大会戦へ。
一斉に放たれた無数の青い光の矢は、一直線に進んでいった。
ワープアウトを終えたばかりの敵艦隊は、状況を飲み込めず混乱していった。
間断なく繰り返される攻撃に次々に朱に染まっていく様子が、モニターで確認できる。
ただ…
瞬く間に散開し始めた。
―やはり機動力に修正かけてきたか…
「左右から弧を描くように敵の左右両翼にミサイル群を打ち出せ!前方には全艦レールガンを一斉掃射!加えて前方にレーザーシールドを全開で展開させろ!」
敵艦隊は、両翼より外側に向けて熱源体を放出し、更に回避運動を開始した。
熱感知式のミサイルは、熱源体におびき寄せられ弾けた。誘導型ミサイルのみ敵艦隊に向かったが、敵の弾幕に阻まれた。それでも幾分かの損害を与えることには成功したようである。
レールガンにしても、直線的にしか進めないので軌道を読まれると避けられるのだが、敵が未だ混乱していたために意外と効果をあげた。
レーザーシールドを展開している戦艦の後方から、巡洋艦の主砲で斉射を続けていた。
戦闘開始から5時間が経過したころには、敵の指揮系統が完全に回復していた。
―これは、危ういぞ。
―秋山の計算は、これも想定しているのか?
「よし!頃合いであろう!ゆっくり後退しつつ攻撃を続けよ!更に敵が接近したならミサイル及びレールガン全弾放出の上、斉射三連にて敵がひるんだら反転離脱する!」
我が艦隊は、後退しながら散開して両翼を伸ばしつつ、次のタイミングをうかがっていた。
すると、敵の前進が止まり射程外に出たのであった。
「閣下!ここは今一度前進して敵を誘いましょう!」
原田少佐が、勇んできた。
「我々の目的は、既に下知したと記憶しているが…原田少佐、ここで多少の功をあげてもそれ以上の犠牲を出しては元も子もないのだよ。今までの経験から相手も無駄な追撃を控えたのであろう。寧ろここは引いて本隊と合流するのが先決と考えるのだが。」
「しかし…」
「原田殿、もしここで我らが前進してくるのを待つという敵の策であったなら…貴官はどう対処するおつもりなのだ?もちろん対応策ありきで進言しておるのであろうな?」
滝口少佐が、釘を刺すように言うと原田はうなだれた。
「では、逃がしてくれると言うのだから、素直に受け入れようではないか。反転し離脱を計る!」
全艦反転し全速で離脱を開始した。
―この様子だと、他の伏兵の四艦隊は無事であろうか…
田中少将の部隊は、かつての第四艦隊分艦隊として、二度に渡って敵と砲火を交えたことが、逆に災いしたようで突出しすぎて甚大な被害を出し、旗艦もろとも吹き飛んでいた。
残存していた麾下の部隊は、それぞれ散り散りに遁走していた。
残る3つの艦隊も、3割ほどの被害をこうむって、命からがら転進していた。
結果としては、成功とはいいがたい結果になった。
相手被害数の方が、遥かに多いのだが…元の数が違い過ぎるのだ。
出現ポイントを言い当てると言うゲームだったなら、圧勝であったであろうが…
とにもかくにも、本隊が防御陣を築いている小惑星群の宙域へと急いだ。
防御陣に近づくと、艦隊旗艦よりの入電により持ち場の座標と取るべき方針を知らされた。
田中少将の部隊の敗残艦隊は本隊に編成され、佐藤少将は本隊左翼、佐竹少将は本隊右翼、内山少将は本隊後方にて予備戦力として配置された。
俺の艦隊は…
なんだろう…
小惑星群の乱流帯の本体から見て下流側、本隊最左翼の位置であった。
これって…
一番重要でやばいやつじゃね?
―秋山。恨むぞぉ~
一日おいて敵の大部隊が到着し、我らを半包囲する形で布陣してきた。
本隊は、右手に赤色巨星、左手に俺の艦隊と…正面の敵に集中できるが、俺の艦隊は、正面と左翼方向の二正面を防がねばならない。
―せめてあと3000隻くれよぉ~
兵力的には、圧倒的不利なこの戦いではあるが、小惑星群という地の利を生かし寡兵にて右へ左へ悪戦苦闘しながら敵の侵入を何とか防いでいた。
とはいえ、このままの状態では圧倒的な物量の前に、ただただジリ貧になっていくのみである。
―秋山には、何か策があるのだろうか?
―いや、あるはずだ!
こうなっては、そう言った妄想を抱かずには戦ってられない。
自分自身も半信半疑のまま部下たちに叱咤激励するのに要する精神力は並大抵のものではない。
疲労困憊の中、楓花の笑顔が飛び込んできた、
コーヒーを差し出すその手が震えているのは、誰が見ても明らかで、笑顔もどことなくひきつっているのも気のせいではないだろう。
なんだか無性に可笑しくなった。と同時に思い出した。
この子を…皆を無事に生還させるんだ。
そう思ったところに異変が生じたのであった。
「閣下、右側面方向の恒星表面に異常を確認!」
と同時に、総旗艦からの通信が入った。
「和泉中将、反撃の時が来たれり!ですぞ。」
モニター越しに秋山は不敵な笑みを浮かべた。