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脱出。

次の日、急に秋山から連絡が入った。


「和泉、こちらの都合で補給艦での移住は来週ではなく本日行うことになったんだ。他の移住者にも連絡を回しているところなんだ。申し訳ない。」


「そうか…分かった。すぐ準備して軍港に向かうよ。」


ドクンと心臓が鳴った。

昨日の楽しい時間でかき消されていた胸騒ぎを、今はっきりと感じた。


軍に在籍していたころからたびたびあった感覚ではあるが、これには何度か助けられてもいた。


でも、なんだろう…とてつもなく良くない予感だ…



そう思いつつも、妻を子供たちを急かしながら軍港へ向かうリニアモーターカーに乗り込んだ。




軍港につくと既に大勢の人で溢れかえっていた。


今回は、補給艦100隻での航行である。

1隻当たり5000人は乗れる大きな船だ。しかも内装は改装されていて豪華な客船の面持ちである。


半分は物資を積むスペースとなっている。


「にほん」の最後の住人である48000人程を乗せていく予定であった。


それぞれ乗船する船を割り当てられ、次々と各船着場へのモノレールに乗っていった。



俺たちが乗る船には、主に宇宙軍居住区の住人が乗り込むことになっていた。



乗船すると、それぞれ船室が既に割り当てられている様子だった。

俺たちには艦首近くの個室を用意されていた。


近くには反町博士の部屋があり、たくさんの子供たちが一緒だった。


「奇遇ですね、博士。その子供たちはもしかして…」


「ああ、こんにちは。そうなんだよ。この年になって面倒みるのが大変でな。」


どうやら、牡丹、フユキ以外の8名の子供らしい。



廊下で話し込んでいると、通路の向こうから秋山が歩いてきた。


「おお、秋山。見違えたぞ。今は元帥閣下だったな。」


「和泉、やめてくれよ。お前に押し付けられたんだ。」


お互い握手をしながら言い合った。


「秋山。五分程…いいか?」


そう言って、船首にある脱出ポッドの格納庫へ促した。



「どうしたんだよ。こんなとこに連行して。俺はそっちの趣味は無いぞ。」


珍しく軽口が過ぎる。


「秋山、正直に答えろ。とんでもなく緊急事態なのだろう?」


「何言ってるんだよ。来週の補給艦の都合がつかなくなっただけだって。何もないよ。」


「…秋山。俺がこのピリピリした空気を感じれなくなるほど呆けたとでも思っているのか?お前もこんなところにいる場合じゃないはずだ。手短に済まそうぜ。」



お前にはかなわないな~と、秋山はため息をついた。


「手短に説明するぞ。以前事を構えた例の帝国だがな、あの後政変が起きたようなのだ。力を持った一部の貴族連中が帝都を武力で制圧したらしいんだ。」


「そこまでなら、我々には何も関係ないのだが…その首謀者の父親がかつての敵遠征軍の総大将の位置にいたらしいのだが、講和が成って帰国すると敵と内通していた逆賊との汚名を着せられ誅殺されたらしいんだ。要するに皇帝に国民感情を抑えるためのスケープゴートにされたって訳だ。」


「その一族郎党が粛清されたのだが、今回の首謀者はその粛清された人物の息子だったのだが、一番勢力を持った貴族が子供に恵まれなかったということで養子としてその家に入っていたおかげで粛清の対象から逃れたわけなんだ。」


「ただ、当主が亡くなりそいつが新たな当主の座についた途端のこの事件って訳さ。で、彼は一族粛清の元凶を作ったとして、我々に逆恨みをしているようで…」



「なるほど、既に遠征軍がこちらに向かっているわけだな?それなら合点がいく。が、もう一つだ。」


「ふむ、なんだい?」


「もう一つはこれさ。」


俺は脱出ポッドを指さした。


「この近くに俺の部屋を割り当てたのは偶然か?」


「…俺にもいるんだよ。」


「?」


「反町博士の部屋にたくさんの子供たちがいただろう?その中の一人が俺の子供なんだ。」


初耳だった。


「そして、和泉。お前の子供も俺の子供と同じなんだろう?何かあった時は…その時はあの子供らをこれで脱出させてあげてくれ!我々人類における希望なんだ!」


「なるほどね…理解したよ。その時はそうするよ。」


「恩に着るよ。」


「なあ、秋山。無茶な事はするなよ。また生き延びて向こうで酒でも飲もうよ。」


「そうだな。閣下の御為なら…」


久しぶりに聞いたぞ。


「そういや、秋山。お前の子供は何て名前なんだ?」


「男の子なんだが、須佐之すさのて命名したよ。」


「ははーん、お前の大好きなスサノオにあやかったのか。いや良い名前だよ。」


「そうだろう。俺は、秋山 出雲って名前だからな。スサノオの出身地と同じ名前なんだ。なんか運命のようなものを感じてな。以前も言ったが、日本を作った神はイザナギとイザナミだ。イザナギの那岐ナギはフユキとも読めるんだぜ。そうなると、楓花さんはイザナミかな。」


この手の話題になると途端に饒舌になる秋山であった。



「おっと、こうしてはおれん。和泉、さらばだ。」


そう言うと秋山は駆け出していった。


―だから生き残れよって…





それから2時間後に補給艦の群れは、500隻の護衛艦隊と共に「にほん」を後にしたのであった。




その後方で、「にほん」が人知れず爆破処理されたのだった。

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