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003:タブレッ・・・ト?

まだ、慣れませんね。

「」と””の統一を図ろうと御思っているのですが、簡単にはいきません。

 とりあえずではあるけど、少なくとも”同じ世界から来たと思われる人達”は、日本人もしくは日系人で間違い無く、”思考言語として日本語を使っている”事は確認出来た。

これで”全く知らない外国で独りぼっち状態”ではない事は確認出来た。踊り出しそうなレベルの安心感が物凄い。

逆に”俺だけ仕様違い”も間違い無く存在する事も解った。こちらは痛い。向こう臑を思い切り蹴られたレベルで痛い。

”俺だけ仕様違い”の原因は判らないが、違うなりに使い方は何となく確認出来た。

やはり俺は、この世界に”召喚”された人が標準的に持っている、”無属性ライブラリ”とやらに属する”ギフト”を、”タブレット”経由でしか使えないようだし、”属性ライブラリ”に属する”ギフト”の持ち合わせが無いようだ。

何故なら”タブレットウェイクアップ”は白字。つまり”無属性ライブラリ”に属し、他の”ギフト”が頭に浮かばないからだ。


色々と悪い想像が頭を埋め尽くし、対処を色々考えている内に、全く無意識に晩飯を食って個室に案内された。

気付くと部屋に一人、多分これで明日の朝までは一人だろう。


 タコ部屋で雑魚寝も覚悟していたのだが、過去”召喚”が行われた時に準備された個室があった事は、素直に喜んでおこう。

これで、誰にも見られず、自分の”タブレット”の仕様確認が出来る。


「タブレットウェイクアップ」


 発声で”タブレット”を起動し、まずは外観から確認する。

・サイズは10インチタブレットクラス

・デフォルト状態では俺以外に見えない

・”ギフト”はアプリ


ここまでは間違い無い。

裏側には、いかにも”カメラですよ!”と自己主張するかのようにレンズが有り、色はマット系の黒。

表側にも”自撮り出来ますよ!”感が満載されたレンズが有る。この世界にはCCDとか有るのか?

外周を確認すると、外部メモリやSIMを挿せるようなI/Fは無いが、ボリュームの上下に使いそうなボタンと、使用方法不明のボタンがいくつか有る。

今度は冷静に、一つ一つのボタンを、単に押したり、長押ししたりしながら動作の確認を行うと、


・一番押しにくい場所にあるボタンを長押しすると”タブレット”が消える


という事は確認出来たし、ボリュームっぽい細長いボタンは、やはり”ボリュームを上下する”で間違いなさそうだ。


しかしここで、最大の謎にぶち当たる。”物理コネクタ”が有るのだ。

リンゴじゃ無い方のタブレットなら、ここは充電と外部接続の兼用コネクタになるが、一体何を繋げというのか?

充電が必要な訳でも有るまい?

この世界で充電が必要な機器が必須では、俺は速攻で詰むと思う。


 ”何を繋ぐのか?”は知識が無い現在のところ、優先度は低いと割り切ろう。

ある程度使い込んでから、改めて確認すれば良いだろう。


OSらしき動作をする以上、各種設定が有り、リンゴじゃ無い方の設定画面っぽい物までは確認出来た。

まずは”操作感に違和感を感じない”事が重要だ。

なにせ俺は、この”タブレット”越しでしか、現地の人とのコミュニケーションすらままならないのだから。


色々弄くり回していたところ、スライド操作で別画面の存在と、そこに有る、他の人の”ギフト”では聞かなかった名前の付いたアイコンを見つけた。

”コンソール”、”アナライザ”、”拡張”、”外部接続”・・・

・・・何だコレ?

どう見ても”開発用機材”の臭いがする。


 WiFiのステーションや通信基地局が期待出来る世界では無い以上、その手の通信手段が実装されていない事は仕方が無い。

有ったところで接続先が無いし、誰と、いや、何かと繋がるとは考えにくい。

最低限繋がる先は、多分”俺自身”だろう。


「誰でもいい。このさい、神でも仏でも悪魔でもいい。まずは俺に”俺の取説”をくれ!」



----------

 一晩”タブレット”を弄くり回して、”この世界は俺に厳しい”という事の再確認作業を行った気分だ。

結局、把握出来たのは、

・”コンソール”とは文字通りコンソールで、コマンドラインはUNIX系とDOS系混在。

・”アナライザ”とは背面カメラが起動して、何やら記録が行えるようだが、再生方法が判らない。

これだけ。たったこれだけだ。”コンソール”でプロンプトを見て、”どう見てもUNIXだよな?”とか”viが起動出来たよ!”とか、正直なところ、


「だからどうした!役に立つのか、コレ!!」


という感想しか無かった。


しかし、人は追い詰められると、とんでもない事を考えつく物だ。

朝日が辺りを照らし出した頃、

「もしかして、”魔法はセルフサービスで作れ”という事なのか?」

という発想に行き着いた時、何かが飲み込めた気がした。


ヒントは有った。

”無属性ライブラリ”と”属性ライブラリ”の”ライブラリ”ってのは・・・


「includeとかimportとか、そういう方向か?」



俺には”属性ライブラリ”系の”ギフト”の持ち合わせが無い。


「これは”使えない”のではなく、”縛られない”んじゃないのか?」


よし、試そう。

どうせ他にやる事なんか無いし、そもそも出来る事が無い。

「まずは”Hello World!”からか・・・」


俺は”仕様がよく解らないH/Wの開発”を始める事にした。

まずターゲットは”タブレット”だ。

”タブレット”に画面を定義して”Hello World!”と画面に出すアプリを作って、アイコンを画面に張る。

これを目標に、”生き残る為の開発”を始めてやる。

世界が俺に悪意を持っていようがいまいが、そんな事知った事か!


ここまで開き直ったところで、命がけ気分の貫徹開けだった俺は、意識を無くすように眠った。


「目を覚ましたら、夢オチだったら良いなぁ」

そんな現実逃避をしながら。



----------


 「シェルが実装されてて本当に助かった・・・」


あれから一週間。

俺の初めての”魔法アプリ”である「Hello World!」が完成した。

アイコンから手書きという信じられないレベルのシロモノだ。

統合開発環境なんて便利アプリは、今はまだ無い。次に必要なのは、便利なエディタと開発環境強化で間違い無い。

開発環境は8ビットマイコンのくせに、画面定義から始めなければ出力先すら存在しないので、”初期のリンゴ系開発”の知識がよぎる。

イン○ル系もモ○ローラ系も、Pow○rPC系も経験しておいて良かった。

実装メモリサイズを確認しようとしたら、延々とスクロールされた時には唖然とした。

再起動は方法がわからないので、ボタン長押しで消してから、再度「タブレットウェイクアップ」を発声した。

この1週間で、俺の口から出た意味の有る言葉は「タブレットウェイクアップ」だけだった気がする。

「”爆弾”でも出たらどうしようか?」等と現実逃避しつつ、

要は”タブレット”という、俺の常識からは”仮想H/W”の”仮想画面”の”仮想位置”であると割り切った瞬間から、一気に開発は進んだ。


「ここまでが開発の常識で、ここから先は“おまじない”」


この切り分けさえ済めば、後は時間だけ。

トライ&エラーの繰り返し。


使えるオペランドの把握から開始した。

「”NOP”のループ」で大体の演算速度の把握もやった。

シングルコア前提ならこれで大体の処理時間が把握出来る。

メモリ領域の把握も、大体完了した。

入出力ポート番号は、”何を何処に出力するか”を把握出来ないので”タブレット”に限定。

多分”タブレット”ではなく”現実”に出力するのは、有効桁数が倍以上違うだろう。

次のターゲットH/Wは”自分の体”にしようと等と考える。


出来なきゃ、遠からず俺は緩慢な死に向かわざるをえない。


何故なら、

”この世界の常識が無い”から。

”必要にされない、つまり他人から見て使えない”から。

突き詰めれば”生きていく術が無い”から。

現実逃避からの、命がけの開発。

手探りな”魔法ベースのH/W”等というバケモノに挑んだ一週間。

これほど充実し、尚且つ生きた心地がせず、更に精神まで追い込まれた開発経験は無かった。


俺は、俺固有の”タブレット”の画面に「Hello World!」と表示された時、やっとこの先生きていくとっかかりを掴んだ気がした。


それと同時に、多分この世界は、”俺に悪意が有る訳じゃ無い”と感じた。

”俺に無関心なだけ”だと考え直した。


上等だ。

とっかかりは掴んだ。

”世界が俺に無関心”なら、それならそれで結構だ。

その代わり、”俺も世界に干渉する事を自重しない”だけの話だ。

俺が原因で、世界のあり方が変わってしまうとしても、俺は世界に対しては決して自重しない。


次の目標は、

「それぞれ1週間で”便利なエディタ”と”開発環境の強化”を完成させる事」

に定めた。

俺、”vi”はそんなに得意じゃないんだよ。

ラインエディタじゃなくてスクリーンエディタが欲しい。

アイコンも手書きで描きたくない。



・・・でも、今日の残り、1日にも満たない時間。

1日だけ。

今日だけは、休もう。

そして、今晩だけは、同郷の連中と酒でも飲んで憂さを晴らそう。

気分転換も必要だし、俺以外の連中の動向や、この世界の情報が必要だ。


俺はニヤニヤしながら、何度も”Hello World!”を起動しては終了させる事を繰り返しながら、

画面の見た目がつたない事は承知の上で、

「この1週間で”オリジナルアプリを一人で完成させた事”を評価してくれる人が居ると良いなぁ」

と考えていた。



----------


 「よう、”無属性”の人。部屋を出てくるのは珍しいな。何か良い事でも有ったか?」


 彼から悪意は感じない。俺の方が部屋に籠もったせいで、顔も名前も覚えてもらえなかっただけの話で、こう呼ばれるのは自己責任だ。

この”食堂”で飯を食うのは初めてなので、俺は空いている席を探して室内を見回す。

そこで、少々奇妙な印象を感じる。

丸形のテーブルが8つ有るのだが、1つは使用されていないのに、少人数だけのテーブルも有れば、逆に溢れんばかりに人が居るテーブルが有る。

何だこの奇妙な人数配置は?


 「ちょっと目処が立ったので、今日は息抜きする事にしました。

 ところで、何でテーブル毎に座っている人数に差が有るんですか?」


 「ああ、これは”属性ライブラリ”毎に集まって、予習復習や情報交換を、飯を食いながらやっているだけだよ。」


 「扱える”属性ライブラリ”毎に、人数が違う事を今知りましたよ。

 それじゃ俺は、あの”誰も座っていないテーブル”が定位置って事で良いですかね?」


 「まあ、始めはこんな感じだが、段々適当にばらけるから、”属性ライブラリ”の話をしたくないなら、それで構わないんじゃ無いかな?

 こっちの話が一段落したら、何か話を聞かせて欲しいから、そっちにもお邪魔するよ。」


 「どうぞ、お構いなく。」


 ・・・参ったな。

今後の開発の為の情報収集も目的だったんだけど、他人様の邪魔をするのは俺の本意じゃ無い。

既に出来上がっている集団の邪魔をして、得られる物など何も無い。

多分誰も俺の顔を覚えちゃいないだろうから、序盤は”一人メシ”でいくか。


一人だけのテーブルに座り、メニューは日代わりだけだそうなので食い物はそれにして、後は飲み物の注文だけを済ませると、

多分調理済みだったであろう食事と、ビールに似た”エール”がすぐに届く。


何の肉かは判らない肉のステーキと、付け合わせとかさ増しの芋、野菜の入ったスープ、そこにい”エール”という、

”メシ”だか”飲み”だか判らない組合せだが、他に選択肢が無いなら仕方が無い。


まずは”一人メシ”ならぬ”一人祝杯”として、杯を一度、軽く抱え上げてからエールを飲み干す。

生暖かいが、弱炭酸程度の発泡と苦み、確実に感じるアルコール臭で、”生暖かい地ビール”程度の感覚で飲める。

アルコール度数も、蒸留酒の高さは無さそうで、多分1桁%程度だろう。

どうせ俺一人による、俺一人の為の、自己満足の祝の一杯だ。

飲めない程不味くも無く、酔えるなら、これで構わない。


さて、この一週間、部屋に籠もったまま食事を運んで貰っていた関係上、暖かいメシは久し振りになる。

きっと今日は何を食っても旨いと感じるんだろうな、と考えながら、適当にステーキと芋を食い、スープで流し込む。

これは「乾杯後に固形物を入れて悪酔いを避ける」という、個人的な民間療法的な飲み会の習慣だ。


「あら、何かのお祝い?」


口調は女性の物だが、女性にしては声が太い感じで、俺に問いかけてきた人が居る。


「つたないレベルですけど、1週間頑張った”自分へのご褒美”って奴ですよ。

 それにしても、よく俺が”お祝い”していると気付きましたね?」


「それは簡単。

 ”何かを成し遂げた人特有の満足感”と”お酒の飲み方”、

 ついでにあまり顔を覚えていない人だから、”無属性だから扱いに困る”って聞いていた人物。

 何か良い事、有った?」


うん。この人は「オネエ系」だが悪意は感じない。

面倒見の良さすら感じる。

多分、この人なら、少なくとも馬鹿にはしないだろう。


「自己紹介の時に言いましたけど、俺、”無属性ライブラリ”しか使えないみたいなんですよね。

 しかも”タブレット”というキワモノ経由で。

 で、開き直って、この一週間、”タブレット”の”アプリ開発”をやってて、

 所謂”Hello World!”ですけど、一応動作する物が出来たので、”一人完成祝”をやった訳です。」


「・・・ちょっと待って。」


 彼か彼女かは判断が付かないが、声を潜めて俺に近づいてきた。

今度は小声で、

「その話、誰かに話した?」

と聞いてきた。


「私にその”Hello World!”の意味は知らないけど、”動作する物が出来た”と言ったわね?」

小声なので、さっきよりも低い、「ああ、これは男性の声だな」と感じる声で問い質された。


釣られて俺も小声で、

「ええ、”タブレット”の画面に文字が出るだけの、見た目地味なアプリですけど。」

こう答えつつ、今度は普通の音量で、

 「ところで、再度になりますが俺は”高柳拓人”と申します。

 中世っぽい世界で名前だけの方が良さげな気がするので、俺の事は”タクト”と呼んでください。」

と、個人に対する自己紹介を初めて行った。


それに対し、こちらも普通の音量で、

「ああ、私は古森昌美。”マサミちゃん”って呼んでね?

 気になるだろうから先にカミングアウトしておくけど、心は女性よ?」

と返された。

よし、自己紹介はクリア出来たし、”会話の意図や軽重が通じる人”で間違い無い。


・・・”ちゃん付け”は義務なのか悩ましいところだが、本人の希望なので、俺は尊重する事にした。


「それじゃ、これからは”マサミちゃん”と呼びますね。

 マサミちゃんの”属性ライブラリ”を聞くのは、失礼にあたりますか?

 俺、こっちに来てから籠もってたんで、常識やら何やら把握してないんですよ。」


「こっちの世界の常識ではケースバイケースみたいよ?

 でも、この場に居る”召喚”組は、”属性ライブラリ”毎に研修会が分かれているから、

 隠す事に意味は無いでしょうし、聞かれて気を悪くする人は居ないと思うわ。」


「それは良かった。

 試したみたいで申し訳ありませんが、

 俺は”この世界に対して自重しない”と心に決めたのですが、

 ”この世界に居る個人”に対してまで自重しないというところまで開き直るべきか、

 ちょっと情報収集させていただきました。」


「あら、そんな事気にしてたの?

 試された方は気にしなくていいわ。ちゃんと意図は判っていたから。

 それから自重の方だけど、そのきっかけが”自分が不利な状態からのスタートだから”なら、

 それこそ私に止める権利はないわね。

 私は”有利な状態の一人”という事だし、貴方の一週間の努力を否定するつもりもないわ。」


ここまでの会話で、この人には「もう全部ぶっちゃけても良いんじゃね?」という気分になってきた。

これは酒で判断力が曖昧になったせいなのか、この人のキャラクターなのかは判らないが、多分俺は「孤独に限界を感じていた」のだと思う。


そこからしばらくは、比較的当たり障りのない内容の会話で時間が潰れた。


変化が訪れたのは、この部屋で食事をしていた人が食べ終え、何となく愚痴入りの飲み会風に変化してきてからだった。


工学系では一般的な話として、「マザーマシン」という概念があります。

これは「工作する為に使用する機械」であり、それ自体が「精密機器」です。

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