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ロリコン日記 3月22日

平均的ロリコンのストイックな日常。

その記録。

ドキュメントなので、オチはないです。

 仕事が休みだったので近所のイオンモールを散策した。イオンモールの自動ドアは万民に向けて開かれている。たとえ、私の様なロリコンであったとしても、嫌な顔一つせずに迎え入れてくれる。それがイオンモールなのであった。


 今日は3月22日。小学校は既に春休みに突入しているはずだ。

 しかし、客層は高齢者が殆どだった。

「なんで春休みなのに女子小学生がいないんですか?」

 不思議に思った私は、インフォメーションカウンターの女性スタッフに問い合せてみた。

 しかし、

「え? あの? はぁ?」

 などと要領を得ない返事が返って来るだけであった。

「だーかーらー、女子小学生がなぜいないのか聞いているんです!」

「少々お待ちを……」

 彼女はひどく狼狽しているようだった。

 それでいて、異常者を見つけた警察犬のような鋭さを秘めていた。

 私はその眼光を見逃さなかった。

 私もまた、鋭いのである。

 

 深くため息をついて、その場を後にした。


 平均的なロリコンは小学校の春休みがいつ始まるのかを把握している。特別私が異常というわけではない。そんな私を異常者を見るような目で見て来るとは、嘆かわしい限りである。ロリコンに関するリテラシーが低すぎるのだ。イオングループは社員研修にもっと力を注ぐべきだろう。


 しかたがないので婦人服売り場を徘徊した。

 そこで、壇ふみ風の御婦人が下着を選んでいるのを発見した。

 私は彼女の後を追跡してみることにした。


 ロリコンであっても、妙齢の御婦人の後をつけてみたくなることくらいある。


 妙齢の御婦人と言えど、かつて女子小学生であったという事実に変わりはない。尊いのはその事実なのである。

 私は彼女の女子小学生時代を想像しながら、鼻息荒く尾行した。

 しかし、こちとら尾行は初心者。

 すぐに勘付かれ、逃げ出されてしまった。

 

 だが、逃げ出されても尾行は続行する。

 むしろここからが本番なのだ。


 逃げる者を追う。


 それが平均的ロリコンの在り方であった。


 妙齢の御婦人を300メートルほど追い回していると、不意に背後から呼び止められた。

 振り返ると若い警備員が立っていた。

 身長180センチ程度で、細身でありながら引き締まった肉体を持つ好青年であった。

 死ねばいいのにと思った。


「インフォメーションセンターから連絡がありました。不審者がお客様にご迷惑をおかけしていると」

 警備員が言った。

「なるほど。それで私に協力を仰いだんですね。しかし今日は私の大切な休日なのです。残念ですが、不審者退治は御一緒できません」

「あなたがその不審者なのです」

「ええ?」

「あの御婦人を追いかけ回していたでしょう」

「はて? 何のことですかな……」

 青天の霹靂であった。

 世も末であった。

 まさかこの私が不審者扱いされてしまうとは。

 

 しかし私は慌てなかった。

 こういう時に慌ててしまうと、誤解が誤解を呼び込む負のスパイラルハリケーンが発生する。

 毎年このハリケーンんで何人ものロリコンが命を落としているというもっぱらの噂だ。


 それに私には身の潔白を証明する手立てがあった。


「私はロリコンです」

「はぁ?」

「私はロリコンなんですよ?」

「いきなり何を……?」


「ロリコンが妙齢の御婦人を追いかけ回しますか? しないでしょ! 普通! 属性が違い過ぎますよ! ストライクゾーン広すぎでしょ! 幼女も熟女も好きだなんて! そんなの変態ですよ! 欧米の変態ですよ! 身体に発信器埋め込まれるレベルの変態ですよ! もはやバケモンですよ! 性欲のバケモンですよ! 私が、そんなバケモンに見えますか? 見えないでしょう!? ジェントルマンでしょう! その証拠に、ほら、服とか来てるし! 上下インナーアウター全部ユニクロだけど、ちゃんと服着てるし! フオォォォオオ!」


「そんなことは聞いていません」

「聞かれていないこと以外喋っちゃだめなんですか!? なんて世の中だ、ポイズン!」

「わけのわからないことを!」

「反町隆を知らんのか! GTO見て出直して来い、若造!」

「GTOはAKIRAでしょう、オッサン!」

「カァーッ! これだから最近の若モンは! どいつもこいつもエグザイルエグザイル言いやがって!」

追放エグザイルされるのはあなただ、オッサン」

「カァーッ、調子のりおって! しょーもないんじゃぁ、ボケェ!」


 一見して対話は穏便に進んでおり、私の身の潔白が示されるのは時間の問題かと思われた。

 しかし、運悪く、そこで別の警備員が2名駆けつける。

 彼らは3人がかりで私をショッピングカートに詰め込むと、洗練されたボブスレー選手のような動作で、私をイオンモールの敷地外へと追いやった。

 青天の霹靂であった。

 まさに世紀末であった。


「二度とくんな、変態」

 好青年はそう吐き捨てると、私をショッピングカートから引きずりおろした。私の身体は、重たい土嚢の様に、どさりと路上に横たえられた。ショッピングカートは三人の警備員によって回収され、私だけが一人、路上に取り残された。


 私はあらゆる覇気を失って、そのまましばらく路上で倒れ続けた。

 3月後半のアスファルトは、まだ少し冷たかった。




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