お前、何か隠してるだろ?」


 「え?」


 「前提情報として、お前は今日、食堂に始めて現れた。

 ハッキリ言えば、”ヒココモリ”だったお前が自ら現れた。これが一つ。」


痛いよ。心が痛いよ。


 「次に、会話だ。

 お前、”回復”を受けた時に、”体感出来て良かった”的な事、言わなかったか?」


おー。バレテーラ。


 「そして、そもそもの喧嘩の理由である、マサミちゃんとの会話だ。」


 「聞いてたんですか?」


 「聞いてたというより、耳に入ったという感じだが、何かが”完成した祝”と言ってなかったか?」


 皆の視線が俺に向く。

ここで、はぐらかす事も出来る。

でも、俺は”彼らからの信用を得たい”一心で、俺の考えと実例を公開する事を決める。


 「そこまで推理されてるなら、隠すとかえってマズイな。

 解った。話す。

 ただし、これはあくまでも、俺の”エンジニアとしての勘”と憶測の可能性も有る、

 という前提で聞いてもらいたい。」


 「了解だ。

 実際、逆に”何か確かな根拠がある話”の方が胡散臭い。」


 「まず、”俺には属性ライブラリが使えない”という前提は飲み込んで貰う。

 これは色々試した結果として、少なくとも”現状は”間違い無い。」


ここまでは、この場に居ない”召喚”された人達、さらにそのメンバーからこの国の偉そうな連中にも筒抜けの情報。


「次に、俺の”タブレット”を弄くり回した結果、変なアプリが有る事に気付いた。」

「アプリの内容は”コンソール”、つまり古いPCやサーバーで使われる、GUIでは無い画面を起動するアプリだった。」

「専門性が高くなるので、割愛して、結果だけを言うなら、俺は独力で”タブレット”に”自作アプリ”を作った。」

「動作自体は、画面に”Hello World!”と出るだけのモノだが、そこから導き出される可能性の方が大きいと思う。」

「”タブレットに自作アプリを入れられる”という事は、”自作の魔法”を”アプリとして開発出来る”事だと考えられる。」


ここで、皆、息を呑む。


「さらに突っ込むと、”無属性”やら”属性”やらと余計な物がくっついては居るが、”ライブラリ”いう名称。」

「”ライブラリ”をそのまま”辞書”と考える事も出来るし、俺以外の人達の魔法は、即ち”辞書を引く”ように使えるのだと思う。」

「ただし”エンジニアとしての勘”が、それは”まだ理解が足りない”と言っている。」


「俺の勘が、ソフトウェア開発環境に於ける”ライブラリ”の事では無いのか?と言っている。」

「証明として、俺は非常に単純な物だがアプリを作った。」


もう、俺の言葉以外、呼吸の音しか聞こえない。


「つまり、俺の”無属性”とは、即ち”属性が無い”のでは無く、”属性に縛られない”のではないか、と。」

「ご大層な開発環境がある訳じゃ無いけど、それこそ”開発環境その物を作る”というアプローチは出来ると思う。」

「つまり、俺にとってこの世界は”アプリが魔法として動作するスマートフォンの中”みたいな物だと定義出来る。」


完全に場の空気は、”俺が何を言い出すのか?”に集中している。


「少なくとも今日、俺は”回復”を体験し”壁”に守られ”加重”を見た。」

「俺に、時間をくれ。」

「”タブレット”で、”回復”と”壁”と”加重”に似た物を再現して見せよう。」

「以上が、俺が抱えている秘密と可能性の全てだ。」


・・・時間が流れる。

重い。非常に空気が重い。言った側の俺が言うのも何だが、言われた方も困る内容だろう。

俺自身が飲み込みきれないうちに、確認作業と称してアプリを作った面がある。


ここは一発、アニキに仕事をして貰おう。


「トシ。判断は任せる。」


更なる、かなりの熟考の末、


「いくつか質問があるんだが、良いか?」


という返事を得た。これで空気が弛緩した。流石アニキ、良い仕事をする。


挑発の文書は、改変の余地があると考えています。

何故なら、後から読み直したら、思っていて居た以上に下品だったからです。

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