風雲急。その2
情報を察知してから五日後、敵の大本営発表が発せられた。
大動員令と共に各地より各々出陣する様子である。
その予定日が更に三日後。
少なくとも五個艦隊15万隻。補給艦、工作艦及び諸々の艦艇合わせると20万隻にも及ぶ大艦隊であろうと予想された。
ただ、固まって来るかと思われた敵艦隊が、5つのルートで来るらしいとの情報も入ってきた。
これも内部事情って奴の成せる業なのだろうか…
この敵艦隊の動きが我々にとって、吉となるか凶となるか…神のみぞ知るというものである。
ともかく、迎え撃つべき宙域は、候補地・丙と相成ったのである。
この宙域は、赤色巨星と化した恒星の星系で、有人惑星の類は無いようである。
かつては有ったのかもしれないが、今となっては知りようがない。
強力な恒星風の加減で、乱気流のような帯状の空間に無数の小惑星がひしめく、ほぼ通行不可能な宙域があり、その帯に沿って、はぐれた小惑星群が無数に点在していた。
「にほん」をこの恒星の裏側に隠し、乱気流の帯を背に小惑星群に身を隠して戦う予定なのである。
そして、その宙域に向かうための最短ルートになるワープアウト地点を、幾つかピックアップして伏兵を置くことを画策していた。
ここに至っても、ステルスシールドが未だ有効であることを祈るばかりである。
泣いても笑っても、既に賽は投げられたのである。
出来うる限りの万全を期すのみである。
かくして、艦隊司令より田中、佐藤、佐竹、内山、4人の少将と俺の元に伏兵の任の下知があった。
4人の少将には、それぞれ3000隻が振り分けられた。
俺は、麾下の艦隊3300隻での出陣となる。
5つの艦隊は、秘密裏に進発し目標地付近で身をひそめることとなった。
敵艦隊が出陣してから、こちらに到着するまでには、約五日間の猶予がある。
死刑宣告にも似たカウントダウンを各々それぞれの思いを持ちつつ待ったのであった。
あっという間にも永遠の永さにも感じ得たであろう。
俺は―
とりあえず、楓花の手料理を食べることに専念するつもりだ。
この子だけは、何があっても守って見せる。
俺は初めてやる気と言うものを出したような気がする。
移動の道中、基本的に皆に交代で自由時間を与えることにした。
その前に、この会戦におけるこの艦隊の役割と戦いに際しての心構え…と言うか方針を全艦に放送した。
「この度の会戦に限らず、我々の役目はあくまでも「にほん」を守ることである。とはいえ、無理をすることは無い。諦めず常に活路を見出すのだ。我々が居なくなっては「にほん」を守るものが無くなるしね。」
「今回の作戦については、敵を無理に全滅させようとは思わずに理性をもって行動していただきたい。あくまでも、敵の出鼻をくじき戦意を削ることが目的である。副産物として敵の戦力が削れるものと心得よ。」
我ながら甘いと思わないでもないのだが…
どうも自己犠牲は性に合わないし、玉砕など論外である。
最終的に立っている側になれればいいのである。
なにより…
楓花が喜んでいてくれているので、これが正解と思いたい。
さてと敵がこちらの思惑通りに動いてくれると助かるのだが…
この思惑自体傲慢であるな、相手側もそう願っているのであろうから。
他の艦隊との連携がうまく機能して、高橋大将の指揮能力と秋山の策略がうまくハマれば生き残れそうだがね。
二日後には、予定通り目的宙域へと到着した。
これから何事が起こるとも知らずに、ただひたすら静寂であった。
自宅にいるかのように俺はくつろぎながら、楓花の入れてくれたお茶を啜っていた。
「星たちは、俺たちが一生懸命もがいている様をどのようにみつめているんだろうな。」
モニターに映る星の群れを眺めながらつぶやいていた。
「閣下をご覧になった星々にとって、果たしてその様子が一生懸命もがいている様に映るのでしょうか?」
クククッと笑いをこらえながら楓花は答えた。
―違いないや。
―でも心の内では必死にもがいているつもりさ。
数日後―
ブォーン…ブォーン…ブォーン…
けたたましい警告音と共にその静寂がやぶられた。
既に艦列を整え終えていた艦隊は、前方宙域に注視していた。
「重力場の乱れ検知!広範囲に物凄い数の重力振確認!ワープアウトしてきます!」
俺は右手を振り上げた。
前方宙域に敵艦が視認できた刹那、その手を振り下ろした。
「攻撃開始!一斉斉射!」
ここに死闘の幕が切って落とされたのであった。