転機、そして終戦へ。
「恒星から巨大なフレアが発生!」
「いよいよ反撃開始だな。」
恒星で発生した巨大なフレアの影響により、猛烈な太陽風が吹き荒れることになる。
秋山は、黒点の位置などから、次のフレアの発生場所とそこで起きるであろう太陽風の規模と流れを事前に計算していた。
後方の乱流帯も太陽風の名残りであった。
後方の乱流が弱まり、次は敵の後方を太陽風が流れる計算である。
秋山は、後方にて予備戦力としていた内山少将の艦隊を密かに背後の乱流帯を抜けさせ、恒星に近づきつつその太陽風に乗せて、敵の後方を錯乱させようとしていた。
更に敵の艦隊と艦隊の間を通るようにミサイル群を射出させて、艦隊同士の連携を断ち、全軍を一つにまとめ、本隊正面の艦隊に総攻撃をかけ、後方の太陽風に追いやる作戦である。
その後、太陽風に大量のミサイル群を乗せるように射出させて、その先に布陣している敵の艦隊群を後方から攻撃する。その際、敵が我々が元いた小惑星群に殺到するであろうから、あらかじめ熱感知式機雷をタイマーをセットした上で小惑星上にばら撒いておく。
その混乱しているであろう各艦隊を各個撃破する。
あらかた有利に展開したところで、敵艦隊及び敵本国に対して講和を持ちかける。
以上が、秋山の計画した作戦である。
そしてもう一つ、秋山は「にほん」に対して何かを用意するように指示をしていたようだが…
内山艦隊が、動きだし作戦が開始された。
二時間後―
本隊の正面には、3つの敵艦隊が布陣しているのだが、その一番恒星寄りの艦隊に対して、内山艦隊は太陽風に乗って攻撃を開始した。
それと同時に他の艦隊から、敵の各艦隊の間にそれぞれの側面を狙うように大量のミサイル群を発射した。
俺の艦隊も本隊と合流して、本隊の真正面の敵艦に対して総攻撃を開始したのであった。
いささか虚を突かれた形となった敵艦隊は、程よく乱れて後退をしつつ防御に回るかたちとなり、後方部隊は太陽風に流され始めた。
その期を逃さずにレーザーを斉射しつつ突撃を続ける。
敵の一個艦隊に対しては、我々全軍なら数の上ではほぼ互角であった。
ジリジリと敵を太陽風に追いやり、半数以上が崩れた段階で大量の誘導型のミサイル群を太陽風に乗せるように発射した。
敵の最左翼艦隊と交戦している内山艦隊に対して、佐藤、佐竹両提督の艦隊を援軍として差し向け、崩れつつある正面艦隊への追撃は、俺の艦隊が受け持った。
我が軍主力は、ミサイル群の後を追うように太陽風に乗り、敵の艦隊群の後方を反時計回りに回り込みながら、次々と敵艦隊を小惑星群に追い込んでいった。
小惑星群に追いやられた数万隻の敵艦隊は、大混乱を起こしつつ100万個にも及ぶ機雷の餌食となっていった。
その時、恒星の裏面より無数の…数万個に及ぶ物体がこちらに向かっているとの報告が入った。
―これが秋山の切り札か。
―バレなきゃいいのだが…デコイだろ?これ。
その間も、我が艦隊の各部隊はそれぞれ攻撃の手を休めることは無かった。
そして、総旗艦より敵本国と敵艦隊に向けて講和を申し込む旨の通信が行われた。
「貴国と我が国とのこの争いは、不幸にも偶発的な遭遇戦より始まった。元より両国に遺恨など存在せず、我が国も貴国を害するつもりはない。このまま、無意味な戦闘を続けて優秀な人材を失う事に深い懸念を持つものである。」
「だが、我々も国を守る為なら是非もない事である。このまま作戦行動を中止しえない時は、温存していた我が国最強の艦隊を投入し、貴国の艦隊を壊滅せしめるであろう。そして禍根を断つために更なる行動に移らなければならないであろう。」
「聡明であると信じている貴国の指導者たちよ。我々の申し出を受け、軍を引かれることを切に祈るのみである。そうすれば我が国も軍を引き、今後一切の干渉は行わないであろう。」
必要以上に威圧的に発せられたこの声明は、各艦隊にも自国語に翻訳され伝達されたのであった。
―声明文は、これでよいが…
―もし、相手がこれを呑まなければ…我が軍が危機に陥るな。
実際、恒星裏から現れた艦影は、すべてデコイである。
このまま追撃を重ねても、そろそろ我が艦隊も行動の限界点である。
未だ10万隻前後が戦闘可能な敵艦隊に対して、我が艦隊の戦力は微力に過ぎなかった。
それでもこの戦場に置いては、情報が分断されて全容を把握できないでいる。
敵艦隊の士気が下がっているのが、目に見えて分かるほどである。
3時間の後に、敵本国からの解答があった。
「貴国からの申し出を受け入れる。我が国にとっても国家の危機に値する事態の為の防衛策であった。この先に遺恨を残さぬようここで停戦の合意を交わし、両国の友好の証しとすることを希望する。」
両国の艦隊から、安堵のため息と歓声が上がった。
程なくして、相手側の総司令官と高橋大将との通訳を交えた通信により、両国間の戦闘を終結させる旨の合意がなされたのであった。
それぞれ撤退していく相手艦隊を、我々はその場で見送ったのであった。
その場で見送るしかなかった…の方が正解であろうか。
我が軍の消耗は、予想を遥かに超えて甚大であり、艦列を整えて見送ろうものなら、我が軍の消耗率を相手に悟られる形になり今後に影響が出そうだったからである。
要するに破損艦、大破艦含めての擬態の陣容だったのである。
相手艦隊が、無事にこの空域を離脱し本国に向けてのワープを行ったのを見届けてから行動を開始した。
負傷者等の救出とデコイの回収、破損艦、大破艦の回収等である。
我が宇宙艦隊は、田中提督を始め、本隊の約8割が失われていた。
俺の艦隊も7割が消失し、部隊としてほとんど機能していないという感じであった。
実際、旗艦含めて損傷していない艦は存在していなかった。
俺は破損艦、大破艦、撃沈された艦のリストと負傷者、死傷者リストを見つめて大きなため息をついていた。
負傷者リストの中に「麻生 楓花」も含まれていたのである。
旗艦被弾の際に転倒して頭部を強打。意識不明の状態が続いて艦内の医療設備では、これ以上手が付けられない状態であった。
―楓花、頑張るんだぞ。
―俺が必ず何とかして見せるからな。