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世代間宇宙船「にほん」その1

当初500隻いた第四艦隊だったが、最終的に7割近い損失を出し、大勝利をあげたとは思えない程の有様であった。


それでも、武装の性能が大幅に上回る4倍の艦隊相手であったが…


3日ほど航行したところで、前方に発光信号を確認した。


第三艦隊と補給艦隊が、出迎えに来ていたようである。


それらの護衛の元、無事に補給を終え、補給艦に捕虜たちを移乗させた。


そこから更に2日のところで、前方に大きな艦影が見えてきた。


遠目からは、円柱の形に見えるが、その断面は80個の辺を持つ正多角形となっている。

その艦首付近と艦尾付近に大きな文字で「にほん」と記されている。


傍に近づくに連れて、全体像が確認できなくなるほど巨大な船体と言う事実に気づくのであった。

宇宙空間では、しばしば物の大きさを見誤ることもあるそうだ。


全長300キロ、高さ幅共に100キロの巨大さである。


その内部は、4つのエリアに分かれている。

艦首から、宇宙港エリア、食糧プラントエリア、居住区エリア、動力エリアである。


食糧エリアと居住区エリア、そして宇宙港エリアにある宇宙軍居住区は球体となっており、その内壁にそって街や農地などが広がっている。その球体は常に回転していて、その遠心力によって内部に重力を発生させる仕組みになっている。因みに宇宙船が進路を変えたりする時には、その球体を回転させている軸に当たる部分の角度や回転速度を変化させることによって、内部への影響を打ち消していた。



艦隊は、「にほん」の艦首方向に船体をグルリと取り囲むように移動していた。

すると艦首近くの80辺もの船体部分が開き、そこが宇宙港の入り口となっていた。


それらに吸い込まれるように、次々と艦艇が入港して行くのであった。



入港して船体が固定され、移動式の搭乗橋が接続され艦からクルーが続々と下船開始した。



「ふー。なんとか無事にまたここまで帰って来れたね。」


俺は、後ろを歩く秋山大尉の方に顔をむけ言った。


「まったくですな~。これも大佐の悪運のおかげと心得ております。」


秋山大尉は、右手を左胸にあて仰々しく頭を下げた。


「こいつめー。上層部への出頭命令が出ている、その用事が済んだら飲みに付き合ってくれるかい?」


俺は、笑いながら前に向きなおした。


「おお、いいですな。是非ともお供させてください。」


秋山大尉は、言った。



実は、上官と部下という間柄ではあるが、秋山と俺は士官学校の同期であった。



そこから宇宙艦隊司令本部や宇宙軍専用の居住区へは、リニアモーターカーで移動するのである。

秋山は、宇宙軍専用の居住区に向かうことになるので、駅で別れることとなった。



司令本部につくと、係の女官に控室に案内された。


控室に入ると、高橋中将と第一分艦隊旗艦艦長の田中准将が既に座っていた。


「おお、和泉大佐。今回の戦闘は貴官のおかげで全面崩壊を免れただけでなく、大勝利と相成った。この通り感謝する。」


中将は、深々と頭を下げた。


「あ、いえ…恐縮です!どうかお顔をお上げくださいますよう。」


正直度肝を抜かれた。

風貌から傲慢な方だとばかり思っていたが、見た目では判断できないものだな。


この人が妙に人望があるのは知っていたが、こういう事なのだろうな…


田中准将とも挨拶を交わした。



程なく、案内の者が訪れ司令長官室横のブリーフィングルームに通された。


部屋に入ると、細長い楕円形の形をしたテーブルとその周りに取り囲むように座席が配置されていた。



一番奥に座っているのが、宇宙艦隊司令長官を務めている藤原元帥でその右に総参謀長の服部大将、左に中嶋防衛大臣がそれぞれ座っていた。テーブルの左右の座席には、各艦隊司令や各省庁の役人が並んでいた。



我々は敬礼をし入室をした。


「まずは任務ご苦労でした。さあ、掛けたまえ。」


見るからに温和そうな元帥が言った。


「さて、今回の偵察任務で図らずも未確認文明圏の艦隊と遭遇し会戦と相成ったわけではあるが…まずは報告が事後になった旨の理由をお聞かせ願いたい。」


総参謀長が口火を切った。


「はっ!それにつきましては、相手方が未確認である以上いかなる技術を持っているやも知れぬ為に、超長距離通信を行う事でこの「にほん」の所在を知らしめてしまうのではないかとの懸念から、結果的に事後になった次第であります!」


高橋中将は、低く良く通る声で答えた。


―まあ、筋は通っているな。


「なるほど、その件は了解しました。では次の件ですが、相対距離が6光秒と離れていたにも拘らず、転進せず正面から対峙した事についてですが。これに対しての明確な理由をお聞かせ願いたい。」


総参謀長は、尚も淡々と続ける。


「はっ!それにつきましても先ほどの理由と重なることになりますが、敵の科学力や技術を計りかねました故、是非も無く対峙した次第であります!更にその事についての懸念がありましたので、誠に勝手ながら敵艦艇及び人員を拿捕し連行いたしました!」


―なるほど…勉強になる。


「ふむ、他に選択肢が無かったわけだな。臨機応変に良くやってくれました。」


元帥が横から助け船をだしてきた。


「えー、その拿捕した艦艇及び人員の件なのですが…検疫の結果、特に問題がないとの報告が上がってきておりまして…えー、各省庁が全力で言語の解析及び艦艇の臨検を行い技術の解析を行う予定となっております。」


汗を拭きながら、防衛大臣が言った。


「今回の件は、不幸な遭遇戦であったが、結果的には大手柄であり、第四艦隊各員に対して一時金及び特別休暇をもって遇することにする。また殉職した方々には、2階級特進の後に遺族年金として、その遺族に報いる予定である。にほん大統領」


元帥は、大統領からの書簡を読んだ。


「また、君たち士官にも相応の報酬が用意されている。会戦におけるデータの検証後となるがね。」


元帥は、そう言うと周囲を見渡し出席者に意見の有無を確認した。



「これにて、この会合を終了とする。ご苦労であった。」


元帥は立ち上がり敬礼をした。


それに対して軍人は敬礼、役人は頭を下げた。




俺はそのまま高橋中将と田中准将と共に第四艦隊司令本部にリニアモーターカーで移動した。


「いやー、いくつになってもあの場所は好かんなー。」


がはははと笑いながら中将が言った。


「まったくですなー。」


と相槌を打つ田中准将。


「いえ、ご謙遜でしょう。寧ろあの場を呑んでいらっしゃるかの様に小官には思えました。」


俺は、肩をすくめて言った。



―この方の下なら、安心して働けそうだ。




数日後、高橋中将は大将に昇進した。


田中准将は少将に、そして俺は異例の2階級特進で少将に任じられた。















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