世代間宇宙船「にほん」その2
一方その頃、宇宙港の特別ドックでは、拿捕された敵の大小3種類の艦艇の解体と分析が行われていた。
千数百人の科学者や技術者達が、次々に露わになっていく未知の技術に釘付けになっていた。
その特別ドックを見下ろせる位置に中央管制室で、科学技術庁の責任者である鮎川大臣と佐々木事務次官が会談を行っていた。
鮎川大臣はもともと科学技術庁の研究所所長という経歴を持ち、大臣でありながら科学のエキスパートである。
対する佐々木事務次官は、技術屋からのたたき上げで、同庁の役人になってトップを極めた人物である。
「佐々木さん、拿捕してきたあの未知の戦艦はどうかね?」
「そうですね、物凄い科学力の結晶と言う印象ではありますが…すごく驚くほどのものは見当たりませんな。でも、鮎川さん。私をお呼びになったからには…何か発見でも?」
「いやはや、佐々木さんに隠し事は出来そうにありませんね。実は、ある装置を発見したのです。まだ完全に解析できてはいないのですが…これがそうなら、我々の長年の念願もかなうかもです。」
「ほう…と、言いますと…アレですか?重力場のコントロールを制御する装置の可能性もあるのですな?」
「はい。是非とも解析して応用したいものです。現在の技術では…いや、我々の想像力ではかなり煮詰まっておりますので…無重力空間を靴や衣服に磁場を持たせることで、普通の空間の如き動きを再現させているだけの擬似的なものですからね。」
「この装置をもし応用出来うるなら、この「にほん」自体を更に大型化させて、もっと多くの人民の暮らしを安定させることにつながるかもですね。」
そんなやり取りをしていると、デスクの上の内線の呼び出し音が響いた。
『閣下、現場責任者の玉城主任が面会を求めて来ております。』
「ありがとう。お通ししてくれ。」
鮎川大臣は、穏やかに言った。
程なくして部屋のドアが開き、小柄な作業着姿の男性が入ってきた。
「失礼いたします。現場の責任者をしております玉城と申します。解析できた分のデータをお持ちいたしました。」
鮎川大臣は、玉城主任を応接用のソファーへ促した。
「玉城君、何か分かったかね?」
佐々木事務次官は、そわそわしながら訊いた。
やはり技術者出身なだけに、興味津々の様子だ。
「はい。そんなにたいした内容ではありませんので恐縮なのですが…ご報告いたします。敵艦艇の装甲と主要武装並びに動力部についてであります。」
内容はおおよそ次のとおりである。
〇主要武装は、レーザー兵器のみである。
〇レーザー兵器の出力は、我が国のものより30%ほど強力である。
〇ただ、レーザーを通すレンズが特殊であり、これが射程の違いにつながってる。
〇対レーザーシールドも我が国のものより出力が高めである。
〇ミサイル等物理兵器は存在しない。
〇以上のような理由からと推測されるが、装甲は非常に薄い。
〇ただ、装甲には特殊な合金が使用されており、宇宙線など人体に有害なもの等から内部をほぼ守ることが出来る。
〇動力部は、非常にコンパクトに作られていて、出力は我が国のものと同等である。
〇ただ、左右上下方向への噴射出力が小さく旋回能力が著しく低い。
〇核融合炉は、完成度が高く安定している上に非常にコンパクトである。
「おお、たいしたことあるではないですか。これを応用することが出来たら、我が国の技術はさらに向上するでしょうな。」
鮎川大臣は、嬉しそうである。
すると、佐々木事務次官の携帯電話が鳴った。
「もしもし、私ですが。…ほう、解析できたかね?…ふむ、こちらの中央管制室の端末にデータを転送できるかい?…うむ、よろしく頼む。」
「佐々木さん、どうやら朗報のようですな。」
鮎川は、子供のように目を輝かせながら訊いた。
「それでは、私はこれで失礼いたします。」
深々と頭を下げて、玉城は退室していった。
鮎川と佐々木は、玉城に右手を挙げて答えながら、端末の方に向かって行った。
佐々木は、慣れた手つきで端末を操作し、今しがた届いたばかりのデータを展開し始めた。
「ほう、これはすごい…」
鮎川は、食い入るようにモニターを見つめ言った。
映し出されたデータを映像として表示させると、そこには敵の主星系と思われる場所と、そこを中心とした航路図のようなものが写しだされていた。
ただ、表示されている文字であろうものが、解析不能であったが。
その他にもいろいろなデータが入っているのだが…これらについては、捕虜たちを通じての言葉の解析を待つ以外になかった。
「今日は、なかなか有意義な時間を過ごせましたな。これらのデータの方を軍の方に送る手はずは頼みますよ。」
鮎川は、満足そうに退室していった。