敵艦隊襲来。その2
あれから数日が過ぎ、軍議の方も遠征を行う方向に向かって行った。
先鋒に第五艦隊500隻。その一日遅れで第二第三艦隊それぞれ500隻、更に一日遅れて第一艦隊の1000隻が続く。それぞれの艦隊には、補給艦と工作艦がそれぞれ数十隻追従する予定である。
留守部隊は、第四艦隊500隻に第一~第三直掩艦隊それぞれ100隻の計800隻である。
出兵を三日後に控え、最後の軍議が開かれた。
その内容は、確認事項的なものでたいした議題は無かったのだが、敵の勢力圏と言う事もあり、行軍中は全艦に通信封鎖を行いステルスシールドを張りつつ、無人偵察機を四方に放ちながら警戒態勢での行軍に努める様にとの高橋提督の意見が取り入れられた。
三日後、初の遠征に官民大いに盛り上がっていた。ただし、この事実は捕虜たちには伏せられていた。
更に二日後、第一艦隊も出撃していった。
それらが、こちらのレーダー範囲から消えていく頃、二つの報告書が上がってきた。
一つは、例の動力部の装置についてであるが、エンジンの出力を最大限に上げることによって強力な重力場を作る装置の様であると、スーパーコンピューターの計算から想定される。とのこと。
もう一つは、鹵獲したすべての艦船から小さな発信機のようなものが発見されたとのことで、解析するとどうやら極超長波の電波を発しているようである。とてつもない程の極超長波の為に受信できなかったために発見が遅れた。とのこと。
以上の報告を受けた宇宙艦隊司令本部は、直ちに無人偵察機1000機を四方に放つよう指示して、不測の事態に備え、すべての直掩艦隊を第四艦隊に一時編入し、「にほん」の直掩に当たらせた。
同時に不測の事態に備え、数日の行軍を控える旨を伝えるため、長距離航行に耐えうる高速艇にて、既に出陣した連合艦隊の後を追わせた。
次の日の午後1時、「にほん」の2時方向で天上方向1時30分の方角に出していた偵察機から報告が入った。
前方約4光秒の距離に重力の著しい乱れあり。
忽然と敵の艦隊らしきもの出現。その数5000隻。
続けて午後3時に、2回目の重力場の乱れと共に大艦隊発見。その数15000隻。
更に午後5時には、更に8000隻が現れた。
宇宙艦隊司令本部は悲鳴にも似た怒号が飛び交っていた。
最後の報告の後に俺は秋山と共に旗艦である日向に出向いていた。
「閣下、これは一大事ですね。」
俺が出された紅茶を飲みながら言った。
「ああ、一大事であるな。」
高橋大将は、心なしか呑気である。
俺と秋山が呆気にとられていると、第一分艦隊の田中少将が到着した。
田中少将は、かなり取り乱した様子で高橋大将に泣きつく勢いであったが、高橋はこれを制し、
「和泉君、わざわざ出向いてきたからには、何か妙案があるのだろう?」
こちらの意図を見透かすように訊いてきた。
「秋山少佐、閣下は何でもお見通しのようだね。例の作戦を説明してくれないか?」
肩をすくめ秋山にふった。
「はっ!僭越ながらご説明申し上げます!」
秋山は、手に持っていたカバンからレポートを取り出した。
レポートには、敵はこちらのステルスシールドを把握していない。三軍に分かれて行軍してきている。以前の会戦での敗残兵から、その時使用したこちらの戦法を警戒している。と、書かれていた。
その上で、戦艦の部品でもなんでもいいのでかき集めて、それに動力を付け敵の進行方向に展開させデコイとする。こちらも隊を3つに分け、ステルスシールド全開状態で敵の三軍それぞれの側面に展開して同時攻撃を行う。それぞれの隊には、補給部隊を後方に控えさせて随時ミサイルの補給が出来る環境を整えること。
後はいくつかの不測の事態における対処法が記されていた。
高橋大将は、レポートを読み、秋山の説明を聞いて満足した様子であった。
「これをこの短時間に作成したのか…すばらしいな。どうやらこの手しかないようだな。よし、これでいこう。」
素直に評価もしてくれた。
高橋大将を中心に、各分艦隊隊長及び全ての参謀で細かい打ち合わせに入った。
既に時刻は午後10時を回り、敵の先陣は「にほん」との相対距離10光秒の位置まで迫っていた。
その間、鳴り止まぬ宇宙艦隊司令本部からの通信を協議中とはぐらかせていたが、詳細が決まって、その決議を伝えるとともに、遠征隊を呼び戻すように進言した。
そして、ある命令も添えるように進言した。
そして、ゆっくりと擬装艦隊を敵正面に向けて発進させた。
こちらの3隊のタイミングがずれれば、失敗する畏れもあるので、各隊共に命令を徹底させていった。
各員、未曽有の大決戦を前に緊張を隠せないでいた。