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家族。

数年経ったある日。


牡丹とフユキは、いつものように学校に出かけて行った。


そう言えば、この宇宙軍居住区からも随分と人が減ったな。

新造船建設プラントの惑星駐留の艦隊も増員されて、その家族たちも移住していったのであった。


一般居住区に至っては、一部の公務員くらいしか残っていないはずである。


ただ、「にほん」の宇宙軍が大幅に増員されているのが気になるところである。

しかも、その家族たちは優先的に移住させてもらっている。



とは言え、俺は一番に移住できる権利を得ていながら後回しにしてもらっているのだが…



そんなこんなで、本日は楓花の退院日である。


筋肉に対するアプローチは、依然として脳波信号を送って筋肉に埋め込んだ端子に電気を送る装置に頼らざるを得ないのだが、視力の方は奇跡的に回復したようである。


当初は、体を動かすのに力加減が定まらずに苦労したものだが、数年に及ぶリハビリの甲斐あって強く意識しなくても思い通りに動かせるまでになっていた。


言葉の方も、何も不自由のないくらいまでには発声出来るようになっていた。



本日は、一足早く退院祝いと称して二人だけでランチに出かけようと思い、唯一営業しているレストランに予約を入れている。


もちろん、夜には本祝いと称して子供たちを交えてパーッとやるつもりである。



いつもの病室。


そこにはこちらを見て微笑んでいる楓花がいる。


「退院おめでとう。」


なぜだろう、涙が止まらなくなっている。



なんだか逆に慰められている体になっている俺がいた。


「ありがとう。」


更に逆に抱きしめられてしまった。

ああ、情けない…



退院の前に反町博士のところへ挨拶に伺った。


そこでお礼とちょっとした疑問を投げかけてみた。


「そういえば、博士。うちの子供らには、私と楓花の「記憶」が刻まれているのですよね?至ってどこにでもいる様な普通の子供にしか見えないのですが…私たちに気を使って表に出さないだけなのでしょうか?」


「あれー!?説明してませんでしたかな!?」


博士は、逆にびっくりしたように言った。


「それは、失礼した。実は、記憶の解放にはある条件を付けてあるのです。物事の分別が付く年齢として18才で解放される仕組みになっております。でも、例外として…その年齢に達する前にオリジナルが…あ、この場合はあなたと楓花さんですな。が、死亡または死亡したと認識されたときに解放されるように設定しております。」


「なるほど。寧ろ育ててる側からすれば、そちらの方がありがたいですがね。」


「それはそうと、和泉さんのご一家も来週の輸送船でコロニー都市に移住されるのですかな?」


「はい。そのように手続していただきました。これで、宇宙艦隊以外の人間はいなくなりますね。」


「ふむ、その後で「にほん」を爆破処分するらしいね。なんだかさみしい気がするね。」


「ええ。同感です。」







俺たちは、病院を後にしてレストランへと向かった。


楓花は、違和感なく歩いてはいるが、やはり疲れやすいらしくて、ゆっくりと歩調を合わせた。



「中将さ…いや、冬樹さん。今まで本当にありがとう。なんて言ってお礼したらいいのか…」


いろいろな感情が混じりあって感極まったのか、手で顔を覆うようにして泣き始めた。


「楓花、俺にとって君は、既に家族だったんだよ。思えば君が俺の艦隊に配属されてきたときからかもしれないね。」


「俺は、君を大切に思っている。牡丹もフユキも同じくらいに大切だ。」


年甲斐も無く緊張のあまり頭の中が真っ白になってきている…


ちょっと深呼吸…


「いいかい。この気持は本物なんだ。だけどね…一つだけ問題があるんだ。」


楓花は、涙をハンカチでぬぐいながら怪訝そうな顔を向けた。


「これらは俺の気持ち。俺だけの感情。つまり、一方通行の想いなんだよ。」


何か言いかけた楓花を手で制した俺は、ポケットから小さな箱を取り出した。


「俺と結婚してくれないか?これまでも家族だったが、これからも家族で…そして夫婦でありたいんだ。」


小箱の中から指輪を取り出し楓花の前に差し出した。


「はい。」


大粒の涙を流しながら小さな声で応えてくれた。




それからは、ランチに何が出てきたやらどんな味だったかやら…一切覚えていない。


ただ、ひたすら彼女の笑顔が眩しかった。




今夜は初めての家族水入らずであった。


子供たちにとっても、もちろん俺や楓花にとっても新鮮で至福の時間であった。



楽しい時間も夜更けの闇の中に微睡んでいったのであった。





夢のような心地の中で、何かしらの胸騒ぎにがしていたのだが、それがなんなのか気付かないでいた。

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