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そして伝説へ。

3回目のワープを終えた脱出用ポッドは、まっすぐ固定された座標に向かって進んでいた。


その中は賑やかを通り越して、驚天動地の大騒ぎであった。


それもそのはず、反町博士が一人で子供を10人も相手せねばならないからであった。



元々一人っ子として育って、勉強漬けの青春時代を過ごし、友達ともロクに遊んだことのない老人である。


更に生涯独身を貫いてしまったときては、子供の扱い方など分かるはずも無く…


ただただ疲労困憊の境地であった。



「にほん」にいたころには、人数分のベビーシッターや家庭教師。学校に上がってからは、教師に丸投げ状態という放任主義であった。


でも、子供らもさるもので博士以外の大人の前では、非常にいい子なのである。


牡丹とフユキも最初は、とてもお利口であったのだが…

朱に交わればなんとやらで、変な方向への順応性も見せていた。



この10人の子供たちのオリジナルは、全て先ほどの補給船に乗っており既にこの世にはいないのであるが…


その事実を博士は、誰一人として教えてはいなかったのである。


後で合流するとか、お仕事の関係で別のところに行ってるとか…誤魔化していた。



「記憶の解放」についての様々なシミュレーションを行ってきてはいたのだが、幼い自我のままでのそれについては未知数であったのもあって、不測の事態を避ける為ということもあったのだ。



18歳での自然解放を待つのが無難であると判断したようである。




現在向かっている新造船「おのころ」は、「にほん」とはまるで規模が違っていた。


大きさも、全長1000キロ、横幅300キロ、高さ100キロの直方体であり、内部もかなり複雑にエリア分けされているのである。


かつての「日本」をそのまま持ってきて、地方ごとにぶつ切りにしたような居住区が売り物であった。





博士は毎日、子供たち一人一人の成長記録をマメにとっていたのであった。

悪戦苦闘しつつも仕事熱心なので、これは欠かしたことが無い。


その名簿には、10人の子供たちの名前とオリジナルの名前が書かれていた。



牡丹ぼたん:和泉(麻生)楓花(プログラマー・SE)

☆フユキ(ふゆき):和泉冬希(元宇宙艦隊司令長官)

鮎春あゆはる:鮎川春彦(科学技術省担当大臣・科学者)

武蔵たけぞう:佐々木大和(科学技術省事務次官・技術者)

珠季たまき:玉城心音(宇宙軍エンジニア・中尉待遇)

旗空はく:藤原柏正(元宇宙艦隊司令)

須佐之すさの:秋山出雲(宇宙艦隊司令長官・艦隊司令)

久司ひさし:武山隆二(宇宙軍病院医師)

忠則ただのり:杉本幸助(一級建築士・測量技師)

桜子さくらこ:小野寺桃香(気象予報士・地質学者)



この子供たちは、これからの発展に欠かせない存在。技術そのものであり、知識そのものである。

大切に守っていかねばならない。




そういえば、「おのころ」は非常に巨大であるがゆえに、一般居住区と軍区を明確に分ける方針の様である。船であるという事実も隠していくつもりらしい。


惑星と言うものに里心が芽生えて、内部の混乱を招きかねないのと…安全と豊かさを与えることで穏やかな国民性を保つことが目的らしい。


それが国民の為になるのかどうかは、後の歴史家の判断に任せよう。


歴史家という概念すら生まれてこないであろうが…




来年度付けで、その方針が適用され生活に色々な制限が付くようではあるが、衣食住は完全に保証されるという事である。


それ以前の歴史については、政府関連施設と軍上層部の施設の巨大なサーバー内に厳重に機密保持されて保管されていくらしい。





あと数世紀もすれば「おのころ」が全てであり、自分の住むエリアが全てであるとの認識になるであろう。


しかも、誰一人その環境に異を唱えるものも不満をならすものも現れる事がないであろう。




管理されていると言えば言葉は悪いが、居心地の良いまさにパラダイスのような世界。



それが「おのころ」なのかもしれない。






余談ではあるが、10名の子供たちは年齢は重ねるが肉体的な年齢は、だいたい18歳で止まる。


その為、その他の国民に対して不審な思いを抱かせぬように、30年に一度は冷凍睡眠に入ることになっている。


これに関しては、本人たちのストレスの蓄積を抑える効果もあるので異論はないが…



不老と言うのは、いささか人間の感情・精神に多大な負担を強いるのかもしれない。

時は有限であるからこそ、活力も生まれると言うものであるから…






「おのころ」は様々な思惑を乗せて、広大な宇宙にゆっくりと漕ぎ出していった。



時と場所は違えども、人間はいつも放浪者なのかもしれない。






                                    完

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